金山岩BC   2532m 岐阜・長野県            
 


2019年2月10日(日)

 このところ平湯温泉スキー場ベースで乗鞍エリアに向かうチャンスが増えた。四ツ岳、大崩山に引き続き、今回は金山岩を目指すことになった。同行してもらうのは、頼りとするいつもの相棒、Kさんだ。

 午前8時に稼働を始めたリフトでハイクアップを手抜きする。¥600也で高度差480mを買って金山登山道の入り口、標高1785mへと運んでもらった。リフト降り場には、我々の他バックパックを担いだスキーヤーが5人。彼等も金山岩を目指すとのことだ。

 8時15分、先陣を切ってハイクアップ開始。以前のトレースは全く見当たらず、のっけから足首ラッセルとなる。ハードモナカ上に乗った新雪はどう生成されたのか、グリップできずシールの効きが極めて悪い。一歩進めば半歩ずり下がる、そんな調子で扱いにくい雪と格闘しながら金山尾根を進んでいく。


スキー場トップからハイクアップ開始



樹間から大崩山


 尾根上には小さなピークがあり、どうしても登り返しの無い巻きは難しい。帰路はワサビ沢右岸の尾根を辿るつもりだったので、その時は余り気にならなかった。後で苦しむこととなるとも知らず。。。


どこまでも藪が濃い



そろそろ森林限界


 森林限界を抜けると幻想的な霧氷と凍てついた金山岩のピークが望めるようになった。金山岩の基部でスキーをデポするつもりだったが、Kさんは山頂までスキーを担ぎ上げるつもりらしい。私も追随する。5人パーティは山頂をパスしてワサビ谷右岸の尾根へ向かって行った。


美しい樹氷群




金山岩山頂を望む


 シールとクトーでは歯が立たなくなったところでブーツアイゼンに換装。かなりの斜度がある氷化した斜面をアイゼンとウイペットを駆使して登っていく。この状況を見て、私にはスキー滑降は無理ではないかとの思いが脳裏をよぎるが、最悪板を担いで降りれば済むことと余り深刻には考えなかった。


おそらくこれが金山岩?



四ツ岳



氷化斜面を登るKさん


 山頂直下にある岩の風下にスキーをデポし、12時55分、山頂に立った。記念撮影をした後、十石山方面を観察すると、鞍部へは緩斜面が広がっている。ひょっとしたら、そこから帰路辿る予定の尾根に滑り込めるのではないかとKさんに提案、では行ってみるかということになった。


金山岩山頂に立つKさん バックは北アルプス


 デポしたスキーを背に再び山頂へ戻り、十石山鞍部へと滑降。パウダーで気持ちの良い滑降を楽しめたが、実際に鞍部に立ってみると、ガスで視界が失われた上、尾根に滑り込むには余りに急峻、かつカチンコチンのアイスバーンでこの代案は諦めざるを得ないという結論になった。再びアイゼンを履き、板を背に三度金山岩の頂を踏むことになった。


十石山鞍部から再び金山岩へ


 山頂直下でスキーを履いて登路を滑降することになったが、私の技量では今一つ自信が持てない。これまでもこうした緊張のシチュエーションはあった。それでも意を決してやってみたら何とかなったという根拠の無い楽観主義が勝り、スキーを履いて崖っぷちに立つことになってしまった。

 まずはいつものように切り込み隊長のKさんはアイスバーンをもろともせず滑降していく。私も後に続く。新雪のたまり場で何度かキックターンし斜滑降をしていると、あろうことか、いきなりKさんが滑落していった。そのすぐ後、私のスキーもエッジが抜けた。咄嗟にウイペットで確保したものの、体勢を整えることが出来ず、私も滑落。視界の中に天と地がぐるぐると目まぐるしく入れ替わり、あちこちにぶつかりながら落下しているのがわかる。しかし、どうすることも出来ない。気が付けばKさんとほぼ同じところで仰向けで停止していた。帰宅後GPSのデータをチェックすると約70mの高度差を数秒で滑落していた。

 ショックで暫く身動きできなかったが、気持ちが落ち着いたところで、ケガの確認。幸い骨折など重篤な被害は無い。手足や腰に打撲があって痛むが我慢できない程ではない。スキーやウイペットも失わずに済んだのは不幸中の幸い。一方Kさんの方は、体は無事だったものの、流れ止めが切れて、片方のスキーが流されてしまった。またカメラも紛失という事態に。

 まずは帰りの足、スキーの捜索が焦眉の急だ。我々の停止位置よりもさらに下方の窪地にスキーが止まっていないかチェックするため、私は鞍部を下っていく。Kさんはアイゼンを履いて滑落経路周辺を捜索するが、非情にもどちらにも手がかりは無かった。


板を捜索するKさん


 時刻は既に3時を回っている。夕闇が迫っており一刻の猶予も無い。Kさんは片足スキーで下山することを決断。登路をトラックバックすることとなった。Kさんは巧みに一本のスキーを操って滑降。しかし片足への負担が大きく辛そうだ。私の方は足に受けた打撲の痛みでスキーを持ち上げる操作が出来ない。


匠の一本足走法



日没を迎えたスキー場


 尾根の途中にあるピークへの登り返しはシールで対応。この時点でKさんはもとより、私もかなり消耗してきた。愈々夕闇迫る午後5時45分、ようやくスキー場上部へと帰り着くことができた。これで生還できると心底安堵した。冷え込みですっかりアイスバーンと化したスキー場をゆっくり流す。薄い月明かりを頼りに下り続け、6時30分にゲストハウスに何とか帰り着いた。


行動時間 9時間15分 

Gear  Dynafit Denali 164cm/ Scarpa F1Tr


追記

 今回のあわや遭難という顛末を振り返ると、反省材料が山ほどある。私自身は金山岩基部にスキーをデポし、ブーツアイゼンで山頂往復という腹積もりでいたにも関わらず、確たる成算無しに、成り行き任せでスキーを背にしてしまったこと。登高時に氷化した急斜面を目の当たりにして滑降は無理と頭では分かっていたのに、斜滑降と横滑りで新雪のプールを繋げば何とか降りられるだろうと、希望的観測を膨らませて安易にスキー滑降を決断してしまったこと。

 要は己の技量でできること、できないことの線引きがあやふやなまま危険領域に踏み込み、シビアな現実を突きつけられてしまったということだ。己の力量を冷静に見極め、かつ強い意志をもって限界を越えることは「絶対やってはならない」。それが出来なければ危険と隣り合わせの山スキーを楽しむ資格は無い。

 一方、Kさんの場合は、僭越ながらこれまで幾多のルンゼ滑降など修羅場をかいくぐって培った高い経験値が裏目に出て、己の技量を過信したのではと推測している。アイゼンで登高しなければならない状況の氷化斜面は滑落リスク大。安全を最優先にアイゼンで下降すべきだったと反省の弁を口にしていた。それにしても標高差1200mを片足スキーで降りてくる技術と体力には脱帽だ。もし私がその立場になったらヘリに救助してもらうしか、生還する手段は無かっただろう。

 体中に出来た痣と疼痛を代償に、少しでも賢くなれれば、今回の山行は無駄ではなかったとポジティブに考えるようにしているが、老い先短い我が身、いくら経験値が高くなったところで基礎となる体力が落ちてしまえば宝の持ち腐れと思うと些かやるせない。



  
Map
 Track

Weather  Map 
  トップ                              山歩き 
inserted by FC2 system