笊ヶ岳  山梨・静岡県 2629m   二百名山  
  
 
20101111

 先週の毛無山で見た南アルプスの展望にすっかり魅入られてしまったらしい。今度はさらに大迫力で南アを堪能できる笊ヶ岳に足を伸ばすことにした。この山には以前から関心があったのだが、日本の山のなかでも屈指のハードコースと言うことで二の足を踏んでいたのだ。予報によれば11日は本州付近が移動性高気圧に覆われるので晴天が約束されるとのこと。これが今年最後のチャンスかもしれない。思いきって行くことに決めた。日帰りするつもりだが、万一に備えてビバーク用のサバイバルキットを持って行くことにする。何しろ登山口となる老平の標高が480m程度しかない上に稜線に出てからも布引山から一旦下って登り返すのでトータルの標高差は約2500mにも及ぶのだ。

 
いつものように夕食後3時間程度の仮眠をとった後、未明に自宅を後にした。老平にはほぼ予定通り午前445分に到着。駐車場には車が一台あるが人の気配はない。ゲートを5時きっかりに通って林道を歩き始める。空には満点の星だ。天気は最高だし、今日のコースには危険な箇所もない。唯一心配なのは塩見岳で傷めて慢性化している左膝の痛み。前回の毛無山では歩いているうちに痛みが治まってしまった。今回も大丈夫だろうと高を括っていたが、林道を歩くうちに違和感が徐々に増してきた。どうも前回とは様子が違うようだ。広河原まで歩いて更に悪化するようなら、悔しいが引き返すことにしよう。林道終点から山道に入った。すぐに廃屋が現れるが、暗闇で踏み跡を間違えて右手奥にある離れの方に行ってしまった。すぐに引き返して登山道へと戻った。それにしても廃屋には、人工物であるのにも関わらず、その原材料である木や森には感じ無い不気味さがあるのはなぜだろう。吊り橋を渡る頃には夜が明けてきたのでヘッドランプを消灯。しばらく沢沿いに遡行して広河原に着いた。ここから対岸に渡ることになる。暗闇のなかで渡渉をしたくなかったので午前5時という出発時間にしたが、どうやら丁度良いタイミングだったようだ。沢の水量はそれほど多く無い。しばらくウロウロした後、20mほど上流で適当な渡渉ポイントを見つけて石から石へジャンプ。やれやれ何とか濡れずに渡れた。



            林道ゲート(下山時撮影)                       自然のトンネル(同左)



               廃屋(下山時撮影)                            吊り橋(同左)



      濡れずには通れないシャワー(下山時撮影)                ちょっと嫌なガレ場(同左)



 
一旦ここで小休止。さて左膝をどうしたものか。重苦しさはあるが、痛みという程ではない。もうしばらく登ってみて駄目なら引き返そうと判断を先延ばしした。ここから愈々本格的な登りが始まる。しばらくジグザグに付けられた道を行く。カラフルな落ち葉が敷き詰められ、毛足の長い絨毯の上を歩くようで感動モノだが、その一方で落ち葉の下に隠れた切り株や石に躓いたりして苦労もする。やがて山の神の祠が現れた。その先のインクライン(ウインチ)跡を通過する頃になると周囲の森は針葉樹に変わっていて落ち葉の悩みからは開放された。南ア特有の苔むした樹林帯にはうっすらと霞がかかっているように見える。森の精気、フィトンチッドが充満しているに違いない。この辺り、登りの勾配には容赦がない。木の根につかまって体を引っ張り上げるような、それこそ胸を突く急坂が延々と続く。桧横手山で一旦傾斜が緩み一息つけるが、その先から、再びこれでもかという急登になる。幸いなことに気にしていた膝は何とか持ちこたえてくれそうだ。それよりも両足の太腿が悲鳴を上げている。ここでおそらく駐車場にあった車のオーナーと思しき御仁と行き会った。布引山にテントを張って今日は笊ヶ岳を往復して来たとのこと。軽装でも難儀するこの急登にテント装備とはご苦労なことだ。山頂泊すると南ア連山と富士山のモルゲンロートやアーベンロートが楽しめるので、辛い思いをする価値は有るのだろうが。。。



               渡渉地点                                   山の祠



       落ち葉で道を見失う             インクライン 


 ここから先を随分長く感じた。青空が木々の間から見え始めたので今度こそ山頂と期待するのだが、ピークを超えるとすぐに次の壁が現れてがっくりの連続。それでも高度はどんどん上がって左手に上河内岳方面の展望が開けてきた。正面は蟻地獄のような凄まじい崩壊だ。しばらくこのガレの縁を歩くようになる。やっとの思いで着いた布引山の頂上は木々に囲まれ眺望はない。テント場の一つは富士山が正面に見える最高のロケーションだった。ここでコンビニのお握りの昼食を済ませて最後の登りに備えた。布引山からダラダラと下って鞍部へ着くと今度は一気に登り返す。カシミールによれば
250mもの登りであったが、景観に助けられたせいか、感覚的にはせいぜい100m位の感じであっさり念願の頂きに立つことができた。時刻は1120分。出発から6時間20分掛かっている。笊ヶ岳は、絶好の南アルプス展望台とは聞いていたが、まったくその通りだった。正面には荒川三山と聖岳、上河内岳が圧倒的なボリューム感で迫り、北方にはピークの先端が飛び出した北岳、南方には光岳までが一望だ。東側にはお馴染みの構図、小笊の上に富士山。暫く一人占めの頂上を楽しんでいたところに単独の女性が現れた。聞けば二軒小屋のスタッフで、今シーズンの営業を終えたので、笊ヶ岳経由下山する途中だとか。結局、今回山中で出会ったのは先ほどの単独男性とこの女性の二人だけだった。



          南アルプスらしい雰囲気                         ようやく展望が開けてきた



布引直下のガレ場



       布引山山頂            快適なテント場(木々の間から富士山)


            小笊と富士山をバックに                         布引山を振り返る



上河内岳、聖岳、荒川三山、右端には塩見岳



  南アルプス最南部方面の展望



南アルプス北部(北岳のピークが見える)



 
山頂でじっくり山座同定を楽しみたかったが、日暮れが早い時期でもあるので後ろ髪を引かれながらも下山することにした。勝手知ったる道のピストン。よくもこれだけの急坂を登って来たものだと我ながら感心するようなところばかりだ。シラビソ林が広葉樹になると落ち葉が道を覆っているため、落ち葉のラッセル状態、時々道を見失ってしまう。日が暮れたら道迷い必至だ。先ほどの女性は大丈夫だろうかと気になる。休み無しで一気に広河原まで下った。再び石伝いに渡るが今朝のポイントは対岸の石が若干高くなっているので疲れた足には無理だ。別の場所を渡渉ポイントに選んだ。濡れた石にバランスを崩してヒヤリとしたが何とか石伝いに渡りきった。その後は沢沿いに広がる素晴らしい紅葉を楽しみながらのんびり歩く。駐車場帰着は午後420分。ぎりぎりで日暮れ前に戻ることが出来た。12時間近い山歩きで足は棒になったが、最高の天気の下で念願の笊ヶ岳に無事登ることができた。満足感で一杯になりながらハンドルを握り帰路についた。

行動時間  11時間20
歩行時間  10時間40
標準CT   16時間35


  
翌日からしばらく太腿の筋肉痛に悩まされた。毎週のように山に通って鍛えているのに。先日の塩見岳でもそんなことは無かったのに。それ程笊ヶ岳はハードだったのだと文字通り痛感したのだった。

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