谷川岳馬蹄形縦走            
      

2018年6月14日(木)

 60代前半、日本百名山巡りに血道をあげていた頃は、休憩時間も含め標準コースタイムの70%を目安にしていた。歳を経るごとに短縮率は低下し、現状は85%から90%と言ったところだろうか。

 脚力は落ちてもロングルートを歩きたいという欲求は従前通りなので始末に悪い。今回、チャレンジするのは以前から一度は体験したいと思っていた、トレランの世界ではポピュラーな谷川岳馬蹄形縦走。標準CTは17時間45分。距離にして25Km、累積標高は3000mを越え、高齢者ならずとも日帰りするには相当過酷なコースだ。

 歩くルートは反時計回り。白毛門からスタートして清水峠経由、谷川岳までぐるりと周回し、西黒尾根を下山する予定。現在の脚力からすると、推定所要時間は凡そ15時間から16時間。西黒尾根の岩場で日没を迎えたくはないので、遅くとも午前3時迄にはスタートしなければならない。

 下山時刻から逆算して午前零時前に自宅を後にする。暗闇で入口が分からずまごついたが2時過ぎには何とか白毛門登山者用駐車場に到着。身支度を整え、2時40分に歩き出すことが出来た。

 ナイトハイクは景色に癒されることが無い代わり、涼しいし、何よりもこの時期鬱陶しい虫に纏わりつかれずに済むので助かる。木の根が絡み合う急登を黙々と登行。午前4時を回る頃、夜は白々と明け、谷川岳の大岩壁が望めるようになってきた。


午前4時前、白々と夜が明けてきた



モルゲンロートに染まる谷川岳


 5時15分、白毛門山頂に到着。先が長いので余りゆっくりはしていられない。水分補給をしただけで次のマイルストーンに向け歩き続けた。朝日岳までは尾根上の快適な道だが、意外なアップダウンがあり、思いのほか体力を消耗させられた。それと泥濘にも要注意だ。うっかりすると踝まで嵌ってしまう。


ここ迄は順調



笠ヶ岳と朝日岳



 この辺りまではまだ気力体力十分、山スキーヤーの目で景色を眺める余裕があった。稜線の東側には、比較的穏やかな山容が広がっており、冬場には無木立の大雪原と化すことが容易に想像できる。私好みのまったり系山スキーが楽しめそうなところだ。来シーズンには、ナルミズ沢やウツボギ沢等、宝川源流域を今少し深堀してみたい。


朝日岳の東側にはよさげな斜面が広がっている



清水峠遠望 その向こうには上越のマッターホルン太源田山


 7時25分、朝日岳到着。水分を補給し行動食を摂る。4年前はここから引き返したので、この先は私にとって初体験。ジャンクションピークには残雪期限定とされながらも巻機山へのルートを示す道標があったのは意外だった。道標から数m先は激藪の世界。帰宅して調べると無雪期にこの激藪をかき分けて三国山脈を踏破した強者がいたのにはビックリ。


朝日岳山頂 新潟側には雲海が広がっている



ジャンクションピークへと向かう



巻機山への道標があったが、このすぐ先は激藪


 ところで、この辺りは谷川岳から最も遠隔な対蹠地点。ミニチュアサイズの谷川岳を眺めながら、今日中にあそこまで行きつけるのかとちょっと不安になる。


谷川岳は遥か彼方


 清水峠は近いように見えてそうでもなかった。地図では下り一辺倒のように見えるが、実際は細かなアップダウンがあり、足場の悪いへつりが何か所もあったりして、いたずらに時ばかり過ぎる。赤い三角屋根の建物(送電線監視所)が中々ズームアップしてこないのだ。


清水峠を遠望 左奥は苗場山


 この辺りで逆コースを周回する単独のハイカー、3人と行き合った。いずれも20才台だろうか、疲れを微塵も感じさせない軽快な足取りの彼ら。私はと言えば、そろそろ脚には乳酸が溜まりだしているし、背後から太陽にカンカン照りつけられ汗びっしょり。道半ばにして早くも消耗気味だ。


清水峠に立つ赤い建物が中々近づいてこない



JR保守作業員と登山者用を兼ねた避難小屋



峠より巻機山遠望 天狗岩も見えている


 峠で十分な水分補給と行動食で気合を入れなおしての後半戦。胸を突く急登に耐えて七ッ小屋山へ。山頂から眺める行く手には縦走路がうねうねと果てしなく続いている。


太源太山



七ッ小屋山の山頂より 谷川岳への遥かな道のり


 10時55分、蓬峠に到着。ここから3時間頑張れば文明社会に戻れる分岐点だ。エスケープルートの蓬新道を見送ると、後は先へ進むしかない。予定より少し遅れ気味だし、疲れてもいたが、まだ余裕はある。それに今回は最初で最後、まず二度目のチャレンジは無いと思う気持ちが背中を後押しして続行を決定。


こじんまりした蓬ヒュッテ


 武能岳を喘ぎ登っていると若者がひたひたと早いピッチで追いついてきた。聞けば5時に白毛門駐車場を出発したとのこと。頭の中でざっと計算すると、同じコースを10〜11時間台で周ることが予想される驚異のハイペース。彼の若さと健脚ぶりには完全に脱帽だ。


武能岳への上り坂から蓬峠を振り返る



そろそろガスが出てきた


 武能岳からまたウンザリする程鞍部へと下り、そこから400mの登り返し。既に10時間以上歩き続けた脚には十分な試練だ。それでも、そこかしこに点在するお花畑に癒されながらノンストップで登り続け、午後1時25分に茂倉岳山頂に着いた。


一旦下って愈々茂倉岳へ 芝倉沢が凄い存在感をアピール



雪が無い方が急に見える芝倉沢



茂倉岳にようやくたどり着いた


 時間も押しているし、午後になって発生したガスで視界も遮られていることから、水分補給だけですぐに次のピークへと向かう。山頂付近に残る雪渓歩きで涼味を満喫。一ノ倉岳を通過し最後のピーク、谷川岳へ歩を進めた。


一ノ倉岳直下の雪渓



強面の谷川岳


 鞍部から登り返す途中で、また一人に追いつかれた。今度は中高年ハイカー、年のころ60歳前後だろうか。2時50分、オキの耳に立った。ここで先ほどのハイカー氏と情報交換。「下りは西黒尾根です。貴方もそうですよね」と言われ、内心ロープウェイの選択肢を考え始めていたのに、反射的に「もちろん」と答えてしまった。後でつまらぬ見栄を張らなければ良かったとちょっと後悔する羽目に。



次は最後のピーク、トマの耳へ向かう



これでピークハント終了 後は下るだけだが、、、



西黒尾根の険しさにとどめを刺された


 この先暫く西黒尾根を彼とご一緒するが、早いペースにとてもついて行けず、再び一人旅。この尾根は分かり切ったことながら、登るより下る方が大変だ。鎖場が続く険しい岩場に最後の力を振り絞る。下っても下っても天神平がいつまでも眼下にあるのを眺め、やはりロープウェイにすれば良かったと後悔の念が湧いてくるが、もう後戻りはできない。


いつまでも眼下に見える天神平


 樹林帯に入りようやく歩き易くなった。陽が谷川岳に遮られ夕暮れが近いことを知らせてくれるが、もはやペースを上げる余力は残されていない。やっとのことで道路に降り立ち、運転を終了しひと気の無いベースプラザを横目に下り続けた。

 6時10分、白毛門の駐車場に無事帰着した。延べ15時間30分の長丁場。短縮率は87%だったので、ほぼ計画通りだった。かくして古希目前のチャレンジは、DNFの誘惑に危うくくじけそうになりながらも何とか成功裏に終えることができた。

 一度経験してこのコースが病みつきになる人がいると聞く。こと私に関しては、今回で十分過ぎる達成感を味わえたので、金輪際二度目は無いでしょう。


道中を楽しませてくれたお花



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