燕岳  長野県 2763m   二百名山 
  

201216

 今冬、是非登りたいと心に決めていた山は、北アルプスの冬山入門コース、合戦尾根からの燕岳だ。入山者も多く比較的容易とは言え、そこは厳寒期のアルプス、西高東低の気圧配置を避け、冬型が緩んだタイミングを見計らって登ることにした。面倒なのは、冬期閉鎖された宮城のゲートから登山口の中房温泉まで約12kmの長いアプローチ。人家の点在する山麓から歩かねばならないのだ。中房温泉でのんびり一泊してから燕山荘へ向かうのが理想的なのだが、持ち前の貧乏性がそうさせてくれない。一日目が4時間程度の中途半端な歩行時間になってしまうので、キツイのを承知で燕山荘に直行することにした。

 自宅を夜半に出発し、午前
3時半、宮城ゲート近くの駐車スペースに車をとめた。例によってまずは腹ごしらえしてから身支度、4時きっかりに車を後にすることができた。気温は零下10度を下回っており、路面はカチンカチンに凍りついている。

 200m
おきに中房までの残りの距離がヘッドランプに浮かび上がる。この親切は、励みにもなるだろうし、人によってはテンションを盛り下げるのかも。。。私の場合は後者かな。歩けども歩けどもカウントダウンがなかなか進まない。真っ暗闇のなか、何処を歩いているやも知れず、ひたすら足を前に出すのみ。空を見上げれば星がずっと瞬いている。天気は悪くないらしいのが、せめてもの救いか。

 残り
4km辺りから、夜が白み始め、遥か高みに聳える山稜が次第にピンクに染まってきた。このまま好天が持続してくれれば良いがと祈る。730分に中房温泉の登山口に到着。ゲートからちょうど3時間半かかった。ここで合戦尾根の登りに備えて最近すっかり定番になったクリームパンとチョココルネでエネルギー補充。


              夜明けの林道                          中房温泉に着くと朝日が迎えてくれた


 トイレ前のベンチには中房温泉に泊まったという、見るからに年季の入った年配の登山者が一人、昔懐かしい尻皮に座り込んでアイゼンを付けていた。尻皮は雪や氷があっても腰掛けられる便利グッズなのだが、今ではすっかり廃れてしまった。いまだに販売している店があるのだろうか。

 小休止の後、尻皮氏の後を追って合戦尾根に取り掛かかった。三大急登の一つだけあって、すぐに急坂が始まるが、雪が固く締まってアイゼンの刃が心地よく良く効いてくれる。年末年始に相当数の登山者が歩いてしっかりと踏み固めてくれたようだ。第一ベンチ、第二ベンチ、第三ベンチへと快調に進む。左手に常念岳や大天井岳方面の稜線が見えてきて元気づけてくれる。


             トレースがばっちり                       今冬は雪が少ない方なのだそうだが。。。



            大天井岳方面の稜線が見えてきた                       第三ベンチ


 尻皮氏も含め、先行していたパーティを何組みか追い抜いて合戦小屋で小休止。本日三回目のエネルギー補充だ。必要以上にカロリーを摂っている気がしないでもない。余剰カロリーの行き先が気になるが、ここから先の登りが結構きついので燃えてくれるだろう。それにしても先ほどの青空はどこへやら、天気がちょっと下り坂なのが気になる。尾根筋から右方向、東沢岳から餓鬼岳へと連なる山々、奥には唐沢岳が辛うじて展望できるが、大天井岳の方は視界がどんどん悪くなっている。


             雪に埋もれる合戦小屋                      大天井岳方面の天気は下り坂だが。。。



餓鬼岳方面はまだ眺望あり



合戦沢ノ頭を目指して登る


 合戦沢ノ頭を過ぎると、ホームストレッチに入っているのだが、視界にある燕山荘がなかなか近づかないのがもどかしい。いよいよ表銀座の稜線に立つと雪混じりの強い西風がもろに吹き付けてくる。山荘の入口まで
100mほどこの洗礼を浴びることになる。


            燕山荘が視野に入る                              燕岳も見える


 宮城のゲートから
7時間55分を要して燕山荘にチェックイン。時計を見れば1155分、まだ昼前だ。このまま燕岳へピストンすることにした。ただし最低限の荷物で行く。ポケットにGPSとカメラ、手にはピッケルを持ち、ネックウォーマーを鼻まで引き上げゴーグルをつけて完全防寒体勢で出発。雪が飛ばされて剥き出しの花崗岩帯を横殴りの風に煽られながらよろよろと進み、1240分に山頂に立った。眺望は得られず、写真とビデオ撮影を済ませた後はすぐに引き返す。往復一時間程度のハイキングだ。




              燕岳へと向かう                                山頂標識



         自分撮り(ネックウォーマーがばりばり)                   燕山荘はガスで見えない



            イルカさんも寒そう                             燕山荘に戻りやれやれ


 燕山荘では漫画を読んだり、炬燵に入って
TVを見ながら5時半の夕食までぼんやりと時間をつぶす。小屋のなかは標高2700mの酷寒と強風とは隔絶した別世界だ。夕食は品数も多く美味で満足。隣り合った方は午前2時に宮城ゲートを出発したとか。天候が冴えないので大天井まで縦走するかどうか迷っていた。

 この日の泊まり客は
20名程度だろうか。顔ぶれを眺めると、自分も含めて年配の方が圧倒的に多い。平均年齢はどう控えめにみても60才を超えていそう。その中で唯一の若い女性は、好天期待で連泊しているとのこと、ずっと漫画の「岳」を夢中になって読んでいた。待ちに待った夕食は10分で完食、食後もまたまた時間を持て余す。再びTVを見ながらダラダラと過ごし7時半に床についた。蚕棚の1マスをあてがわれたのでゆったりと過ごすことができた。シーズン中であれば3人分のスペースだ。


行動時間  9時間15
歩行時間  8時間30


17

 睡眠不足と22kmを歩いた疲れで泥のように眠る。一度トイレにたっただけで、朝の5時まで熟睡することが出来た。朝食後、窓越しに外を眺めると昨日同様、灰色の空に雪片が横に流れている。しばらく様子を見ていると、燕岳が見え隠れしているが、俄にガスが晴れそうな様子ではない。展望がよければ再度燕岳に登頂しようかと思ったが、どうやら止めておいた方が良さそうだ。

 
710分に下山開始。合戦尾根に向けて山荘を回り込む際に下りすぎて大天井岳への尾根筋を歩きだしてしまう。すぐに気がつき登り返して合戦尾根に出た。昨日のトレースがだいぶ雪に埋もれていて吹き溜まりでは太腿までもぐることもある。全くのノートレース状態になっている所もあって、ちょっとまごつく。

 
15分ほど下ったところで正面に太陽がぼんやりと姿を現した。次第に強まる陽光に打ち消されたかのように見る見るガスが晴れてきた。下山が早過ぎたと悔やむも時すでに遅し。今更登り返す根性も無いので、周囲の白銀スペクタクルをカメラに収めつつゆっくりと下山する。分厚い手袋に加えて指がかじかんでシャッターが押せずに四苦八苦。


              太陽が出てくると                           次第に青空が広がって



大天井岳もこの通り



餓鬼岳方面もこの通り


 下るほどに天気はどんどん良くなって合戦小屋を過ぎた頃には青空をバックに白銀の稜線がくっきりと展望できるようになった。下山のタイミングを完全に見誤ったが、これだけの景色を見れただけでも良しとしよう。


林道から振り返り仰ぎ見る白銀の峰


 三連休初日とあって、引きも切らず登ってくる登山者と挨拶を交わしながら中房温泉には
940分に帰着。ここで小休止し菓子パンでエネルギーチャージ、長い林道歩きに備える。林道歩きでは行き合う登山者を観察していると中々面白く、退屈しない。夏山のような格好でオイオイ大丈夫かと首を傾けたくなる人、バックカントリースタイルの人、スノボーを担いでいる人、ソリに荷物を載せて歩いている人、等々様々。一人の若者から「赤沼さんですか?」と声を掛けられたが、燕山荘オーナーの赤沼氏と間違われたということ??? 時折振り返っては、ますます輝きを増した白銀の峰々を恨めしく眺めつつ、歩き続けて1240分にゲートに帰着した。


行動時間  5時間30
歩行時間  5時間


後記

 今回一日目のウェアは上半身については、プレサーモの半袖アンダーにメリノウールのミドル、その上にハードシェル、下半身はパンツ、プレサーモのアンダーに厚手のズボン、アウターシェル無し。足回りは3シーズン+αのブーツにソックス一枚、それに膝までのスパッツ。手は素手にノースフェースの厚手のごっついグローブを一枚だけ。頭は毛糸の帽子にネックウォーマー、その上にゴーグル。これで格別に寒い思いをすることもなかった。

 二日目は上半身にミドルを一枚追加、下半身にはズボンの上からソフトシェルを履いた。問題はやはり手先だった。いつものようにホカロンで手首を温めていたが、指先がかじかんで感覚が無くなってしまった。二日経ってもまだ痺れが残っている。末梢神経が余程弱っているのだろうか。それとももっと効果的な防寒対策があるのだろうか。

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