話は横道に逸れるが、機械に頼ってアプローチを短縮することと「汗を流して登山する」という行為の折り合いをどこで付けるべきなのか、いつも考えてしまう。スタンプラリーのピークハントだけが目的であるならば、ロープウエイやリフトをフル活用しても何ら省みるところは無いであろうが、よく言われるように登山の要諦はその過程にこそある。点では無くて線を楽しむ観点からすれば、自らの足で登ってこそ山は面白いのだと思う。ロープウエイの使用は控える、しかし車で行けるところまでは行く、但し頂上まで車で到達できてもそれはせず極力歩く、等といったルールを自らに課しているが、それでも安易に過ぎるのではと割り切れない思いが残る。突き詰めればどの山も自宅から歩いて行かねばならないという馬鹿げたことになってしまうので仕方が無いのだろうが。いずれにしても、所詮お遊びなのでルールも人それぞれ、自己満足の世界ではある。
閑話休題。駐車場には先着の車が1台あったが、当方と相前後してさらに数台の車が到着して俄かに賑やかになってきた。車から降りて皆一斉に身支度を始めている。今日は暑くなりそうなので半袖Tシャツと薄手のズボン、日焼け止めをたっぷり塗った。出発は5時20分、500mほど林道を下った登山口から登り始める。のっけから急な登りで息が切れる。額から汗が噴き出した頃、再び林道に出た。このすぐ先が林道の終点かつ遊歩道の起点だ。ここからしばらくは整備された立派な道で傾斜も緩やかですこぶる歩きやすい。くぬぎ林と熊笹の道をしばらく行くと池山へのコースとの分岐となる。池山小屋へ100mの案内が出てくるが素通りして先を急ぐ。遊歩道はいつしか終わって山道らしくなってくるが、この辺りで先行していたハイカーに追いついた。
山ツツジが満開
よく整備された緩い勾配の道を行く
空木岳のオアシス?
道は山腹を巻くような緩やかな登りで延々と続くが、途中の水場で喉を潤す。マセナギを過ぎた頃から次第に勾配がきつくなり痩せ尾根に出た。ここから駒ヶ岳、宝剣岳方面がガスの切れ目から時折顔を覗かせるのが見える。南アルプス方面は厚いガスに覆われている。転落事故多発の警告板があって、それを裏付けるように梯子やロープが次から次に出て来て気が抜けない。
工事現場のような細い尾根道
駒ケ岳方面が見えてきた
迷い尾根の辺りから残雪が目に見えて増えてきた。何回か小さな沢をトラバースするが、雪は適度に締まっている上、しっかりしたトレースが付いているので不安は無い。空木平避難小屋への分岐手前で大きな荷を背負った高校生か大学生と思しき若者達に追いついた。今日は朝3時に歩き出したらしい。樹林限界を越えてはい松が生い茂るなかを行く。左手に避難小屋から続くまだ豊富に残る雪渓を、右手には駒石を眺めながら先を急ぐ。
駒岩まであと一息
駒ケ岳、宝剣岳方面を望む
頂上は近くに見えているがなかなか近づかない。3000m近い高度になるといつもそうであるようにエンジンの性能が低下してしまう。息切れする割にはペースが上がらない。駒峰ヒュッテ脇を素通りして歩き続け、ぜいぜいと荒い息をつきながら9時50分に空木岳の頂上に立った。頂には先客が一人。車を登山口脇の路肩に停めて当方より一足先に歩き出したらしい。色々と話をするうちにとんでもないスーパー爺さんだと分かる。この方は飯田氏在住の何と65歳の翁。空木岳だけでは物足りないので、これから南駒ヶ岳をピストンするとのこと。自分は心身ともに元気そのものだが、後輩に機会を与えるために隠居して山登り三昧とのこと。我が身に照らして思わず考えてしまう。彼は「あんたはまだまだ若いよ」と心強いメッセージを残して、足取りも軽く赤なぎ岳への稜線を下っていってしまった。先日の雨飾山でのスーパーレディしかり、世の中には凄い人たちがいるものだ。
スーパーお爺ちゃん
空木岳頂上にて
どっしりした南駒ケ岳が印象的
ベランダからの眺めが素晴らしい駒峰ヒュッテ
独り占め状態となった頂上で周囲の山々を眺めながら軽いランチをとる。雲が多いが6月としては上出来か。すぐ近くの御嶽山はガスに呑み込まれているが、南アルプスの塩見岳がかろうじて見える。頂上にはしばらく滞在するが、ガスが次第に上がってきて目と鼻の先きの、宝剣岳や駒ヶ岳が姿を消してしまったのでそろそろ下山にかかる。駒石近くで同じ時間帯に到着した連中とすれ違う。その後もぼつぼつとハイカーが登ってきた。遊歩道に出ると多くの家族連れのハイカーやカップルと行き交う。登山口から林道をしばらく登り返して午後1時30分に駐車場に帰着した。
行動時間 7時間50分
実歩行時間 7時間10分
沿面距離 20.4km(GPSデータより)
参考コースタイム 10時間20分+α(林道途中なので)
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