富士山BC    3776m 山梨・静岡県        百名山
      

2018年5月12日(土)

 先々週の黒部源流BCで完全燃焼したはずだったのだが、今一つ何か物足りない。考えるまでも無くその理由は明白。山スキーを始めて以来、シーズンアウトは決まって富士山だったからだ。

 この時期の富士山は、気象条件の見極めが非常に重要となる。天気がいくら良くても気温や風速などの条件が悪ければ、八合目から上は5月と言えども死の滑り台と化してしまう。雪解けの早い今年の富士山詣では無理かなと思い始めた頃、ようやくチャンスが巡ってきた。初夏の気温に風も穏やかと絶好の気象条件に恵まれたこの日、群馬のKさんと共に板納に向かうことになったのだ。


五合目駐車場から 残雪は例年並みか


 午前5時35分、板とブーツを背に富士スバルライン五合目駐車場を後にした。高所が苦手のKさんは一足先にフライングスタートしている。六合目へ向かう途中で数名の若者に追いついた。皆さんの足元は揃ってスニーカー。これで行けるところまで行くそうな。「七合目から上は雪なのでくれぐれも無理をしないように」と老婆心ながら忠告しておく。

 九十九折れの登山道を無心に登る。気晴らしは五合目から下の景色。山麓には火砕岩で荒涼とした五合目以上とは対照的に緑の絨毯が広がり、勾玉のような山中湖が朝日に輝いている。


下界の景色 山中湖を眼下に望む



落石防止柵沿いを延々と登る


 七合目が近くなると雪渓が出てきた。雪面は硬くてキックステップが覚束ない。ダブルウイペットのピックを打ち込んでホールドを確保。四つん這いになってこの雪渓を乗り切った。


最初の雪渓を登る


 七合三勺まで登ってきたところで、ようやく先行していたKさんの後ろ姿を捉えた。辺りは一面の雪となり、そろそろ軽登山靴では限界だ。兼用靴に履き替え、アイゼンを装着する。


Kさんにキャッチアップ


 その場にはフランスから来た若者が進退を迷っていた。足元は先ほどの若者たちよりややマシなトレランシューズ。アイゼン、ピッケルは持参していないとのこと。アルプスの本場からやってきた若者には大きなお世話かも知れないが、これから上は、ともかくVery icy & slippyなので気を付けてと忠告しておく。結局彼は八合目まで行きつけず、それ以上の登行を断念してくれたので一安心。


フランスの若者はノースリーブにトレランシューズ 右隣は私


 八合目を過ぎると酸素は増々薄くなり足取りが重くなってきた。九合目辺りであろうか、皆足を止め雪の大斜面を注視しているのに気がついた。視線の方向に目をやると何とスキーヤーが滑落している。ハラハラしながら見ていると、八合目近くまで落ちてようやく止まった。暫くすると立ち上がりスキーで滑り始めたので無事だったようだ。後で聞くと山頂からドロップして間もなくバランスを崩して転倒したらしい。滑降可能高度の半分をもったいなくもスキーを使用せずに滑り落ちたことになる。

 後に続いたスキーヤーやボーダーは、そんな光景を目の当たりにしただけに、相当ナーバスになっているようだ。時間をかけて慎重に滑り降りている。私も黒部五郎カールでの滑落経験者。余程慎重にならねばと気を引き締めたのだった。


山中湖をバックに登高するKさん


 8合目から先、途中ずっと抜きつ抜かれつしていたのは、東南アジア系の女性と彼女をアンザイレンしていた外国人ガイド。聞けば、スロベニア出身とのことで日本語がとても上手。ユーモアに富んでいて話も面白い。帰宅後、ネットで調べるとユニークな経歴を持つ日本在住の国際山岳ガイド、ツベートさんだった。

 彼は前日も富士山をガイドしたが、強風とアイスバーンが酷くて撤退を余儀なくさせられた由。そんな前日と比べると今日の雪質は最高とのことだ。この日を選べた我々は運が良かった。


ツベートさん御一行様



うつむき喘ぎ登る私


 11時45分に浅間大社奥宮到着。Kさんは昨年同様、今回も遅れ気味だ。富士山山頂の酸素は平地の2/3。3000mを越えると40%の人に何等かの症状が現れるというが、Kさんもその例外ではないらしい。高所適応力は個人差が大きいので仕方のないこと。雪もまだ堅いことでもあるし、ランチでも摂りながらのんびり待つことにしよう。

 45分後にKさんショーアップ。早速白山岳との鞍部へ移動する。白山岳山頂からの滑降はアイスバーンの可能性が高いので見送り、鞍部からドロップすることになった。


Kさん 山頂に王手



お疲れさまでした



白山岳との鞍部へ移動



火口付近の残雪豊富 滑り込んだシュプールがあった



大沢 雪の状態は良さそうに見えるが、、、まだ硬かった


 午後1時5分に滑降開始。例によってKさんが雪質チェックのため先行する。すぐに「まだ硬い」との第一報。気を引き締めて私も続く。前々日の降雪によるものか、雪面は真新しくきれいなもの。しかし、スキーのトップをフォールラインに向けるには相当な勇気がいる硬さと斜度だ。


シュプールが殆どつかない硬さ加減



ギャラリーの見守る中滑降する私



トラバース気味に左手に移動 山頂直下の城壁がど迫力



雪面はまだ硬い



ジャンプターンの連続で息切れ気味の私


 ジャンプターンを繋げ、慎重に高度を下げていく。そのうちようやく雪が緩んできた。何とかコケることもなく2770mまで滑り降りてスキーは無事終了。再び板とブーツを背に軽登山靴で火山礫の登山道を下った。


登りとは別人のKさん ハードな雪面をもろともせずガンガン落としていく



後に続く私



ようやく雪が緩んできた



同上



同上



同上



地雷を避けつつ雪渓末端まで滑り降りて終了



山スキー界の大御所三浦大介御一行様も



五合目はこの賑わい


 3時25分に駐車場に帰着。これで思い残すことなく板納を果たすことができた。今シーズンの山スキーは合計22回。そのうち単独は4回だけ。あとは全て群馬のKさんにご一緒して頂いた。単独では何かとリスクの大きい山スキー。Kさん、また来シーズンもコラボを宜しくお願いします。


行動時間 9時間45分
使用Gear Dynafit Cho Oyu / Scarpa F1 Evo


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