蓼科山  長野県 2530m   百名山

  
 

20091212

 前日まで低気圧の通過に伴う相当に強い雨が降り続いていたが、予報によれば天候の回復が期待できそうである。それにこの季節、下界は雨でも山は雪に違いない。新雪の山歩きを楽しもうと、北八ヶ岳の蓼科山を目指すことにした。冬の北八ヶ岳は初めてではない。その昔、40年近く前に冬の硫黄岳を歩いたことがある。シュカブラやえびの尻尾の美しさ、それに爆風のように吹き付ける強風がまるで昨日のように記憶に残っている。いつかまた歩いてみたいと思っていた北八ヶ岳だが、還暦を過ぎてようやく実現することができた。

 早朝
4時に自宅を出発。百名山を目指すようになって、早や1年、中央道はすっかり通い慣れてしまった。諏訪ICから市街地を抜け、ビーナスラインへと入る。気温が零度を上回っているので凍結の心配はなさそうだが念のためゆっくりと車を走らせる。高度が上がるにつれて、別荘地のなかのつづら折れの道の周囲は次第に雪模様になってきた。しかし、道路は冠雪しておらず、チェーンが必要になるという程ではない。7時前に女神茶屋に到着、雪が数センチ積もったパーキングに乗り入れる。他に車は一台も見当たらない。本日一番乗りである。百名山と雖もやはり冬場は登山者の足が遠のくようだ。久々の冬山、身の引き締まるピリッとした寒気を期待していたが、今日は妙に生暖かい。ここは標高が1300mというのに、気温は何と+1Cである。行動中は汗をかきそうなので半袖のアンダーにユニクロのフリースという軽い出で立ちで歩き出す。駐車場を少し戻った辺りが登山口である。新雪の小路に点々とついているシカの足跡を追うように進む。(下の写真)


 
道は次第に傾斜を増し、ぐんぐんと高度を稼ぐようになる。積雪量も増えてきて足首が、時には脛まで埋まるようになってきた。下手なトレースをつけると後続の人が迷惑するだろうと歩きやすいところを慎重に選ぶ。時折、振り返ると、木々の間から真っ白になった南アルプスの山々が垣間見えて疲れが癒される。








南アルプスの峰々



 
気温が高くて雪はぐずぐずであり、アイゼンが必要となる状況ではなかったが、練習のため買ったばかりの12本爪を装着した。ついでにオーバージャケット、オーバーパンツも身に着けてみた。格好だけは一人前である。アイゼンの感触を楽しみながら更に深くなった雪道を進む。新雪に覆われているものの、シラビソのブッシュを切り開いた回廊のようなコースなので迷う心配はない。ダブルストックでバランスを保ちつつ、足を運んでいたが、雪に隠れた石に右足のアイゼンが引っかかったため、左足を踏ん張った瞬間、脹脛上部に激痛が走った。とっさに左足を庇ったため体勢が崩れて転倒、何かで脇腹をイヤと言うほど強打してしまった。今回の山歩きのため、赤錆状態の年代物のピッケルを磨いて持参したが、これが凶器になったらしい。このピッケルは結局ザックの飾りのままで、最期までお役に立つことはなかった。このところ毎回怪我に見舞われている。それに右足脹脛の故障は慢性化してしまったようだ。どうやら年を考えて自重しろと山の女神様からの警告かもしれない。肋骨を骨折している様子もないし、左足の痛みも我慢できないほどではない。一歩一歩足場を確認しながら、より慎重に歩を進める。

 次第にシラビソの背が低くなり、ダケカンバが多くなってくると間もなく頂上近くの岩石帯である。風も穏やかで拍子抜けするほど。この辺りは雪からところどころ岩が顔を出している。むしろ岩と岩の間のスペースに雪が詰まっていると言うべきか。前日に積もったばかりの雪はまったく締まっておらず、時折太腿まで一気に踏み抜いてしまう。吹き溜まりでは腰まで嵌ることもある。ガスがかかって視界がきかないなか、目印のポールを外さないよう平均して膝までの湿雪のラッセルを黙々と続ける。ようやく蓼科山頂ヒュッテに到着したが、素通りして頂上に向かう。1040分、三角点にそっけない標識が立つ山頂立った。ここまで休み無しで3時間半、夏のコースタイムを大幅に超過してしまった。

 濃いガスで展望はまったく無いので、山頂周辺をカメラに収めてすぐに下山にかかる。帰路は自分が開いたトレースをそのまま逆行するだけなので格段に楽になった。一番乗りと二番手では必要な労力が天と地ほども違うことを実感した。山に限らず何事もそうであるが。再び樹林帯に入ったところで、本日始めて他の登山者、単独の若者に出会った。しばらく下ったところで今度は二人目と。いかにも山慣れした様子の女性である。その後も単独1名に2人パーティとすれ違った。途中でアイゼンを外すが、面倒なので服装はそのままで下り続け、1245分に女神茶屋に帰着した。この辺りの雪は解け始めていてシャーベット状態である。着替えを済ませてすぐにハンドルを握った。比較的早い時間帯であったため、中央道の渋滞にも巻き込まれず夕刻には自宅に帰着することができた。蓼科山は遠くから見れば山頂付近がふっくらした、いかにも女性的な山である。丸みを帯びた優雅な山容は、別名「女の神山」と呼ばれるらしい。しかし頂上付近は名前とは裏腹に岩石が累々としいて無雪期でも歩きにくそうだ。今回は、そこに新雪が積もって岩と岩の境目がわからず、太腿、場合によっては腰までの踏み抜きの連続となってしまった。美女と思って近寄ってみたら小皺を厚化粧で隠した「おばん」だったと言うところか。

行動時間              5時間55
実歩行時間           5時間35
コースタイム       4時間10


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