間ノ岳  山梨・静岡県 3189m   
農取岳 山梨・静岡県 3026m  百名山


  
2009年10月13日

 昨夜は6時ごろからシュラフにもぐったが、昼間の疲れもあってすぐに眠りに入ることができた。目を覚ますと午前1時前。睡眠は十分だが、起きだすには早すぎるのでうとうとと浅い眠りを繰り返す。壁を一枚隔てた向こう側がトイレなので「騒音」の度、目を覚ました。4時きっかりにシュラフを抜け出して自炊部屋へ行く。コーンスープにアンパン、カロリーメートといった献立であっという間に朝食が済んでしまう。外は風が吹き荒んでいるようだ。防風のため雨具を着込んで4時50分に小屋を出た。ヘッドランプは着けているものの暗闇でルートを外さないようゆっくり進む。予想通り、伊那谷方向から吹きつける風が凄まじい。時折、強風に足をとられてよろめくが、大きくバランスを崩さないようにするのが精一杯だ。次第に明るくなり、富士山と八ヶ岳の間あたりから太陽が顔を出すと前日にも増して素晴らしい好天のもとでパノラマが広がってくる。途中でデジカメを取り出したが、電池容量不足と表示されてオフになってしまった。以前、春先の甲武信ヶ岳でもこのようなことがあった。低温によりリチウム電池の起電力が落ちているらしい。しばらく手のなかで温めてから再度オンにすると今度はOKとなった。間ノ岳頂上を目前にした所で本日初めて人と出合った。農鳥小屋から来たとのこと。親切にカメラスポットを案内してくれた。間ノ岳頂上には6時半に立った。


  間ノ岳山頂



塩見岳からさらに南部の山々



 兎も角風が強いので長居はしていられない。頂上東側の窪みで風を避け小休止する。周囲の山々を眺めると愈々南アの核心部に近づいてきた感がある。進行方向には塩見岳の存在感が次第に大きくなってきている。後ろを振り返れば、朝日を浴びた北岳が盟主の貫禄を見せつけていかにも壮観だ。本日の行程は長いのでゆっくりしていられない。農鳥小屋へ向けて下山にかかる。昨日とは打って変わって登山路に人の気配はないが、かの有名な仙人はいるらしい。農鳥小屋周辺で縦走路がわからなくなり、小屋の前をうろうろしているとオーナーと思しき御仁から「作業の邪魔」と一喝された。これが農取名物の偏屈オヤジだ。素通りするつもりが計らずも仙人の巣に迷い込んでしまったが、貴重な記念になった。小屋からすぐに西農鳥岳への登りとなる。本日2座目の3000m級で疲れた足には、なかなか厳しい。ようやくピークに辿り着くが頂上には西濃鳥であることを示すものが何もない。地図によれば標高は3050m、農取岳の3026mより若干高いのに奇妙な話だ。山頂直下のガレ場をトラバースして両手もフル動員する岩場を越え、さらに一登りしたところで農鳥岳の頂に立った。時刻は9時20分。誰もいない頂上で景色を独り占めする。間ノ岳よりさらに南ア南部の山々に迫ってきたのだ。特に兜をかぶったような塩見岳が圧巻である。長い下りに備えてここで甘い菓子パンで即効エネルギーを摂取する。



農取岳(鞍部に農取小屋が見える)




農取小屋



西農取岳への険しい登り



農取岳山頂



雪を頂いたような鳳凰三山



文句なしに日本一



 しばらく景色を堪能した後、2200mの下りに覚悟を決めて下山を開始した。口笛でも吹いていけそうなのんびりした尾根道の下りが大門沢下降点からは一転して、登りには絶対使いたくないと思う急下降となる。早川町がところどころに案内板を設置してくれているが、そこに示す高度が一向に減っていかないのが苛立たしい。膝が悲鳴をあげるが、疲れた太腿の筋肉はその膝を十分に支えられない。沢音が次第に迫ってくるが、いつまで経っても音ばかり。それでもようやく登山道が沢と平行するところまで来た。沢とその上部に展開する見事な紅葉で気を紛らわしながら、どんどん下る。


紅葉がちらほら




 そのうち道は沢を離れ、登り加減で尾根沿いへと進む。ひとしきり下ってようやく大門沢小屋に着いた。小屋先のベンチで先客がビールを飲んでいる。聞けば、肩の小屋から来たとのこと、それもボッカ同然の大荷物を背負ってである。上には上がいるものだ。一体何時に肩の小屋を出発したのであろうか。小屋はパスして再び沢沿いの道を進む。いきなり沢にかけられた頼りなげな木の梯子をわたるが、下には激流が渦巻いている。手がかりもない濡れた梯子の上を歩くのは緊張させられる。その先には鉄のパイプで梯子を組んだ橋もあったが、試しに足を乗せてみるが、さらに滑りやすくて断念、石を飛んで渉った。あの大荷物の御仁は無事渉ってこられるだろうかと心配になる。しばらくこうしたプチ・アドベンチャーを楽しんだ後、道は次第に沢から離れて尾根伝いに進むようになる。傾斜が緩いので足は楽だが、登り加減なので勘弁してくれと言いたくなる。まだ1000mは降らないといけないのに。次第に植生も変わり、ブナ林のなかで幻想的な景色が現れる。再び沢沿いに戻り小沢をいくつか横切ったところで待ちに待った吊橋が現れた。この先、3つ目の吊橋を越えたところでようやく林道に出た。農取岳山頂からはほとんどノンストップで3回給水のため小休止した他は歩き詰めに歩いている。疲れた足とザックが食い込む肩に鞭打って林道を歩き続け、15時25分に奈良田に帰着した。

 着替えを済ませて車をスタートさせようとするが、セルモーターが回らない。ルームランプを消し忘れていた!通りかかった車を停めてバッテリーケーブルが無いか聞くが、皆さん持ち合わせていない。夕暮れが迫ってくるなか、次第にあせってくる。近くの温泉の受付をしていた若旦那に聞くと何とかしてくれると有難い返事、チェックインの客を捌いた後で車を出してくれた。バッテリー間を接続すると一発でエンジン始動。やれやれ助かった。丁重にお礼を言ってゆっくり車を出す。しばらくへたったバッテリーに負担をかけないようエアコンはかけず、ぎりぎりまでライトも点けずに走った。往路と同じルートを辿り渋滞に巻き込まれながらも自宅には7時半に帰着。今回も色々ハプニングがあったが35年ぶりの秋の南アを目一杯堪能できたし、年はとってもまだまだやれそうという自信が少し得られたことが嬉しかった。

行動時間              10時間35分
歩行時間              9時間30分
標準CT      10時間15分


一日目    二日目    
北岳     間ノ岳・農取岳   
 


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