高妻山  長野・新潟県 2353m    百名山 
  
 

2010425

4月の最終週に関西方面の百名山巡りを計画していたが、直前になって背中に生じた出来物を治療することになって流れてしまった。5月の連休に突入すれば、高速は大渋滞、どこも大混雑するし、それ以降だと不安定になりがちな天候が気になる。未練を残したままではすっきりしないので、背中の痛みと相談しながら、日帰りで山歩きをすることにした。しかし、百名山行脚を始めて以来、手当たり次第に近隣の山々に足を伸ばしたツケで適当な候補が見当たらない。しばらく考えて、ちょっと遠いが、前回の四阿山で強く印象に残った高妻山か火打山のどちらかにすることにした。下調べをすると、後者はこの時期、山スキーで大そう賑わうらしい。と言うことで静かな山歩きが出来そうな高妻山を目的地とすることに決めた。

寒い日が続いているとは言え、日中の腐れ雪と格闘する羽目になることは目に見えている。出来るだけ早出するため、深夜1時に自宅を出発し戸隠キャンプ場へと向かう。予定通り5時前に現地に到着。キャンプ地へのゲートが閉っているので、戸隠バードライン脇の駐車場に車をとめた。気温は4月とは思えないマイナス7度! それでも5時を過ぎると太陽が顔を出して雪が緩むので、身支度を手早く整えて歩き出した。戸隠牧場内の平坦な雪道をしばらく進む。固く締まったキュッキュッという雪の鳴き音が心地よい。



    戸隠牧場から五地蔵山(たぶん)              前日の登山者の足跡



先行者がいるようだが、靴跡が深いのでおそらく昨日の日中のものだろう。先行者のトレースは夏道通り、大洞沢を左岸に渡っているが、地図を見る限り右岸のままでもいけそうなのでそのまま進む。途中の枝沢で本流を大きく外れそうになってきたので、一旦下って沢筋に戻る。次第に勾配がきつくなってくると、辺りはいたるところデブリだらけで汚れた雪塊に埋めつくされている。冬場は雪崩の巣になるのであろう。なぎ倒された白樺の大木の傷跡が生々しく、雪崩の破壊力の凄まじさを実感する。

         デブリがあちこちに                           不動の滝は氷漬け

やがて不動の滝の鎖場が見えてくるが、滝に水の流れはあるものの、取り付き部分が一面氷に覆われていている。すっぽ抜けそうな鎖をしっかり握りしめ、足場を確保しながら一歩一歩慎重に越える。その後はまた凸凹だらけの歩き辛いデブリが続く。稜線間近の急勾配をひと頑張りすると不動避難小屋に着いた。

             不動避難小屋                       高妻山のスマートですっきりしたライン

稜線上は日当たりが良いせいか夏道が見えている。アイゼンを外して、つぼ足で行くことにした。ここからは如何にも信仰の山らしいネーミングのピークが続く。最初のピークが二釈迦、三文殊、四普賢、五地蔵山、云々と続く。しかし、その昔の修験道にとっては格好の修行の場かも知れないが、現代の登山者にとってはこのアップダウンはひたすら堪えるのみ。救いは北アルプスの屏風のように連なる大景観だ。広域の地図を眺めると高妻山は大糸線を挟んで北アルプスを展望するベストポジションにあることがわかる。高妻山が次第に近づいてくるのでこれも大きな励みになるが、その一方で予想していた以上に頂上直下が急峻でちょっと不安になる。

        雪に覆われた高妻山への稜線

                       頂上直下がかなりの急斜面

 

行く手はすっかり雪に覆われ、尾根筋には雪庇が現れてきたので再びアイゼンを履いた。最後のピーク、八観音を越えるといよいよ最後の登りである。先行者の足跡があって心強いが、どう見てもつぼ足らしい。キックステップを極めた余程のベテランなのか、それとも怖いもの知らずの初心者なのか。この頃になると雪が緩んで12本爪のアイゼンでもザラメ雪でスリップするときがある。まさに「胸を突く」という表現がぴったりの急登である。安全を期してピッケルのシャフトを深く打ち込んで確保してから、つま先やサイドエッジを蹴りこみ、キックステップの要領でジグザグに進む。アイゼンは斜面にフラットに置くのが基本だが、それも状況次第である。そのうち上方に登山者の姿が見えたが、何やら座り込んでいる様子。アイゼンを持たず、どうやら雪面との摩擦を最大にするため、文字通り尻「制動」をやっているらしい。話を聞くと昨晩は避難小屋に泊まって、今朝キックステップで頂上を目指したが、一度滑落してしまったとか。くれぐれも気をつけてと声をかけた。心配なので時々振り返って尻制動君の様子をチェックしていたが、何とか無事に鞍部まで降り立つことが出来たようなのでひと安心した。これがもう少し早い時間で雪面がクラストしていたら、裾花川の谷に一直線に転落して昔の行者ならぬ即身成仏となった可能性もある。救助の要請をするような事態にならなくて本当に良かった。




頂上直下の雪庇

 苦しい登りを続けてようやく目の前から雪の斜面が消えた。やれやれ、やっと頂上かと思ったが、巨大な雪庇が張り出した頂上はさらにその奥にあった。時刻は10時半、歩き出してから5時間半で高妻山の頂に立つ事ができた。晴天、無風という最高の登山日和に恵まれ、素晴らしい展望に大満足と言いたいところだが、激しい消耗を強いられた為、完全にガス欠状態、ザックを下ろすなりコンビニのお握りに食らいついた。血糖値が落ち着いたところでようやく景色に目が行ったというのが真相。雪庇に気をつけながら周囲の大展望を楽しんだ。北アルプス北部の山々は若かりし頃、さんざん遊んだはずなのに確信を持って山座同定できないのがもどかしい。今年の夏は今少し北アに通ってみようと誓い山頂を後にした。



  手前は乙妻山、奥は妙高、火打、焼山、左奥は雨飾山か




北アルプス後立山連邦


火打岳

降りは登りのステップを使えば楽が出来ると期待していたが、雪の状態は更に悪くなっており、足場がどんどん崩れて役に立たない。一度両足とも滑り出してヒヤリとしたが、ピッケルのピックを雪面に打ち込んで止め、事なきを得た。後ろ向き、横向きとなりふり構わず、最もバランス確保が確実になる姿勢で降り続け、最後は安全なところからは尻セードで一気に鞍部に降り立った。トラックバックなのでルートの様子はわかっているが、雪質が明らかに変化してきているようだ。気温の上昇に伴って雪面は往路のように体重を支えてくれない、同じところを通過していても、予告なしにいきなり膝や太腿まで踏み抜くことがあるので体力だけではなく神経も疲れる。うんざりするアップダウンを繰り返してようやく避難小屋に帰着した。ここから先の雪質は更に悪化して脹脛から膝まで潜るようになってしまった。

 再び大洞沢沿いを行くが今度は左岸を歩く。幸い樹林帯のなかでは雪が締まって歩きやすくなってきた。小沢を何度か渡り返してしばらく進むと戸隠牧場に出た。ここでキャンプ場の位置を確認しようと
GPSを使ったが、誤って進行方向を示す矢印の向きを逆に見てしまい、あらぬ方向へ進んで時間をロスしてしまった。駐車場へは午後240分に帰着、殆ど10時間近く歩き詰めの辛い山歩きであったが、天気に恵まれて雄大な景色を楽しむことが出来た上、色々と経験させてくれた中身の濃い春山であった。


行動時間     9時間45分
歩行時間     9時間


Map     Track
  トップ     山歩き 
inserted by FC2 system