剣御前  奥大日岳   大日岳  2777m、2606m、2501m 富山県     百高山  
二百名山
 

2017年9月19日(火)

 人間歳を取るとあちこち出っ張ってくる。ポッコリお腹はその最たるもの。私の場合は還暦を過ぎてから、そのポッコリに加えて少し下の太腿の付け根辺りにも膨らみが目立つようになってきた。加齢による衰えで隙間だらけになった筋膜から内臓がはみ出る「鼠経ヘルニア」、所謂脱腸だ。

 痛くも痒くもなく生活や山歩きにも何ら支障が無いので放置しておいたのだが、専門医に相談すると「差しあたって緊急性は無いが進行性疾患。手術が唯一の治療方法で処置は早ければ早いほどベター」とのご宣託。体と財布の痛みは辛いが、思い切って9月初めに手術を受けることにした。

 治療方法は、ポリプロピレンのメッシュシートを筋膜の下に入れて人工的に補強するというもの。全身麻酔で腹腔に3か所穴を開けメッシュを挿入し縫い付け、手術は半日で終了。体に負担の少ない内視鏡手術のおかげでその日のうちに歩いて帰宅することができた。

 手術自体は短時間で終わったが、予後はそう簡単ではない。若干とは言え、生身を切り裂いた訳で、患部の痛みと重苦しい違和感はその後2週間ほど続いた。3週間経過したところで、こうした不快感は完全に消失。ドクターのお許しも出たことなので、めでたく待ち望んでいた山歩きを再開する運びとなった。

 復帰第一戦なのでハードな山は避け、労せずして高みに連れて行ってくれる立山周辺のお気楽ハイキング。狙いは百高山で唯一未踏の剣御前と二百名山の奥大日岳だ。せっかくの機会なので大日岳まで足を延ばして、大日連山を全て踏破してみるつもり。


快晴の扇沢ターミナル


 台風一過、雲一つない文句なしの晴天となったこの日、扇沢から御前7時30分の始発で室堂へ。連休後の平日のせいか、人出はそれほど多くない。その殆どが大小のザックを背負った登山客だ。登山届を案内所へ提出し、9時ちょうどに室堂を後にする。


雪の無い立山は久しぶりで新鮮


 雪の無い立山は実に7年ぶりだ。見慣れたはずの風景が、とても新鮮に感じる。久しぶりの高山だが、体調は今のところ可もなく不可もない。ミクリガ池温泉、雷鳥荘と山スキーでお馴染みの宿を過ぎ、雷鳥沢のキャンプ場までは30分足らず。称名川に架かった仮設橋を渡り雷鳥坂を登る。


ミクリガ池



地獄谷の向こうに奥大日岳



テントも疎らな雷鳥平



別山方面 紅葉がちらほら



称名川を渡る


 行き交うハイカーの背には、申し合わせたようにテント泊の大荷物。恐らくは剣沢キャンプ場の行き帰りの人達なのだろう。剣御前小舎には1時間50分で到着。病み上がりにしては悪くないタイムだな、、、とこの時は能天気に喜んでいたが、後で己の浅はかさを思い知ることになる。


別山乗越 やっと剣岳にご対面



剣沢にはまだ雪が残っていた


 小舎前からノンストップで剣御前へと向かう。別山乗越は風の通り道と見えて、いつも強風が吹き荒れているが、この日も例外では無かった。体当たりしてくるような西風に煽られながら剣御前へと歩を進める。


剣御前へと向かう


 剣御前前山まではほんの10分程度で到着。前山とは言いながら標高は2792mと、三角点を有する本家本元の剣御前よりも15mも高いのだ。


剣御前より高い剣御前山 ちゃんと山頂標識があった


 大迫力の剣岳を真正面に見据えながら痩せ尾根を進み、11時15分、剣御前の頂に立った。これをもって、今年の目標にしていた日本百高山をめでたく完遂することができた。百座目のお祝いに、お山はこれ以上ないという好天と北アルプスの大展望をプレゼントしてくれた。誰が褒めてくれるわけでもない、全くの自己満足でしかないが、素直に嬉しい。7年越しのプロジェクトにようやく終止符が打てて、達成感も一入だ。


剣御前山頂 こっちは三角点だけ、、、



一服剣へと続く尾根 崩落により通行止めと



剣沢を俯瞰


 再び痩せ尾根を辿って剣御前小舎へと戻り、次の目標、奥大日岳へと向かう。ここから室堂乗越までは400m強も標高を落とさねばならない。何のことはない、室堂乗越は、出発点の室堂よりも標高が低いのだ。折角獲得した標高を熨斗を付けて全部お返しすることになる。


室堂乗越へと向かう



立山連峰の全貌を眺めながらのトレッキング


 所々色づいた紅葉に癒されながら石ころだらけの登山道を下って行く。流石立山と言うべきか、ハイカーが引きも切らず登ってくる。室堂乗越からは称名川やうねうねと下界へと延びる立山道路を眺めながらの上り坂となる。


奥大日岳へ



飛騨側から押し寄せるガス


 歩き始めから5時間を過ぎると、懸念していた3週間のブランクがボディーブローになって効き始めた。頑張っているつもりでもペースは落ちるばかり。そのうち右膝に痛みがでてきた。手術後、運動らしい運動もしていなかったので、筋力が低下し関節を十分に支えきれないということだろう。こんな体たらくで夕刻までに大日小屋に辿り着けるか少々不安になってきた。奥大日岳最高点はスルーし先を急ぐ。


来た道を振り返る 正面のピークは最高点



称名廊下と立山道路


 午後1時55分に奥大日岳山頂に立った。二百名山、62座目ゲットだ。ここで少し足を休め、次の目標、中大日岳へと向かう。非情にもここからまた300m弱下らねばならない。右膝の痛みは増々酷く、とてもお気楽ハイキングなどと戯言を言ってはいられない。


奥大日岳山頂



中大日岳、大日岳を望む


 天気の方も下り坂、飛騨側から押し寄せた雲で大日岳方面や剣岳も見え隠れしている。3時55分、中大日岳を通過する。そこから20分ほどで本日の宿、大日小屋に到着した。


ガスがどんどん湧いてきた



中大日岳への登り



ここはグランドキャニオン?



中大日岳と紅葉



大日小屋にやっと到着 後方は大日岳



大日岳の途中には見事な紅葉があった



ガスで何も見えない山頂


 取敢えずチェックインだけして大日岳へと向かう。膝への負担を少しでも減らそうと空身。持ち物はカメラとGPSだけだ。4時40分、ガスで視界の無くなった山頂に立った。長居は無用。証拠写真だけ撮ってすぐに回れ右し、膝を庇いつつゆっくりと大日小屋へと下り初日に予定した行程を終えた。


行動時間  7時間50分


翌日へ


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