聖岳  長野・静岡県 3013m    百名山  
 
 時が経つのは早いもの。天候が今ひとつで山歩きのモチベーションが盛り上がらないまま、8月も中盤を過ぎてしまった。幸いお盆明けは夏型の安定した天気とのこと。夏山のラストチャンスになるかも知れないので、南アルプス南部のミニ縦走に出かけることにした。ハイライトは聖岳東尾根だ。一般向けコースでは無いが、赤石沢を挟んで赤石岳の眺望が素晴らしそうだし、聖と名のつく山、東聖岳、奥聖岳、前聖岳の三つを総なめにすることができるのだ。冬期ルートとは言え、無雪期の登行記録もネットに散見されるので何とかなるだろう。未踏の上河内岳と茶臼岳にフットプリントを残すことも目的の一つだ。


2012819

 畑薙ダム発12時のバスに間に合えば良いので、午前6時過ぎと余裕の出発。お盆明けのせいか東名も比較的空いている。高速を降りてからの幅員の狭いカーブだらけの山道にもだいぶ慣れてきた。畑薙ダムには11時頃到着。夏季駐車場に車をとめた。

 バス乗り場前には、臨時の登山指導センターが開設されていた。ここで登山者カードを提出。聖岳東尾根の様子を尋ねると、ルートは不明瞭だし、一日で聖平まで行くのは到底無理、単独の遭難が多いので勧められないとのこと。少し不安になったが、一応それなりの覚悟とビバークの用意もしているので何とかなるだろう。

 東海フォレストのバスに揺られて約
1時間、本日の宿泊地、椹島に着いた。早速椹島ロッジにチェックイン。ゆっくり休みたいので個室を確保した。まだ時刻は午後1時過ぎ、せっかくなので明日の下見をしておくことにする。暗いうちに出発するので東尾根への取り付き点だけでも確認しておかないと。

 目印となる虎チューブを見落とさないよう注意しながら東俣林道を赤石ダム方向にしばらく歩く。ほどなく
No28と書かれた鉄塔の巡視路入口があった。たっぷり時間もあるし足慣らしがてら鉄塔まで登ってみることに。踏み跡はやや薄いものの、適当な斜度にジグを切ってあるし、階段も整備されているので歩きやすい。一汗かいて鉄塔に到着。ロッジからここまで1時間弱だ。ここから先、稜線までが迷い易いので、明日はこの辺りで夜明けを迎えることにしよう。


        椹島ロッジの正面から近道に入る                      目印の虎チューブの支線



            No.28鉄塔への入口                        鉄塔まではしっかりした踏み跡がある


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 せっかくの個室なのに隣の部屋とを仕切る壁は紙のように薄いらしい。隣室のカップルの延々と続く喋り声がうるさくて安眠できなかった。寝不足のまま、午前2時に起床。出発準備を始める。課題は飲み水の量。前回の北アルプスでは、2リットルの飲料水では全く足らずに辛い目にあったので、今回は十分な量を担いで行くことにした。ビバークの可能性を考えると、倍の4リットル欲しいところ。しかし、その分機動性が損なわれてしまう。1gでも荷は軽くしておきたいので間をとって3リットルに決定。

 早起きした分予定より
30分早い3時に出発。空を見上げると一面の星空だ。これなら午前中一杯天気は持つだろう。昨日下見をしておいたので迷うことなく東尾根への取り付き点に着いた。ジグザグの道も勝手知ったるもの。椹島から50分で鉄塔に到着。ここからはいよいよ未知の領域だ。

 真っ暗闇のなかヘッドライトを頼りに登って行く。赤ペンキのマーキングがあったのは最初のうちだけ、そのうちマーキングどころか踏み跡も消えてしまった。どこを見渡してもズルズルと後戻りしてしまう足場の悪い急斜面。潅木につかまりながら、ひたすら高みを目指して登る。早すぎた出発のせいで、暗闇のなか悪戦苦闘することになってしまった。それでもしばらくすると夜明けの薄明かりと共に赤ペンキのマーキングが復活してきた。踏み跡は、薄く切れ切れながらも辛うじて続いている。


         マーキングが出てきてやれやれ                          しばらくこんな登り


 周囲はいかにも南アルプスらしく至るところ苔むした樹林帯。ふかふかの緑の絨毯の上を黙々と歩く。ふと気がつくと立木にジャンクションピークと書かれた表示板があった。ずっと俯いて歩いていたので危うく見落とすところだった。この辺りからは踏み跡がかなり明瞭になってきた。何故か局地的にここだけ人の手が入っているようだ。邪魔になりそうな潅木が伐採されていているので歩きやすい。これなら一般登山道と変わりないと、ルンルンで歩いていると、いきなり目の前に動物が飛び出してきた。ブイブイと鳴き声を上げているので「猪だ!」と思わず身構えたが、良く見ればまだ子供、縦縞があった。いわゆるウリ坊だ。つぶらな瞳が可愛らしい。残念なことにカメラを取り出している間にどこかへ走り去ってしまった。


              苔むした道                              ジャンクションピークの標識


 高度が上がるにつれ、木々の間から景色が楽しめるようになってきた。右手の尾根には赤石小屋の赤屋根が遠望できる。背後には富士山もその秀麗な姿を現してきた。出発から
5時間で白蓬ノ頭に到着。赤石の呼び名の元になったと言うラジオラリアがそこかしこに点在している。正面に聳える赤石岳のどっしりした姿はイメージしていた通りで掛け値なしに素晴らしい。


白蓬ノ頭から赤石岳を望む


 ここから奥聖岳まで標高差は
300m程度、この調子なら楽勝だと思ったが、そう甘くは無いことを後で思い知らされることになる。白蓬ノ頭から先は再び踏み跡が分かり辛くなってしまった。赤ペイントも一番必要なところには見当たらない。マーキングが無いがゆえに、登山者はそれぞれ勝手なルート取りをするので踏み跡が残らないのかも。二重山稜の複雑な地形も手伝って余計に分かり辛い。獣道に迷ってしばらく藪こぎを余儀なくされることもあった。

 ようやく森林限界を過ぎて稜線に出て、やれやれと胸をなで下ろしたのも束の間、今度は猛烈なハイマツ漕ぎに苦労させられることになった。薄い踏み跡の上にハイマツの枝が何層にも覆っているので、かき分けながら進まねばならない。まるで急流を遡るようだ。徹底して体を押し戻そうとするハイマツに抗して足を前に出す作業には通常の倍のエネルギーが要る。高度も上がってきたので息も苦しい。
1時間半ほどのハイマツとのバトルの後、体中松脂だらけになってようやく一つ目の聖、東聖岳に着いた。見上げる奥聖岳の山頂にはハイカーの姿も見えている。もうひと頑張りだ。


             ハイマツの稜線



東聖岳から奥聖岳を望む


 この先は痩せ尾根が続いている。冬場はロープが要るくらいの雪のナイフリッジになるらしい。慎重に痩せ尾根を越えて、いよいよ最後の難所、ガレ場の下部に着いた。遠くから眺めると壁のようでとても登れそうには見えなかったガレ場だが、実際に取り付いてみるとそれほどでも無い。所々ペイントのマーキングもある。スリップに注意しながら慎重にガレ場をトラバースし、最後は草木を手掛かりにしてルンゼを直登した。



       中央下のガレ場をトラバースしルンゼを直登                     ガレ場の様子


 10
30分、7時間半を要して本日二つ目の聖、奥聖岳の頂きに立つことが出来た。しばらく休憩してから最後の聖、前聖岳へと向かった。これまでの独り占めの裏通りから一転して繁華街、人また人だ。11時ちょうどに沢山のハイカーで賑わう前聖岳に着いた。ここで大休止、後は聖平へ向けて下るだけだ。景色でも眺めながらのんびりしようと腰を据えると、あれよあれという間にガスが湧いてきて視界が閉ざされてしまった。やはり夏山は朝10時までが勝負のようだ。眺望の無い山頂はつまらない。結局20分ほど滞在したのみで下山開始。


奥聖岳から富士山



奥聖岳から前聖岳



              前聖岳への稜線                               前聖岳山頂


 山頂直下の滑りやすい砂礫の急斜面は疲れた太腿に堪える。小聖岳を通り過ぎて森林限界に入ると、至るところ見事なお花畑だ。辺り一面、トリカブト、キオン、ナルバダケブキ等の紫と黄色の補色同士がコラボしている。途中で追いついた
80過ぎのご老人は高山植物の生き字引のような人で、問わず語りで色々と教えて頂いた。申し訳ないことに相手は出来の悪い生徒なので頭に何も残っておらず誠に残念。


              小聖岳へと続く痩せ尾根                     聖平小屋の赤屋根が見えた



見事なお花畑に感動


 聖平小屋には
1310分に到着。本日3番目にチェックイン。今日は余裕でくつろげるかと期待していたら、百名山ツアーなど、団体さんが次から次に到着して、超満員状態に。終いには、ぎりぎり寝袋分のスペースしか無くなってしまった。それも同じ向きだと肩がぶつかるので互い違いに両隣の足元に頭を置いて寝る始末。そんな超過密状態にも関わらず、昨夜の睡眠不足と疲れのせいか、夕食後まだ明るいうちに深い眠りに落ちてしまった。


行動時間  10時間10
歩行時間  9時間30



上河内岳、茶臼岳へ続く




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