2020年2月9日(日)
藪を冠した熟語は数多くある。日頃よく使う、藪医者、藪蛇、藪から棒、等々は、いずれもロクでもないことを意味し、山に関しても藪山、藪漕ぎ等、これまたどれもネガティブなことばかり。しかし山に限って言えば、それは無雪期を前提にしてのこと。一たび雪に覆われれば、藪漕ぎとは無縁になるし、藪山と呼んでは失礼なほど素晴らしいパウダーゲレンデを提供してくれる。残念ながら、暖冬の今シーズンは例外らしい。いつ迄経っても藪は藪のまま健在なのだから。
そう思っていたら、週末の寒波で中部山岳一帯は大雪とのこと。藪を埋めてくれるドカ雪は有難いが、谷川岳や北アルプス北部は、雪崩アラートで真っ赤か。そんな訳で今回群馬のKさんと共に向かうのは、比較的マイルドな降雪量の乗鞍山域。昨年滑落の憂き目に遭った金山岩から1㎞も離れていない十石山だ。
午前6時30分、白骨温泉をスタート。凍てついた上高地乗鞍林道を暫くシール登行する。登山口から上はクラストしていたので、早くもクトーを装着。やや急な坂を上り終えると暫くは緩やかな森の散策となる。十石東尾根に取りつくと一転して密な等高線の地図通りの急登だ。
夜明けとともに白骨温泉をスタート
登山口からいきなりの急登
同上 もうこの時点で右足のクトーが脱落している
登り始めて間もなく事件発生。片足のクトーが苗場山に続いてまたもや脱落したのだ。DNFとなった苗場山の苦い経緯を思い出して大ショック。幸いまだ歩き出して間もないので引き返すことにした。途中クロスした方々はいずれも見かけなかったとのことで、結局登山口近くまで戻る羽目になってしまった。発見場所は登山口。つまりクトー装着直後に脱落したらしい。取り付けベースの金具が開いてルーズになっていたのが原因。やはり山道具はきちんとメンテしておかねばならないのだ。
この授業料は高度差200m近い登り返し。30分以上お待たせし、寒い思いをさせたKさんには申し訳ないことをしてしまった。結局この顛末で我々よりも数名が先行したため、幸か不幸か立派に完成したトレース上を歩かせてもらえることになった。
幸か不幸か、多分「幸」の方でハイウェイを歩かせてもらった
十石東尾根は取りつきが急なだけで、一旦平坦地に出た後は緩傾斜。カラマツやシラビソの針葉樹の森を緩やかに登って行く。この日はガスで視界が悪かったため、展望で気を紛らわすことも叶わない。黙々と単調なハイクアップを続けて行くうちに立ち木にはダテカンバが混じるようになってきた。
標高が上がるにつれ疎林となってきた
展望は隣の十石北尾根だけ 天気が良ければ霞沢岳が望めるらしい
やがて樹林帯を抜けだすと見渡す限りのオープンバーンが目前に広がった。遮るものが無いので、寒風の洗礼も半端ない。真正面から吹き付ける烈風に逆らうように登り続け、11時20分、十石山の頂に立った。ほぼ同じペースで歩き続け、同時登頂した若者二人と写真を撮り合った。
前を行く若者二人を追う私
山頂にてKさん(左)と
体中の熱量を奪うかのような北西風をもろに受ける山頂に長居はできない。逃げるように避難小屋へと向かった。少しでも風を避けようと小屋脇の窪地でシールオフするが、インナーグローブはつけたままであったのに、完全に感覚を失った指先が言うことを聞かずもどかしい。
11時40分、滑降開始。登路はかなりクラストが進んでいたため、十石東尾根のスキーヤーズレフト側のパウダー斜面を滑降する。所々底にクラスト層があるので慎重に滑った。200mほど滑降したところで今度はスキーヤーズライト側へ移動。この判断をしたKさんの読みは図星。尾根の反対側の斜面は底突きなしの完璧とも言える素晴らしいパウダーだった。
寒さでカメラ不調 山頂付近でKさんの滑走が撮影できたのはこれだけ
私
私 樹林帯まで下ってきた
ツリーランを楽しむ私
同上
やっとカメラが復調 Kさんの滑りが撮れた
浮遊感満載
Kさん
モナカを蹴散らすKさん
暫くツリーランを楽しみ、トラバース気味に進み、標高2000m辺りで登りのトレースに復帰した。下るにつれて雪は重くなり、多少モナカ気味のところも出てきたが、修行とまではいかない。最後は登山口近くの狭い登山道を横滑りで降りて終了。時刻は1時40分。クトーの点検と指先の保温という課題が浮き彫りになった他は大満足、文句なしの一日だった。
行動時間 7時間10分
Gear Supercharger Woman 164㎝、Scarpa F1Tr
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