2011年11月4日
山と高原地図の破線コースはなるべく避けるようにしているのだが、それでもどうしても行ってみたいコースがあった。昨年戸隠スキー場から眺めて感激した戸隠山から西岳に続く鋸の刃のような稜線だ。似たイメージの妙義山縦走が事のほか印象深かったこともある。まだ紅葉も楽しめるかも知れない等と期待に胸を膨らませて、飛び石連休の狭間の晴天を狙って出かけることにした。
いつものように深夜に自宅を出発、白々と夜が開ける頃、戸隠高原の鏡池に到着した。駐車場には何台か他県ナンバーの車が先着していた。同好の士かと思いきや、皆カメラと三脚を担いで思い思いのスポットに散り始めた。どうやら鏡池から朝日に染まる山の稜線を見上げる構図を狙うアマチュアカメラマンらしい。山姿は一人も見当たらない。
鏡池からの絶景 駐車場には車が数台
トイレと身支度を済ませて6時10分に車を後にする。今日の予定は周回コースなので八方睨から、またはP1尾根のどちらからでも同じなのだが、八方睨直下のナイフエッジを下るのは避けた方が無難かなと軽く考えて前者から歩くことにした。しかし結論から言うと逆コースがベターかも知れない。P1尾根を下りきってから鏡池まで200mの登り返しが、最後の行程にあるので疲れた体にはしんどいからだ。
鏡池からささやきの小径を歩く。気持ちのいいハイキングコースだ。随神門から樹齢400年の巨大なくま杉の立ち並ぶ参道を抜けていく。正面には朝日に染まった戸隠山の屏風のような岸壁が垣間見えて、神仏にあまり縁の無い私ですら敬虔な気持ちにさせられる。
随神門から参道を眺める くま杉の並木
戸隠神社奥社 登山口
戸隠神社奥社で登山者カードを提出し、いよいよ本格的な登りが始まる。それもいきなりの急坂だ。今日は気温が高くて汗がひっきりなしに流れる。朝のお勤め時間らしく背後からは神社の太鼓の音が聞こえてくる。周囲が雲海のガスに包まれてしまうと太鼓の音も遠のいた。
大汗をかいた急登も一息つくようになって、五十間長屋、百間長屋といった岩庇を通過する。やがて左手に雲海に浮かぶ本院岳が姿を現した。この辺から鎖場が続くようになる。その先に両側がスッパリ切れ落ちたナイフリッジが現れた。これがかの有名な蟻の戸渡りだ。ネットの画像では何度も目にしているが、高度感は想像以上だ。ここから落ちるのは滑落ではなく墜落と言われる所以も納得。恥も外聞も無く、四つん這いで歩く。一番狭い1mほどの箇所は跨って越えた。ここをアイゼンを履いたまま歩いた人の記録を見たこともあるが、気違沙汰だ。
雲海を抜ける 本院岳と西岳
鎖場が出てきた ナイフリッジが登場
蟻の戸渡りを渡る 八方睨の途中より
蟻の戸渡りから一登りすると八方睨の頂上に着いた。改めて雲海に浮かぶ蟻の戸渡りを眺めるが、上から見ても迫力十分だ。反対方向にはここで初めて高妻山を目にすることができた。近くから見る高妻山はやはり強烈に存在感のある山だった。八方睨では長居をせず、戸隠山へと向かう。8時25分、1904mの狭い頂に立った。
高妻山
戸隠山山頂 雲海に浮かぶ蟻の戸渡り
八方睨から本院岳と西岳、背後は北アルプス
今日の戸隠山は二百名山でも、あくまで通過点、休むことなく本命の本院岳、西岳に歩を進める。再び八方睨へと戻り、笹薮を切り開いた急坂を降り始めた。ここから先殆ど全ての行程がそうだが、容赦の無い急下降、急登の連続なのだ。しかも足場は笹の葉や茎で滑りやすい急斜面で、そうで無ければ鎖のかかった岩場だ。つまり歩いている間中、笹か鎖のどちらかに掴まっていることになる。
笹を苅払った登山道、ずっとこんな感じ 本人岳への登り
稜線の背後には新雪を頂いた後立山連峰が見えているが、景色をゆっくり楽しむ余裕も無いまま、息を切らして登下降を続ける。稜線は細く痩せており、躓きでもすれば只では済みそうにない。破線の意味がわかった気がしたが、この先P1尾根でさらに思い知ることになる。本院岳を越えて10時40分に西岳に到着。ここでランチにしたが、樹林で北アルプス方面の展望が遮られており、こんなことなら本院岳で休めば良かったと悔やむ。
西岳を望む 展望の遮られた西岳山頂
高妻山と妙高(右)
北アルプス後立山の山並み
食事後は少し下った見晴らしの良いところで白馬岳からミニチュアサイズの槍穂まで北アルプスの展望を楽しむ。さてそろそろ下山にかかりますか。第一峰から鎖に連続する痩せ尾根を降る。笹薮や小枝が煩い急斜面だ。ザックのサイドポケットに入れた水筒が何度も持っていかれそうになる。コイル式のナイロンロープでザックと繋ぎ、抜け落ちても平気なようにしてあるのだが、鎖で下降中に枝に引っかかった水筒を引っ張ったところ勢いよく戻ってきて足の付け根を直撃。あと数センチずれていたら悶絶ものだった。
手前のピークが第一峰 乾いた笹、これが良く滑る
まさに鎖の連鎖
なかなか高度感もある
尻餅をついたり、笹の切り株の鋭い切っ先で手袋を破ったりしながら、ようやく麓にたどり着いた。それ迄とは売って変わって、もみじ混じりのんびりした林の中を下って行く。時折現れる真紅の紅葉が素晴らしい。やがて小沢が出てきた。水量が少ないので石伝いに簡単に渡れる。こうした小沢を3回渡渉した後、鏡池への分岐が出てきた。地図で見れば僅かな距離なのだが、だらだらした長い登りにいい加減うんざりする頃、ようやく舗装道路が見えてきた。
朝とは一変して鏡池は大勢の観光客で賑わっている。駐車場の周辺も人通りが多すぎて着替えもままならないほどだ。山中で出会ったのは単独が2名のみ、何という対比であろうか。ともあれ、久しぶりに静かな山でアスレチックを楽しんだ充実の山歩きであった。覚悟はしていたものの、翌日上半身の筋肉痛はひどかったが。
行動時間 8時間
歩行時間 7時間30分
鏡池より
|