谷川岳   群馬・新潟県 1977m          百名山
 

2015106日(火)

 毎年山スキーでお世話になる巻機山へのアクセスは国道291号線。一級国道ともあろう立派な道路が、なぜ清水集落で行き止まり、ぷっつり途絶えてしまうのか、訪れる度に不思議に思っていた。それが、ふと目にした記事で鱗がぽろり。曰く明治初期に、清水峠を経由し新潟と群馬を結ぶ国道として開通させたものの、厳しい自然環境下で1年ともたずに崩壊が進み荒廃してしまったのだそうな。

 特に新潟県側は道の体をなさない壊滅状態になっているにも関わらず、国道としての指定は今なお取り消されていないというのは行政の不可解なところ。谷川岳愛好家ならずとも見聞きしているはずのそんな歴史トリビアを、不覚にもこの歳になるまで知らなかった。かくして遅ればせながら、群馬側の清水街道を歩いて往時を偲んでみることにした。


          厚い雲の垂れこめるベースプラザ         残念ながら奥壁はベールの奥


 夜明け前に、土合の谷川岳ロープウェイのベースプラザに到着。時間が早かったせいか、一階駐車場に車を余裕でとめることができた。
555分、ベースプラザを後にして歩きだす。

 一ノ倉方面の車両通行止めを知らずにやってきた車が数台、ゲート前で
Uターンし引き返している。この通行止めは観光シーズンの期間限定だが、期間外は冬季通行止めなので結局は通年塞がれていることになるそうだ。


             一ノ倉沢の案内


 清水街道の最初の区間はフラットな舗装道路。ブナの巨木が生い茂り、フィトンチッド溢れる心地よい散歩道だ。残念ながら紅葉は期待外れ。この辺りの標高では色づきにはまだ間があるようだ。天気も今一つ。群馬側は朝から低い雲が広がり易いとの予報通り、どんよりした曇り空だ。周囲の山には低い雲が垂れこめており、これでは期待していたマチガ沢や一ノ倉沢の奥壁の眺望は望むべくもない。


                                       一ノ倉沢も景観無し


 景色の代わりに要所要所の掲示板にじっくり目を通す。その蘊蓄にはなかなか興味深いものがある。清水街道についても解説されていた。国道
291号線はその昔からある上州・越後を結ぶ古道を、明治になって拡幅改修したものらしい。手を入れ過ぎたことが皮肉にも廃道化を促す結果となってしまったということだろうか。

 快適な舗装道は一ノ倉沢まで続いた。その先は幅員も狭まるダート道。時折深い泥濘が現れるので気が抜けない。山側に所々苔蒸した石垣が現れる。この石積みは当時の土木技術の高さを偲ばせるものと解説にあったが、どう見てもその辺の石を無造作に積んだだけと思うのは不見識だろうか。


               古の石垣                  幽ノ沢最寄の水場


 幽ノ沢の先に新道への分岐があった。そこには注意書きがあり、武能沢が崩壊しているので利用を控えるようにとのこと。新道を歩けば元々の意図から外れてしまうので、あくまで旧道を自己責任で継続することにする。旧道を離れて中芝新道へ転進する
Plan-Bも考えたが、堅炭尾根も破線ルートで決して楽ではないし、ガスが濃くますます視界不良になりつつある状況から没とした。


              注意書き                   国道は草ボーボー


 先へ進むほどに旧道のクオリティはどんどん低下し、国道とは名ばかり、登山道としても不適格なレベルになった。明らかに人の手が入っておらず、道は草に覆われ辛うじて踏み跡がついているだけの区間もある。ただ枝沢に若干の崩壊は認められたものの、特に危険を感じるようなところは無かった。芝倉沢を過ぎてしばらくすると道幅も増して格段に歩き易くなった。


            水場は豊富                    白樺避難小屋


 歩き始めから
3時間、白樺避難小屋まで来たところで清水街道の散策を切り上げることにした。清水峠まで完遂したい気持ちもあったが、それでは日帰りが困難になってしまう。また次の機会ということで、蓬峠へと向かった。


           やっと縦走路に出た                紅葉に晴れ間も出てきて一安心


 蓬峠からの縦走路に出ると、これまでとはまるで別世界。田圃のあぜ道から高速道路に出たようだ。全く人の気配の無かった清水街道から一転してハイカーの姿も散見できるようになった。武能岳への途中で出会った
3人パーティは馬蹄形縦走の途中で昨夜は清水峠の白崩避難小屋に泊ったのだそうだ。


               武能岳山頂                 紅葉が見事


 嬉しいことに稜線に出た頃より少しずつ天気が回復してきた。紅葉も稜線近くが真っ盛り。特に武能岳から茂倉岳にかけての西斜面に広がる赤黄緑のパッチワークが見事だった。
1145分に茂倉岳山頂に到着。ここでランチタイムとした。


西斜面に広がるパッチワーク



清水峠も展望できた



           茂倉岳への縦走路                茂倉岳山頂


 静かな山旅はここまで。この先、一ノ倉岳、オキノ耳、トマノ耳と進むにつれ、これが同じ山かと思うほどに人口密度が増してきた。下山道の選択肢は、西黒尾根、天神平からロープウェイ、田尻尾根の三つ。西黒尾根はかつてピストンで歩いたことがあるので見送り。出来るだけロープウェイは使いたくないので天神尾根、田尻尾根とつないで下山することにした。


ノゾキより谷川岳



ノゾキより下を覗くとまだ残雪があった


 肩の小屋から先は人ごみはピークに達し、天神平へ向かって下山する老若男女のハイカーで行列が途切れることがない。それが田尻尾根に入った途端、静寂の世界に逆戻りだ。岩だらけとは言え、比較的良く整備された天神尾根とは異なり、縦横に絡み合う木の根と苔蒸した岩、泥濘、それにどこまでも容赦の無い激坂ぶり。躓きでもすれば、大転倒しかねず最後まで気が抜けなかった。


天神尾根より望む紅葉



田尻尾根より谷川岳に別れを告げる


 
1510分、ベースプラザに無事帰着。それにしても今回は静寂から喧騒へと両極端に振れた山歩きだった。景色と利便性の高い人気コースに人が殺到し、歴史があっても人通りの少ない地味なコースは管理も行き届かず荒廃が進む。それがまた不人気を呼ぶ、、、清水街道はそんな悪循環に陥ってしまうのではと懸念される。何とかならないものだろうか。


行動時間  9時間20分

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