赤木沢  富山県      
 


 
若かりし頃、沢歩きに夢中になっていた時期があった。比較的近場の丹沢がそのメインゲレンデ。水無川を初め東丹沢の沢には随分と通った記憶がある。当時、沢の足回りは地下足袋や草鞋が主流だったが、ビンボー学生だった私には一足しかないビブラム底の登山靴が全て。洒落た沢靴なども無かった頃、場違いの靴でじゃぶじゃぶと水の中を歩き回り、無謀にも苔むした岩を攀じ登ったりしたものだ。

 時には南アルプスや北アルプスの沢へ足を延ばしたこともある。何故かそんな時に限って大雨に祟られた。小渋川では増水した濁流に流されたり、進退窮まり河原で何日も足止めを食らったり、双六谷ではゴルジュで鉄砲水に呑まれそうになったりと、ろくな目に遭わなかったことは今となっては懐かしい青春の一コマだ。

 時は流れ、半世紀近いブランクを経て再開した山歩き。もっぱらピークハント主体でリスクのある沢登りはやらないと決めていた。特に沢歩きがメインのカムエクで下山中に滑落事故に遭ったことがその理由の一つ。しかし、例外の無いルールは無いのが世の常。同好の士の山行記録に目を通しているうちに、「日本を代表する」とか「一度は訪れておきたい」などと形容される美渓があることを知り、矢も楯も行きたくなった。それが黒部源流の赤木沢だ。今回、図らずも山スキーの師匠Kさんとともに遡行が実現する運びとなった。


2018年7月25日(水)

 初日は薬師沢小屋泊まりなので比較的楽な行程だ。午前7時40分、大勢の登山客で賑わう折立を後にする。十三重の慰霊碑に見送られると暫くはだらだら登り。覚悟はしていたもののやはり暑さが大敵だ。樹林帯の中で直射日光が遮られているにも関わらず、額から止めども無く汗が滴り落ちる。


折立のPはほぼ満車状態


 標高1800mを越える辺りから展望が開けてきた。眼下には有峰湖、右手には北ノ俣岳、そして左手には立山や剣岳が垣間見える。森林限界を抜けると、広い草原状の緩やかな尾根につけられた石畳の道となる。登山道の両サイドにはニッコウキスゲが群生し登山者を癒してくれる。


剣岳遠望



薬師岳がお出迎え



石がゴロゴロして歩きにくい



雲上庭園を行く


 やがて太郎平小屋が視界に入ってくるが、中々近づいてこないのがもどかしい。歩き辛い石畳の道を黙々と歩き続け、折立から3時間20分で太郎平小屋に到着。目の前に水晶岳や鷲羽岳など黒部源流域の山々のパノラマが一気に広がった。一ノ沢から常念乗越に登り上げた時、予告なしに槍穂高連峰の大屏風絵が目の前に展開する感動と通じるところがあると思うのは私だけだろうか。


黒部源流の山々が一斉に御開帳



お花畑から北ノ俣岳方面を望む



同水晶岳


 小屋前で大休止した後は薬師沢に向けて下降する。歩きながら5年前に薬師沢右股をスキー滑降した際の記憶と実際の地形との整合を試みるのだが、中々俯瞰している地形と記憶が一致しない。それでも薬師沢中俣が上流で二俣に分岐する辺りまで来て、ここは確かにハイクアップしたところだとようやく納得できた。


5年前、薬師沢右俣滑降時のトラック(青が滑降、赤がハイクアップ)



薬師沢小屋へと向かう木道



今年はコバイケイソウの当たり年?



お花畑を散策する私


 左俣出合いを過ぎるとしばらく沢筋から離れ、草原の木道を進む。やがて沢音が大きくなったところで赤い屋根が眼下に見えてくる。午後1時10分、薬師沢小屋に到着。これで一日目の行程は無事終了した。


薬師小屋近く 奥の廊下が眼下に



奥の廊下 明日はここを遡行する


 チェックインした後はお決まりのビールタイム。奥ノ廊下を眺めながら、ベランダや河原でまったりと過ごした。ここでご一緒させてもらった若い女性は、伝統ある山岳会に所属。沢や山スキーもこなし、清流に首まで浸かって水浴びすることも厭わない、ファッション中心の山ガールとは一線を画す真正「山乙女」。屈託なく話す彼女のおかげで時間を持て余すこともなく楽しい一時を過ごすことができた。


行動時間  5時間30分 


二日目へ



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