黒部源流BC         
   


初日

4月29日(日)

 午前2時起床、3時出発。朝の冷え込みで雪が緩んでいないことが懸念されるが、出発が遅いと日暮れまでに新穂高に下山できないリスクが増してしまう。昨夜は遠足を前にした小学生のように神経が高ぶり何度も目が覚め、眠りが浅かった。二晩続きの睡眠不足はボディブローとなって後できいてきそうだ。


太郎平小屋を後にする私


 太郎山へはシートラで直登する。頭上には満月、眼下には富山市の夜景が広がっている。そこにヘッデン二灯が加わる様は、何とも幻想的だ。太郎山から緩い下りはスキー滑降し、少しでも体力をセーブしておく。

 登りに差し掛かったところでシール登行開始。350mの標高差を登り上げ、最初の目標、北ノ俣岳山頂に着いた。時間調整しながらゆっくり登ってきたので、予定した通り山頂で日の出を迎えることが出来た。少し遅れて新潟から来られたご兄妹が軽快なペースで追いついてきた。


再び北ノ俣岳山頂  滑走の準備に余念がないKさん



水晶岳と赤牛岳の間からご来光


 山頂でシールオフし、中俣乗越まで大トラバースを開始する。カリカリで細かな凸凹だらけの雪面はまるで洗濯板の上を滑るようだ。絶え間ない振動が脳天まで突き上げる。それでもスキーは早い。夏であれば1時間かかるところを20分足らずで中俣乗越に着いた。


トラバースをスタートしたKさん



同私



赤木岳を巻いて行く



中俣乗越へ滑り込むKさん



中俣乗越から黒部五郎岳まで350mの登り



前を行くKさん


 ここから黒部五郎岳山頂までは急登続きだ。まだ堅い雪面にクトーが良くきいてくれる。途中で先ほどのご兄妹に追い抜かれた。お二人はアイゼンのツボ足。スキーよりも早いとはどれだけ健脚なのだろうか。ジグを数えきれないほど切り、7時30分に黒部五郎岳山頂に立った。


夏道は右のハイマツ帯



薬師岳をバックに登高するKさん



山頂までもう一息のKさん



同私



黒部五郎岳の頂



恐る恐るカールを覗き込む



三俣蓮華岳は気が遠くなるほど遥か彼方



カールに向かって山頂を後にしたKさん



同上



山頂直下はエクストリームの世界


 暫しの大休止の後、雪も緩んだ頃合いなので滑降スタート。上から見てカールの左端に移動する。雪が辛うじて繋がっていたが、雪切れは時間の問題だろう。ドロップポイントから見下ろすカールの景色は雄大そのもの。上部はかなりの急斜面だが、雪質は良さそうなので不安は無い。


Kさんがドロップイン クラックを避けながら滑降



滑り出しは順調だったのだが、、、


 いつものようにKさんがドロップイン。続いて私。ジャンプターンを何度か繰り返す。そこで痛恨のハプニング。いきなり前のめりに転倒し、頭を下にうつ伏せの姿勢のまま滑落した。初速が早かったのと雪が緩んでいたせいか、手にあった一本のウイペットのピックを雪面に突き刺しても中々停止しない。GPSログによれば凡そ100m滑落してようやく止まった。

 怪我もしておらず、やれやれと思ったのも束の間、片方のスキーがスルスルと落ちていき、あれよあれよという間にカール底から五郎沢方向に向かって視界から消えてしまった。Kさんは、間髪入れず落としたウイペットを回収すると板の捜索に向かってくれた。

 折角心待ちにしていたカール滑降が台無しになったこともさること、もし板が見つからなければ、私は引き返すしかない。最悪のDNFだなとブルーな気分で一本のスキーを肩に歩いて下った。辺りはスベスベザラメの最高級スロープなのが何とも皮肉だ。それでも不幸中の幸い、標高2500m辺りで板を手にKさんが待っていてくれた。沢の源頭部は比較的斜度が緩やかだったので板はそこで止まってくれたらしい。

 Kさん曰く、転倒の原因は縦溝にスキー先端が刺さったためだろうとのこと。また板が流れたのは、リーシュを取り付けていたブーツのリングが破断したため。理由はともあれ、山スキーヤーにあるまじき転倒+滑落+スキー流失は余りにお粗末と凹んだ気分は暫く収まらなかった。


とぼとぼと歩いて板の回収に向かう私



黒部五郎小舎へ向かって滑降を継続


 気を取り直して滑降を継続し、黒部五郎小舎へ。そこから三俣蓮華岳へと向かう。ここは夏山で一度歩いたところだが、8年近く昔のことで記憶が定かではない。兎も角高みに向かって進むだけだ。最初の小ピークを越え、痩せた稜線に入ったところで、スキーヤー二人と出会った。これから黒部源流の渓流釣りに向かうとのことだ。大荷物を背負いながらも急斜面を巧みに滑り降りて行った。


黒部五郎小舎



黒部五郎岳のカールを(恨めしく)振り返る



急斜面を登るKさん



同私



三俣蓮華岳はまだ彼方



幾つも小ピークを越える



雪切れのため夏道をシートラで登る私


 11時10分に三俣蓮華岳の頂に立った。鷲羽岳を初め周囲の山々に残雪が少ないのに驚く。まるで7月初旬頃のようだ。今年は山スキーの店仕舞いが早いかも知れない。愈々後半戦。ルート取りの成否が問われるところだ。Kさんは昨夏、この辺りを下見しているのでガイドは的確。山肌がかなり露出した左側急斜面の巻道ルートは却下し、丸山を越えてから夏道の中道ルートの更に上をトラバースすることとなった。


三俣蓮華岳山頂



丸山へと向かう


 申し分の無いルート取りのお陰で登り返すことも無く、双六小屋を左下に見ながら、双六谷の源頭部へと滑り込むことができた。双六谷を滑降して行くと何人ものスキーヤーと出会った。谷が狭くなってきたところで、左岸をトラバース気味に滑り大ノマ乗越への登路となる小沢に着いた。


双六谷へトラバース開始 双六岳はパス



同私



同上



双六小屋を左下に見ながら通過



沢床へ滑降するKさん



源頭部は広い双六谷



早くも沢は割れている


 ここから本日最後の260mの登りとなる。滋賀県から来られたスキーヤーが先行。ちゃっかりそのトレースを使わせて頂く。次第に斜度が増して来るとグサグサ雪にシールが負けてスリップを連発するようになった。沢芯を外して右手の小尾根を登ることにしたが、隠れたツリーホールが多数あって大苦戦。おまけにシールのグルーも機能せず板とシールの間に雪の層が出来る始末。乗越までもう一息のところでシール登行をギブアップし、ツボ足にチェンジ。膝ラッセルに耐え何とか登り切った。


大ノマ乗越へ


 時刻は午後2時45分、何とか明るいうちに新穂高に辿り着けそうだ。愈々最後の滑降だ。大ノマ乗越直下は急斜面。黒部五郎カールの二の舞を演じないよう慎重に滑り降りた。


左俣谷にドロップインするKさん



縦溝が酷い



私もドロップイン



今にも落ちそうな雪庇が少々不気味


 下るほどに縦溝が酷くなり修業のスキーになる。秩父沢のデブリは小ぶりで難なく通過できたが、その後は雪面の状態は悪くなるばかり。少しでもフラットな箇所を拾いながらターンを繋げ下山していく。


縦溝は更に深くなる



無事生還 しかしここからも難儀だった



兼用靴の長距離歩行は辛い


 4時ちょうどに右俣林道に架かる橋に到着した時は、これで無事帰ることができると心底ホッとした。ところが試練はまだ終わらなかった。右俣林道に期待していた雪は殆ど無かったため、5Kmの道程をシートラで下山することになった。兼用靴での長時間歩行は辛い。爪先の痛みと靴擦れに苦しみ、肩に食い込む重荷に耐えつつの2時間。新穂高温泉のゲートに着いた時は、胸のカラータイマーの赤ランプが消える寸前だった。

 痛恨の転倒事件があったものの、終わってみれば最高の天気と眺望に恵まれ、素晴らしい黒部源流ツアーだったことを実感している。70歳を目前にして、二日間で50Km近い道程を踏破し、燃えカスも出ない程完全燃焼できる気力、体力がまだ残されていたことが確認できたのも大きな収穫だった。と言っても今回ほどのロングツアーは恐らくこれが最初で最後かな。Kさんには言い尽くせない程、お世話になりました。今回も大感謝です。


行動時間  15時間 
使用Gear    Voile Ultra Vector Woman 154cm / Scarpa F1 Evo


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