昼闇山BC   新潟県 1841m            
 


2019年3月27日(水)

 昨年同時期に訪れ、すっかりその魅力に憑りつかれた昼闇山。焼山や火打山など頚城アルプスとも称される絶景を至近距離から展望できるのもさること、2000mにも満たない標高ながら、豊富な積雪量のおかげで賞味期限も長い。その昼闇山に北面から突き上げるのは昼闇谷と一ノ倉川の二つの沢。昨年は前者を滑走したので、次回は後者ということで群馬の相棒Kさんと申し合わせていた。

 諸般の事情から、雪解けが進んだ3月も後半になってようやくこの宿題を実行に移せることになった。唯一気がかりなのは、今年はネット上に一ノ倉川についての記録が全く投稿されていないこと。先人の後追いばかりするのもどうかと思うが、参考となる情報は多いに越したことはない。

 かくして一抹の不安を抱えたまま、昼闇山へ向かうことに。長時間の運転が苦痛になってきた今日この頃、例によってKさんの介護老人送迎サービスに甘え、起点となる焼山温泉まで超の字がつくほど楽をさせてもらった。

 昨年は泊り客で賑わっていた焼山温泉は今年一月末日で営業を休止したとのことで、広い駐車場はガランとし人影も疎ら。日本から秘湯がまた一つ消えてしまうのだろうか、寂しい限り。


焼山温泉 バスは運航している


 準備万端整え、6時25分、ハイクアップを開始する。空を見上げれば、やや高曇り気味ながら薄日もさしてまずまずの天気。足元の雪面は適度に緩み、昨年のようにスノーモービルの轍で荒らされていないので快適だ。


スキー場跡をハイク 



昼闇山を望む 尾根を挟んで左が一ノ倉川、右が昼闇谷


 スタート直後のポイントは、新田山のコルから下山してきたときのルート確認。左手を流れる小沢には何ヵ所かスノーブリッジがあった。もっとも少し遠回りして林道沿いに下山してくればブリッジ崩壊のリスクを負わずに済む。


SBは辛うじて繋がっているが、新田山のコルからは林道が無難


 それよりも前日までのシュプールが一本も見当たらないことが気になった。つまり一ノ倉川は明らかに下山ルートとしては最近使われていないということ。これで一抹の不安は膨らんで倍のサイズになった。こうした不安はいつも的中してしまうのだ。



そろそろアケビ平



阿彌陀(左)と烏帽子岳(右)に再会


 あけび平を過ぎると昼闇谷の右岸を進むようになる。Kさんは標高750m地点で早くも急斜面をトラバースして沢床へと向かって行った。かなりのハードバーンに苦慮している様子が窺えたので、私はさらに100mほど高度を上げ、斜度が緩んだところで沢床へ降り立った。ここで新潟から来られた単独氏に追いつかれたので先行して頂く。


急斜面をトラバースするKさん



私はここで沢床に降りた



谷底ハイク


 離れ離れとなってしまったKさんとは無線で連絡を取り合いつつ、昼闇谷を上流へと詰めていく。Kさんが追い付いたところで、昨年同様、標高1000m地点で正面のスロープから尾根に取りついた。見上げる稜線には雪煙が勢いよく舞い、風の強さを物語っている。森林限界を越えると、風当りは一層凄まじく、その雪煙の中に身を置くことになった。


そろそろ尾根に取りつく



昼闇谷カールの様子 規模の小さなデブリがいくつか



アケビ平が遥か眼下に



稜線に出た


 尾根はどんどん痩せてきて、地図上の崖マーク辺りまで来ると、風除けとなる窪地で先ほど先行した新潟の山スキーヤーが滑降の支度をしていた。この先、強風吹き荒れる中を山頂に向かうのは我々だけのようだ。ここでアイゼンを装着、板を背にプチ地獄へと歩を進めた。


アップダウンもある尾根筋



最後の登りはシートラーゲンで



同上


 唸りを上げて雪礫とともに襲ってくる強風にはダブルウイペットを雪面に打ち込み、這いつくばって耐えた。これが厳冬期であれば酷寒地獄と化すのであろうが、やはり3月も末、春の温もりがそこはかとなく感じられる。繰り返し耐風姿勢を取らされペースダウンが著しいが、それでもほぼ予定通りの12時55分に山頂に立つことが出来た。ここから愈々本日のクライマックス、一ノ倉川下りだ。


耐風姿勢をとるKさん



同上



Kさん山頂到着



同私



一ノ倉川へ滑降開始するKさん



同上



私も続く


 1時15分、高松山との鞍部に向かって滑降開始。カリカリの斜面を横滑りを交えて標高1700mのフラットな台地まで降りた。そこから一ノ倉川源頭部にドロップイン。いざ滑りだすと、重パウダーともクラストとも違う、余り体験したことの無い雪質に戸惑う。覚えたてのジャンプターンでも全く歯が立たず、兎も角ターンが難しい。そんなスロープを事も無げに滑降していくKさんをしばしば待たせながら、安全運転に徹してゆっくり下降する。


鞍部にて 焼山と火打山をバックに



愈々一ノ倉川へ



大回りで滑降する私



Kさんのシュプール


 標高が下がり、ザラメが出てきてようやくスキーが楽しめるようになった。しかしそれも沢幅が狭くなるまで。中流域に差し掛かると見渡す限り沢全体がデブリに覆われているのに唖然とする。沢を埋め尽くす雪塊はやや柔らかいのが救いながら、どちらにしてもこれではまともに滑降できない。


中流域は見渡す限りデブリランド



デブリ帯に突入



デブリが広範囲に谷を埋めている


 延々と続くデブリに嫌気がさして再びシールオン。少し登り返して右岸の台地を滑走した。ここはスキーになったものの、それも束の間、やがてゴルジュに差し掛かると再び難関登場。険しい岩肌の露出した左岸の通過は論外、右岸も急斜面の雪壁となっている。トラバースに失敗すれば確実にあの世行きだ。無理せず、安全最優先で板を背にツボ足で雪壁を乗り越えることで、この難所をやり過ごした。


ゴルジェ入り口で板を担ぐ


 陰悪なゴルジェ帯を抜けると嘘のように穏やかでフラットな地形が広がる天国となった。暫く緩々と下って本日三回目のシールオン。泥交じりのデブリで覆われ全面法面と化した林道から新田山のコルへと登り上げた。ここから標高差300mほど、林道ショートカットのメロー系スキーが一番楽しめた。


ゴルジェを抜ければ平和な世界へ



デブリを越えて新田山のコルへと向かう



新田山のコルで昼闇山と一ノ倉川に別れを告げる



新田山コルからはザラメの緩斜面で気持ちよくクルージング


 往路に合流してからは消化試合。幸い板掴みに会うことも無くスムーズに林道を流し、4時35分、焼山温泉に無事帰着した。一ノ倉川を実際に下降してみて登高時に先行トレースが見られなかった理由が納得できた。タイミング次第では快適なスキー滑降が可能かも知れない。しかし、全面デブリランドと化した沢筋を目の当たりにすると、雪崩リスクがかなり高そうだ。一方タイミングを失すれば、今回のようにデブリと沢割れで難儀なルートと化してしまう。アドベンチャー好きなら兎も角、私のようなメロー系山スキーヤーには、安全安心で快適な昼闇谷滑降がお勧めというのが率直な感想だ。


行動時間  10時間10分 
Gear  Voile Supercharger Woman 164cm / Scarpa F1 Tr


  
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