谷川岳BC   新潟・群馬県 1963m            百名山
 

2020年1月25日(土)

 その昔、「塀の中の懲りない面々」という故安部譲二の自伝的小説があった。刑務所の入出所を繰り返す犯罪者達をユーモラスに描いた作品。貧雪の今シーズン、何故かそんなことが記憶から浮かび上がってくる。どこへ行っても濃い藪との格闘に疲れ果て山スキーはもう卒業との思いを新たにするのだが、時が経つと再び藪に囲まれた自分がいたりする。塀ならぬ「藪の中の懲りない面々」の一人なのだ。

 今回の激藪ストーリーは谷川岳西黒沢。過去二回経験した熊穴沢からの滑降は、いずれも西黒沢と合流してから手酷い藪攻撃に遭っている。今シーズンの積雪から判断すると状況は更に悪いことは容易に想像できる。しかし、Kさんから熊穴沢滑降のお誘いを受けると、辛い記憶はどこへやら。ホイホイと話に乗ってしまったのだった。どうやら記憶や学習能力を司る私の海馬は、歳とともに壊れ始めているらしい。

 早朝一番のロープウェイで天神平へ。暫く待たされた後、動き出したリフトに接続し天神峠の高みに労せずして立つことが出来た。ここから天神尾根を滑走。極短い時間だが、パウダースノーを楽しんで最下点へ。ここでシールオン。


天神峠からの眺め 上部にはまだ雲がかかっている


 ハイクアップをスタートして間もなく、ペースの早い外国人ツアーグループに追いつかれた。彼等はツボ足のまま、新雪を豪快にラッセルしながらどんどん先行していく。最近は白馬に限らず、どこの山域でもこうしたパワフルな外国人山スキーヤーを目にすることは珍しくなくなった。国際化はラグビーの世界だけではないということだろうか。


外国人チームが先行



熊穴沢避難小屋はかなり露出


 熊穴沢避難小屋からはアイゼンを装着し、シートラでハイクアップする。道中Kさんは雪の状況チェックに余念がない。登山道脇をストックで突くと厚皮モナカ、標高を上げるとカリカリの氷化斜面が出現。この雪質で避難小屋までスキーで戻るのは楽ではなさそうだ。


山頂へと向かう登山者の列



私もその一人


 肩の小屋でシールオフ、アイゼンも外し滑降準備をしておく。11時35分、大勢の登山客であふれるトマの耳に到着。写真撮影を終え、11時50分、滑降開始。ところが、先日の苗場山での悪夢再来。左足がどうしても滑降モードにならないのだ。私のブーツは歩行から滑走モードへはステップインするだけの自動切換え方式。一旦肩の小屋へと戻り、何度かステップインを繰り返しているうちにやっと滑降モードになってくれた。


トマノ耳山頂にて



オキノ耳へと向かう人達


 気を取り直してスキー再開。所々氷化している箇所に気を付けながら、パウダーの快適斜面を滑降する。途中、マチガ沢のドロップインポイントを見学し、さらに滑降を続ける。西黒沢源頭部を標高1600m辺りまで滑り降りたところで、このまま西黒沢を降りるか、一旦登山道に戻って予定通り熊穴沢とするかの二択を迫られた。


滑降スタートしたKさん



同私



マチガ沢ドロップポイントからの眺め



マチガ沢 早くもボーダーがシュプールを付けていた


 この時頭にあったのは登山道脇のパックされた雪面。一方で西黒沢は軽く40度を越える斜度に緊張させられるものの、雪質は文句なしの底なしパウダー。Kさんは日本雪崩ネットワークから提供される雪崩危険度がLowであること、何度かスキーカットを繰り返したり雪面にショックを与えるなどして安定度を確認し、雪崩の危険性は低いと判断。Go/No goの決断を委ねられた私も納得し、このまま西黒沢の滑降を継続することとなった。

 それにしても相当な急斜面。見上げれば西黒尾根が頭上に覆いかぶさり、そこに雪煙が渦巻く非日常的、圧巻の景色だ。この急斜面をジャンプターンで何とか凌ぎやれやれと思ったのも束の間、標高が下がって今度はデブリ帯となった。その名残の雪塊にスキーを引っ掛け大転倒。以降細心の注意を払いながら滑降を続けた。


Kさん



Kさん



Kさん







これも私



しつこく私



西黒沢中盤 急斜面で雪を入念にチェックするKさん



Kさん





デブリ帯を滑走する私



やっと安全地帯かと思いきや、、、


 谷が狭まると、案じていた通り、あちこちで沢割れが始まった。下る程に沢割れが酷くなり、スキーのままでの前進を断念。Kさんが先頭に立って太腿ラッセルし、右岸台地へと登り上げた。そうこうしているうちに人声がしたので振り返れるとそこには登りで追い越していった外国人パーティ。彼等は熊穴沢を滑降してきたらしい。


慎重に沢マンホールの際を通過するKさん



同私


 何人かに先行してもらうと大胆にも激藪の急斜面をスキーのまま下降している。私も後を追うが、板が藪に絡まり難航を極めた上、下には深い渕がぱっくり口を開けており、滑り落ちでもしたら全身ずぶぬれ、心臓麻痺必至なので必死だ。これ以上スキーでは無理。止む無く板を外して太腿ラッセル。這う這うの体で安全地帯に逃れた。下山後振り返ると、ここが本日一番のハイライトだったかも知れない。


激藪との格闘が始まった



右下は渕 慎重にトラバースする私 後続はフランス人?カップル



渡渉もあった



短い脚で幅跳びも



 その後も沢沿いに開いたマンホールにハラハラドキドキさせられながら、田尻尾根下部のスキーコースに辿り着いた。ベースプラザ帰着は午後2時45分。同じところで藪に痛い目に遭ったのはこれで三度目となった。今回の体験は私の劣化した海馬にも忘れ難いレッスンとして深く刻まれた。今度こそ懲りたので四度目の入藪は無いでしょう。多分。。。

動時間  5時間35分

Equipment  Supercharger Woman 164㎝/Scarpa F1Tr


  
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