山スキーを60の手習いで始めてから間もなく「日本版オートルート」なるものがあると知った。立山から槍ヶ岳までの長大なルートをスキーで踏破すると言うもの。もともとオートルート(La
haute route)のHauteは仏語で高いの意。「高級な」とか「格調高い」という語意もあり、高級なレストランや料理を形容する際に使われる。
そんなトリビアを紐解いていると、数多あるスキーツアールートの中でもオートルートは別格と思えてきた。山スキーを始めた以上、いつかはチャレンジしてみたいという思いはあったが、雪山技術やスキー技術はもとより、重荷に耐える強靭な体力が要求されるとあってやはり老いの身には無理かと諦めかけていた。山スキーの師匠、Kさんとそんな話をしていると黒部源流域に的を絞れば、小屋泊まりの軽装で踏破出来そうだという案が浮上。
かくして初日に太郎平小屋入りし翌日、北俣岳から黒部五郎岳、三俣蓮華岳と縦走し、その日のうちに新穂高へ下山する計画をこのGWに実行する運びとなった。
4月28日(土)
午前5時に新穂高に集合。Kさんの車をデポし、私の車で飛越トンネルへと向かった。現地に到着すると事前情報通り、林道を遮断するデブリでトンネルまでは行きつけなかった。先着の車は十数台。連休初日のせいか思ったほど多くは無い。
デブリの手前に路駐する車列
6時20分、板を背にスタート。たまたま同じタイミングで歩き始めた東京のSさんもご一緒することになった。Sさんはゴム長という出で立ちだ。確かに残雪が急ピッチで消えつつある今シーズン、泥濘の酷い飛越新道を歩くには、その方が理にかなっているかも知れない。重いという点を除けばだが。
駐車地点から飛越トンネルまで約1Kmの道中、雪を見ることは殆ど無かった。 結局歩き始めから2時間近く板は背に括り付けられたまま。標高1600mを越えた辺りで、ようやく雪が繋がり、シール登行にモードチェンジできた。
夏道を登るSさん、Kさん
ようやく雪が繋がりシール登行スタート
黒部五郎岳(右のピーク)が望めるようになったが、、、
まだ先は長い
3時間40分で寺地山に到着。ここから北ノ俣岳との鞍部まで標高差70mの下りはシールオフして滑走した。ボトムで再びシールオンし歩き始める。いつの間にか樹林帯を抜けたようで、広大な雪面を強い日差しを浴びながらの辛い登りになった。Sさんはシールトラブルで遅れだしたため、申し訳ないが先行させて頂く。
斜度は緩く地味な登りだがきつい
有峰湖が眼下に
午後1時15分、スタートから7時間弱かけて標高差1300mを登りきり、北ノ俣岳の頂に立った。目前には黒部源流のオールスターが勢揃いする圧巻のパノラマが広がる。その背後には忘れてもらっては困るとばかり、槍穂高もしっかり顔を覗かせていた。いつまで眺めても見飽きることは無い国宝級の眺望だ。
もう一息で山頂
あと10m 北ノ俣岳に王手をかけたKさん
やっと山頂 ホッとする私 お隣は立山から槍を目指す剛の者
北ノ俣岳に到着
明日のルート(トラバースライン)をチェック 槍穂が覗いている
時刻はまだ午後2時前。このまま太郎平小屋へ直行すると時間を持て余してしまうことは必至。Kさんと相談し、寄り道して薬師沢左俣の支流源頭部に滑り降りることとした。そんな折も折、先日火打山北面をご一緒したSさんが、サプライズの登場。聞けば彼も同じことを考えていたとのことで再び即席の三人パーティを組むことになった。
山頂直下の雪庇を避け、右手から回り込んで滑降開始。シャーベット状の雪は抵抗も少なく板が良く走る。目立った縦縞も無い完璧なスロープだ。夫々思い思いのシュプールを描きつつ標高差300mを滑り降りた。このまま薬師沢右股との合流地点まで滑降してから太郎平小屋に登り上げる手も頭にあったが、沢の様子が分からないので無理せずトラバース気味に尾根に登り返すことにした。
薬師沢左俣に向かってドロップしたKさん
同私
華麗なテレマークのSさん
私
シュプール競演
この先を進めば薬師沢右股と合流
薬師岳を右に見ながら登り返し
登り返すSさんと私
本日のねぐら 太郎平小屋へ滑り込んで本日は終了
標高差210mをゆっくり登り、2576mピークから本日3回目の滑降。太郎山はシールで越え、4回目の滑降で太郎平小屋に滑り込んだ。時刻は午後4時40分。初日は軽めに翌日に余力を残す作戦だったが、黒部源流特有のたおやかで美しいスロープに魅せられ、図らずもかなりハードな一日になってしまった。
行動時間 10時間20分
使用Gear Voile UltraVector Woman 154cm / Scarpa F1 Evo
二日目へ
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