赤岳  長野県 2899m            百名山 
 


2016年11月29日(火)

 先週痛む足を引きずりながら歩いた権現岳。道すがら何度も目にした赤岳は凛として他を圧倒する存在感があった。そんな山容が頭のどこかにしっかり刷り込まれていたようで、無意識のうちに次はこの山を歩くと決めていたようだ。訪れてみれば、折から到来した寒波で一週間前の夏姿は俄かに冬の装いに一変。雪の衣をまとった赤岳はやはり八ヶ岳の盟主に相応しい素晴らしい山だった。

 まだ夜の明けやらぬ午前6時前に赤岳山荘に到着。3シーズン目を迎え、すり減った冬タイヤに凍結した坂道はヒヤヒヤものだったが、何とか無事に辿り着けた。外気温は車載の温度計でマイナス5度と都会の暖かさに慣れた身には凍てつく寒さだ。


             登山口の積雪状況                        南沢を遡行するにつれて増える雪


 6時5分、ソフトシェルにゲーター、両手にウイペットという雪支度で駐車場を後にする。本日の行程は、行者小屋を起点に地蔵尾根から赤岳の頂を踏み、帰路は文三郎尾根へ周回するというオーソドックスなもの。歩き出すとすぐに北沢と南沢の分岐点がある。迷うことなく行者小屋への最短コースである南沢を選択した。


             横岳が見えてきた                           稜線に朝日が当たり始めた


 スタート地点では数日前の南岸低気圧通過で積もった雪が融けて地肌が露出していたが、歩くほどにその面積は減少し、いつの間にか周囲は白一色となった。木々の枝には薄っすら新雪も積もっている。正面に横岳の大岩壁が望めるようになると行者小屋はもうすぐだ。

 2時間10分かけて行者小屋に到着。営業は終了しているので人気も無く静かなものだ。テント場にはポツンと一張のテントがあった。


陽を浴びる阿弥陀岳 手前にはテントが一張


 行動食を腹におさめた後は、久しぶりに12本歯の鉄製アイゼンを装着する。山スキーで愛用しているアルミ製10本歯と比べると遥かに重いがその分堅牢。岩と氷がミックスする稜線を歩くにはこれに限るのだ。


          地蔵尾根に入る トレース拝借                      大同心、小同心が間近に


 地蔵尾根に向けて歩き出すと、新雪の上には二人の登山者が付けたと思しき真新しいトレースが残っていた。おそらくテントの住人のものだ。お蔭さまで単独ラッセルを強いられずに済んだ。有り難くトレースを拝借させてもらう。

 西向きで陽の差さない森の中、寒さが身に堪える。寒気慣れしていない指先の感覚がすぐに無くなるので、何度も立ち止まり両手をもんだり、すり合わせたりして指をマッサージ。これで多少は血行が改善したのか感覚が戻ってきた。


                鎖の状況                                   同左


 そうこうするうちに愈々斜度が増して鎖や梯子の連続する急登となった。まだ雪に埋もれきっていない鎖を掘り起こすこともできるのだが、ダブルウイペットでホールドは十分確保できるのでその必要はなかった。


           お地蔵さんの顔にはエビ                            横岳は穏やかだが、、、



猛り狂う赤岳


 稜線に出ると待ち構えていたかのように強烈な西風の洗礼を浴びた。これぞ冬の八ヶ岳だ。ただのべつ幕なしに強風に叩かれるわけではない。風の通り道もあれば、風が息をつくところもある。ともあれ突風に用心しながら、氷結した斜面にアイゼンを効かせて登って行く。


鎖は殆ど埋没



痩せた岩稜を越え、、、



山頂に立った 北アルプス方面は雲の中


 10時25分に赤岳の頂に立った。正確に言うと10mほど手前にある東側斜面の窪みだ。ここは風よけには格好の場所だったので、ここで一休み。とは言え寒くてとても長居はできないので、山頂滞在は15分ほどで切り上げ、中岳方面へと下り始める。


赤岳頂上小屋



権現岳 その後ろには南アルプス



阿弥陀岳 左奥は中央アルプス


 この辺りが冬の赤岳の核心部。ルンゼ状の急斜面を抜けてから南側をトラバース気味に下降していく。雪は安定しているし、鎖もまだ露出しているので不安は無い。


下山開始 右に回り込んでいく



山頂直下ですれ違った3人パーティ


 途中で3人パーティ、カップルの5人とすれ違った。その後に続いていた単独の若者は何故か斜面にへばりついたまま。ここまで登ってきたものの、山頂直下の急斜面に恐れをなして引き返えそうか、どうしようか逡巡しているらしい。4年前の冬、同じ場所で友人が危うく滑落しそうになった記憶が蘇り、思わず「決して無理しないように」と声をかけてしまった。


トラバース部分 鎖は半ば埋もれていてちょっと嫌らしい



ここまで下りてくれば一安心



赤岳に別れを告げる



中岳、阿弥陀岳 さようなら



横岳 さようなら


 中岳へと続く稜線を離れ、文三郎尾根を下る。階段の形そのままに雪がついているので歩き難いことこの上ない。下山を始めて1時間ほどで行者小屋に帰着。水分補給のため小休止しただけで下山を再開。登山道は相当区間凍結しているのでアイゼンは外さずにおく。


再び行者小屋より この後ガスで山頂が隠れてしまった


 午後1時35分、アイゼンを引っ掛けヘッドスライディングすることもなく、尻餅をついて尾てい骨を痛めることもなく、天候にも恵まれて今シーズン初めての雪山ハイクを大満足のうちに無事終えることが出来た。


行動時間  7時間30分


後記
 
 帰宅途中、立山における痛ましい遭難事故のニュースに接して驚いた。立山での初滑りを計画していたものの、立山なだれ情報サイトの「非常に危険な状態」の警報を受けて断念した経緯があるだけに決して他人事ではない。故人のご冥福をお祈りするとともに、雪山の顕著なリスクを前にしたら石橋をたたいても渡らない慎重さが肝要と改めて自戒させられたのだった。


  
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