2012年7月18日(水)
今月末のカムエク遠征に備えて沢靴を購入してみたものの、新調の靴には今まで散々辛い目に逢っている。一度も試し履きをせずに本番に臨むのもどうかと近場の沢を歩いてみることにした。行き先は丹沢で最もポピュラーな水無川。若かりし頃、何度か通った懐かしい沢だ。
当時本格的に沢を歩く人は地下足袋に草鞋が定番のスタイルだった。私の場合ビブラム底の登山靴のままじゃぶじゃぶと水に入っていた。実は山装備にかける金がなかっただけなのだが。。。あれから40年、進化した沢靴で足元をばっちり決めての再挑戦だ。
早朝6時に大倉の有料Pに車を入れる。本当は秦野戸川公園の無料Pを使いたかったのだが、8時半からオープンなので仕方ない。さっそく沢靴を履いてみた。足首がタイトでちょっと手こずるが何とか押し込んだ。今回は初めから終わりまで沢靴で通して色々な路面で性能を評価してみようと思う。ただし万一に備えてスニーカーをザックに忍ばせておくことも忘れない。ネオプレーンのソックスも初体験。暑苦しいし、蒸れそうだが大丈夫だろうか。
6時15分に歩き始める。公園のシンボルとも言える立派な風の吊橋を渡って戸川林道に降り立つ。滝沢園との分岐を過ぎるとすぐに車両通行止めになっていた。沢音を響かせる水無川の流れに目をやりながら沢靴の感触を確かめつつ歩く。左に別ける道があったが、立ち入り禁止。林道に戻って竜神の泉を過ぎると再び分岐が出てきた。ここが入渓地点、左に下っていくと水無川の河原に降り立つことができた。広々した河原だ。
風の吊橋 同対岸より
この分岐は通行止め ここから河原へ下りる
最初は何の変哲もない河原歩き。流れに沿って遡行して行くと、両側から次第に山が迫ってきて渓谷らしくなってきた。沢靴のお陰で抵抗なくざぶざぶと流れに足を入れることが出来て嬉しい。水を避けるためのコース取りで余計な労力を使うこともない。何度も水に入り対岸へと渡渉する。せいぜい膝下、深くても太腿辺りまでの水深で快適だ。下界の暑さが嘘のように涼しくて気持ち良い。
広い河原歩き 山が両側から迫まって、
次第に沢歩きらしくなってきた 緑と水が調和して美しい
新調の沢靴は濡れた岩でもしっかりグリップしてくれる。乾いた岩で多少スリップすることもあるが、ストレスを感じる程ではない。小滝が連続して本当に気持ちの良いウォーターウォーキングだ。大きな岩を乗り越えた途端、糸を垂らした渓流釣りのオジサンと鉢合わせしそうになった。彼が沢の遡行中出合った唯一の人だ。モミソ沢との出合いを過ぎてすぐに懸垂岩が現れた。ここはクライミングの練習ゲレンデ。平日の今日は誰一人いない。
大体膝下の水位 モンベルの沢靴です
美しい小滝が連続する
高さ30mほど?の懸垂岩
やがて大堰堤が前に立ちはだかった。ここが中流域の終点だ。飛沫を浴びながら左岸に付けられた踏み跡を登って行く。この周辺は悪名高い蛭の生息地、急斜面だが地面に手を触れないよう気を付けて登る。ほどなく作治小屋の裏手に出た。足元をチェックすると噂にたがわず蛭が二匹沢靴の紐の辺りを這いまわっている。一匹は石打ちの刑にて処分、もう一匹はどこかへ雲隠れして見当たらない。まぁいいかと、そのまま放置して後で後悔することになる。
大堰堤の右側を巻いて、 作治小屋のこの辺りに出る
作冶小屋の先から再び沢へとカムバック。堰堤を高巻いて河床へと降り立った。いくらも歩かないうちに書策新道と交差した。新道とは言え案内板も古びていて、かなり荒廃が進んでいるようだ。この先は再び堰堤。右岸にアブミが掛けられていたので高巻きせず直登。しばらく進むといよいよF1が姿を現した。かつては直登した記憶があるが、体が堅くなった老体には無理と迷うことなく巻き道へとエスケープ。
さびれた書策新道 アブミを使って堰堤を越える
F1の滝 ちゃんと案内がある
天気は今ひとつ冴えない。ガスが次第に濃くなってきた。それに唯でさえ日の射さない沢の印象が陰鬱になって残念だ。セドノ沢を別けるとその先はF2。これは左側の鎖があるので簡単に乗り越えることが出来た。シャワーを浴びて涼味満点の登攀だ。次のF3には落ち口辺りに残置ロープがあったが、ちょっと厳しそうだったのでさっさと巻き道へ。滑落事故多発地点のカンバンも自ら滑落したようで見事にひっくり返っていた。
F2 左岸の鎖を頼りに登るがびしょ濡れ
F3 滑落事故多発の注意書きも滑落
F4は左岸をへつる鎖を頼りに直登。F5は落差もあってかなりの迫力だ。左岸の鎖が途中で断ち切れている。ここは巻き道で乗り越した。この先、しばらくして再び書策新道と交差する。ここから一段と傾斜がきつくなった。水量も大分減ってきた。
F4 F5 鎖が切れている
書策新道と再び交差 ガスが深くなってきた
どうやら本谷をミスルートしてしまったようで、F6以降の滝は現れなかった。昔の記憶に無いルートだ。帰宅してから調べると木ノ股大日沢に入り込んでしまった模様。ロープや鎖など人工物の無い滝をいくつか越えて上部を目指す。最後の大滝は右岸から巻いたが、触れる石全てが浮石といった感じの急なガレにてこずった。不安定な砕石を押さえつけるように這いつくばりながら植生に手掛かりを求めようとするが、意地悪なことに周りはアザミばかり。とげが痛くてとても触れない。
沢の出合い(多分ここを間違えた。本谷は左?) 滝にF番号が付いていない
二段の滝 これが最後の滝
ほうほうの体でガレを脱出して流れに戻るとそろそろ源頭も近い。水が消えたところで左岸の小尾根に取り付いた。樹木や笹に摑まりながらの急な登りを続けて行くとやがて傾斜が緩んできた。間もなく表尾根の登山道に行きあった。塔ノ岳まで700mほどの地点だ。
ガレにてこずる 小尾根に取り付いたところ
花を楽しむ余裕も出てきた やっと稜線に
塔ノ岳山頂にはカラフルで洒落たウエアに身を包んだ山ガールや山(元?)ボーイズ達が休んでいた。我が身を見れば、泥まみれの濡れネズミ。そんな姿にちょっと気おくれしてさっさと退散することにする。軽くランチを食したのみで速攻で下山。沢靴はこのシーンでもしっかりグリップが利いてくれた。尻もちを突くことも無く午後1時20分に無事下山完了。
ガスで視界なし 塔ヶ岳山頂
かくして沢靴の試運転は無事終了した。十分満足いく使用感。これなら沢のみならず、林道や尾根歩きがあっても沢靴だけでもいけそうだ。カムエクはアプローチから山頂まで沢靴だけでトライしてみよう。
後記
帰宅後、靴やネオプレーンの靴下を洗っていると太った蛭が鎌首を持ちあげてきたので、思わずのけぞってしまった。改めて足元を良く見れば脛のあたりから血が一筋。あの行方不明の一匹がちゃっかりソックスに潜り込んでいたのだ。ちなみに傷口の血が固まらないのは、蛭の体液に抗血液凝固物質ヒルジンが含まれているからだそうな。
行動時間 7時間10分
歩行時間 6時間30分
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