赤岳  長野県 2899m    百名山
 

  
 

201134

 冬の赤岳に是非とも登りたいと思っていたが、なかなかそのチャンスが無かった。3月初旬というのに真冬並みの寒さのなか、ようやくその目的を達成することができた。雪と氷を纏った厳寒の八ヶ岳は言葉にならないほど素晴らしかった。好き好んで寒い冬山に出かける気持ちが分らないとはよく言われるが、その場に居合わせた者だけが味わえる身震いするほどの感動がある。しかし、その一方で今回は自らのパワー不足を実感。たまたま不調だったのか、寒さに体力を奪われたせいか、それともそう思いたくはないが、加齢で足腰が衰えてきているのか、満足感のなかに少しビターな後味を残す山行になった。

  平日なので高速の深夜割引が適用される時間帯に自宅を出発した。ガラガラの道をスムーズに走り、午前5時半には美濃戸口に着くことが出来た。広い駐車場には昨夜から来ていると思われる車が4台駐車している。出来れば美濃戸まで車で乗り入れたかったが、ネットで調べると四駆でもチェーンが必要とのこと。スリップによる事故や立ち往生も多いらしい。往復2時間の林道歩きは辛いが、無理することはない、美濃戸口から歩くことにしよう。空を見上げると星がいくつか瞬いている。それにしてもえらく寒い。予報によれば、強い寒気団の影響で厳冬期並みの気温になるとのこと。美濃戸口に着いて車の温度計を見ると確かに零下10度を下回っていたし、夏沢鉱泉HPのお天気情報を帰宅後チェックすると、午前7時の温度がマイナス17度となっていた。同鉱泉は、美濃戸より更に500mほど高い標高2000m付近に位置しているのでそんなものだろう。いずれにしても相当厳しい冷え込みであったのは間違いない。

 朝食や身支度をしながら明るくなるのを待つ。ほぼ日の出と同時、6時に車を後にした。5分ほど歩いた所でフリースを車に忘れてきたことに気がついて引き返した。行者小屋までは樹林帯でもあるし薄着で歩くつもりだったのでいつも着ている二枚のミドルのうち一枚を脱いでいたのだった。美濃戸への林道は深い轍状に圧雪されていた。これでは余程車高が高い車でなければ腹を擦ってしまいそうだ。美濃戸へは1時間ほどで到着。美濃戸山荘を過ぎてすぐの分岐から南沢へと入る。



     美濃戸の駐車場には意外に多く車がある                雪上車も


 雪は次第に深くなってきたが、トレースがしっかりつけられているので助かる。ニ三日前に降雪があって、今日は平日なのでどうなることかと思ったが、流石に人気の八ヶ岳、たくさんの人が歩いているようだ。上空は青空だが、進行方向の美濃戸中山にはガスがかかっている。振り返ると南アルプスらしい白銀の峰も見えているので今日の好天を期待しよう。樹林帯が次第に後退して南沢の両側が開けてくると左手には白銀に輝く横岳が見えてきた。さらに進むと青空をバックに赤岳や阿弥陀岳も全貌を現した。大同心や横岳の西壁のアルペン的風貌は何時見ても感動するが、全てが凍てつき白く染まった冬場には神々しいと言っても良いほどの迫力がある。もうこれだけで来た甲斐があった。行者小屋まで後わずかになったところでロープを背負った若者二人に追いつかれた。彼らはこれから赤岳主稜に向かうとのことだ。行者小屋は前の広場が少々除雪してあるだけで小屋自体は深い雪に埋もれていた。誰がつくったのか大きな雪だるまが入り口付近に置いてある。ここで大休止し、これからの最後の登りに備えた。足回りにはアイゼン、さらに防寒のためアウターの下にフリースを一枚追加し、ネックウオーマー、それと新兵器、ホッカイロを手袋のインナーの手首内側に貼った。齢のせいか、最近は手袋を三重にしても厳しい寒気のときは指先の感覚が無くなってしまう。こうして血流を暖めるだけで耐寒性が劇的に改善されるのだ。南沢を歩くだけで痺れていた指先の感覚もすぐに戻った。それと内燃機関に燃料を補給、アンパンを食すが半ば凍ってしまい、ジャリジャリと砂を噛んでいるようだ。


            下界は晴れている                         しっかりしたトレースがあって助かる



            横岳が見えてきた                            行者小屋はもうすぐだ



クライマー達が行く



               行者小屋                               阿弥陀岳方面を望む



 休憩もそこそこにストックをピッケルに持ち替えて出発した。文三郎道に入ってしばらくすると上空にヘリが飛来し、ちょうど私の頭上辺りをホバリングしている。近くで遭難でもあったのだろうか。先ほどのクライマー達の様子を見ているのだろうか。それとも私が遭難者に見えるのかな。しばらく旋回していたが、いつしか飛び去ってしまった。文三郎道にはトレースがしっかりつけられているのでラッセルは必要ないのだが、パウダースノー状態なのでアイゼンがあまり利かない。夏場は階段がある箇所は急な雪の斜面になっているし、鎖も雪に埋もれているので、足場が頼りないのは辛い。一歩進むと半歩ずり落ちることの繰り返し。足が重くてどうも今ひとつ調子が出ない。稜線はすぐそこなのだが、なかなか近づいてこない。それに先ほどまでの青空はすっかり姿を隠し、山頂付近はガスで覆われてきた。稜線付近は風の通り道になっているようで流石に風が強い。むき出しになった岩と硬く締まった雪のミックスの尾根を登っていく。急登箇所には鎖がつけられているものの、その殆どは雪に埋もれて使い物にならない。南側に回りこんでトラバース気味に登る箇所は、かなり急な雪の斜面になっていてちょっといやらしい。ピッケルでしっかり確保しつつ慎重に登った。重い足を引きずり、
1150分、ようやく山頂に立った。



          文三郎道への道を歩き出す                        横岳を眺めながら歩く



            稜線まで後わずか                              やっと着いた



阿弥陀岳にはトレースがないようだ


        トラバースでちょっと緊張                          やっとのことで頂上に



            赤岳山頂にて                               頂上小屋はすぐそこ



 あいにくの天候で視界不十分だ。指呼の距離にある阿弥陀や権現等もガスに覆われて見えない。寒風吹きすさぶなか、長居をする訳にもいかず、さっさと下山することにした。頂上山荘から展望荘への稜線には強風による雪煙で消されてか、トレースが全く見当たらない。時折、吹き溜まりでは脛から膝まではまりながら痩せた稜線を下っていく。展望荘を素通りして地蔵尾根の分岐へと向かう。お地蔵さんはえびの尻尾を顔につけて深い雪に埋もれていた。地蔵尾根のラッセルも覚悟していたが、幸いここから先にはトレースがあった。地蔵尾根への下降地点は雪のナイフリッジになっていてどこを歩いてよいのかわからない。刃の上はとても渡れないので雪壁にピッケルを深く差し込んで確保しつつ降りた。アイゼンを引っ掛けないように慎重に下り続け、樹林帯のなかに入ってからは適当な斜面では尻セード。行者小屋まで戻ると今日のハイライトは殆ど終了したようなものだ。後は新味の無い道を戻るだけ。アイゼンを外して再び南沢を歩きだす。時々振り返るがグレーに閉ざされた峰々には往路のときのような感動は無い。途中でテント泊まりの大荷物を背負った単独氏三名とすれ違った。本日山中で会ったのはクライマーの若者二人とこの三人の計五人だけだ。人気の八ヶ岳ではあるが、冬場の平日はこんなものかも知れない。美濃戸からの林道の凍てついた轍に何度もバランスを崩しながら歩き続け、すっかり棒になった足を引きずって
340分に美濃戸口へ帰着した。案の定、翌日足の筋肉痛に悩まされた。どうやら昨年の笊ヶ岳以降長時間歩行をしていないのが、今回の不調の原因であったかも知れない。山歩きの筋肉と体力は、ヘビーな山歩きを続けていないと維持できないということか。何とも因果なことだ。



            展望荘が眼下に                             展望荘より赤岳を振り返る



        お地蔵さんは雪のなか                               地蔵尾根の分岐



            地蔵尾根の急な下り                           樹林帯に入ればホッとする



          美濃戸口へと歩く                             やっと美濃戸口へ帰着



行動時間              9時間40
歩行時間              9時間

 Map  Track

   トップ

 山歩き
inserted by FC2 system