西穂高岳  2909m 長野・岐阜県      百名山
 

2013829日(木)

第一日目より

 昨夜はせっかく布団一枚を確保できたのに同室者のたてる傍若無人の騒音が気になってあまり熟睡できなかった。山小屋はそんなものと諦めてじっと朝を待つ。

 午前
4時、予定時刻になったので起床。静かに布団をたたんで部屋を後にする。テントと違いパッキングも簡単だ。昨夜渡された朝食代わりのお弁当を出発前にしっかり腹に納めておく。

 東の空が少し明るくなってきた
430分、ヘッドランプを点けてクライミング開始。ペイントのマーキングを忠実に追いながら山頂を目指して登って行く。頭上には、いくつか先行者のライトがちらちらしている。

 40
分弱で奥穂高岳山頂に到着。いよいよここから私にとって未知の領域だし、今回の山歩きのクライマックス。稜線はすぐに痩せてきて弥が上にも緊張感が高まる。


              奥穂高岳山頂                                馬の背へと向かう


 馬の背にかかると両側がスッパリ切れ落ちていて、その高度感は思わず息をのむほど。事前にこのナイフリッジについていろいろ書かれたレポを読んではいたが、実際の現場は想像以上の迫力だ。なだらかなイメージの馬というより恐竜(ステゴザウルスとか)の背といった方が相応しい。私の前を行くパーティがいなければ、尻尾を巻いて回れ右をしたかもしれない。彼らは男性二人、女性一人の三人組。アンザイレンして最後尾のリーダーが確保しつつ慎重に岩稜を下っている。


          そろそろ下りにかかる                               この高度感



馬の背を下る3人パーティ



鞍部から馬の背を振り返る


 彼らが通過し終わったところを見計らって私も降り始める。他の一般コースであれば鎖やロープが固定されてしかるべき難所だが、そんな人工物は一切ない。幸いホールドやスタンスはしっかりしているので三点支持の基本を守りながら、あせらずゆっくりと進んで行く。

 鞍部まで下り終えた頃、ジャンダルムに朝日が射し始めた。しかし景色に見とれるのは後回し。マーキングを外さないようにして無我夢中で岩稜を登る。


朝日に映えるジャンダルム



ロバの耳を登る3人パーティ


 歩き始めから
1時間を過ぎて頭と体がほぐれてきたのか、それとも単に高度感が麻痺したのか、それほど怖いという思いもせずに、ロバの耳を通過しジャンダルムの基部に着いた。先行パーティは奥穂側からこの岩峰を直登するらしい。私は教科書通りに西穂側へと回り込む。登り易そうなルートを選んで攀じ上り、6時丁度に頂に立った。


             右のプレートがエンジェル                        奥穂側からの直登組


 頂上には誰も居らず、どうやら私が本日の初登頂者らしい。周囲の景色を眺めながら感激に浸っていると、先ほどの
3人パーティが奥穂側から登ってきた。ガイドらしきリーダーの語る山頂のエンジェルについてのウンチクを興味深くもらい聞きする。

 しかし今日はまだ始まったばかり。先があるので余りのんびりはしていられない。続々とやってきた人達に押されるようにして下り始めた。


西穂高へと続く縦走路


 一足先に下りた赤ヘルメット氏の後を追うが、飛ぶように岩稜を乗り越えていくので見る見る遠ざかってしまった。従いルートを教えてくれるのはマーキングだけ。それに先行者に落石を見舞う心配は無さそうだ。再び三点支持に神経を集中して四足歩行を続ける。


まだまだ緊張は続く


 緊張のせいか時間の感覚は余りなく、気が付けば天狗のコルに到着。ここには殆ど土台だけになった避難小屋跡があった。岳沢小屋へのエスケープルートを覗いてみるが、えらく急峻なガレ場でエスケープするにも相当の覚悟が要りそうだ。


               天狗のコル                                  避難小屋跡


 この辺りでテント装備を背負った若者に道を譲る。彼とはその後西穂山荘まで付かず離れずで歩くことになった。道は相変わらず険しいが、要所要所には鎖が付いているので余り不安はない。緊張を強いられる場面が少なくなってきた代わりに、脆い岩と浮石が多くなってきた。時折逆コースを歩く人達とも行き合うようになったので、念仏のように浮石落石に注意と唱えながら慎重な足さばきを心がける。


 やがて逆層スラブに差し掛かった。長い鎖にすがって難無く間天のコルへと降り立った。ここから間ノ岳や赤石岳などのピークを越えて行く。向かう先には西穂高岳の頂に立つハイカーの姿が見えていて早くおいでと招いているかのようだ。


逆層スラブの下り



西穂高岳が間近


 
915分にようやくその西穂高岳の山頂に立つことができた。ここで初めて大休止。今回をもって穂高と名のつくピーク全てに足跡を残すことができたので感激もひとしおだ。素晴らしい景観を何度も目に焼き付けて、穂高連峰に感謝と別れを告げたのだった。


              西穂高岳山頂                                来た道を振り返る


 10
時近くなり天気は少し下り坂。名残も惜しいがそろそろ下山にかかる。西穂の山頂を後にするといつの間にかガスが湧きあがってきて、見る見る頂がベールに閉ざされてしまった。


            西穂山荘への下り                               独標を越える


 崩れやすい斜面や鎖があったりして決して気を抜けない道がまだまだ続く。独標を含め幾つかの細かなピークを越えて西穂山荘に到着。すぐ近くの千石平までロープウェイで上って来るのことのできる別世界、観光客も含めて沢山の人で賑わっていた。


             西穂高山頂は雲の中                           大賑わいの西穂山荘


 ここからは膝への負担を軽減するため、ダブルストックをついて上高地へと下る。登山道の周辺にはトリカブトなど高山の花々がまだ沢山咲き誇っていて目を楽しませてくれた。所々急坂もあるが、総じて歩き易い道を下り続け、これまた別世界の梓川沿いの遊歩道へと出た。

 観光客に交じって花咲く梓川沿いを散策し、午後
130分にバスターミナルに帰着。20分毎にバスが運行しているので待つことなく一路沢渡へ。車をピックアップして駐車場近くの日帰り温泉へ直行し、一人占めの風呂で汗を流して大いに満ち足りた気分で帰宅の途に就いたのでした。


行動時間 9時間


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