笈ヶ岳  石川、富山、岐阜県 1841m   二百名山  
  

2011430

 宿を午前3時過ぎに出発、157号線を手取湖畔沿いに北上し中宮温泉へと向かう。空を見上げると星が幾つか瞬いている。残念ながら、予報に依れば今日はすっきりした晴れは期待できないようだ。中宮温泉近くの白山自然観察センターに4時に到着。驚いたことに駐車場はすでに車で満杯だ。流石にこの時期にしか登れない人気の山らしい。トイレ近くに何とかスペースを見つけて車をとめたが、後から着いた人たちは空きスペースを探してうろうろ走り回っている。宿に用意してもらったお握りを食べながら、コースのおさらいをする。明るくなるのを待つつもりでいたが、周囲の車からどんどん登山者が歩きだしているのを見て気が変わった。私も出発することに。問題は新調のブーツ。昨日の荒島岳で散々痛い思いをしたのに懲りて、登山靴の紐は締めすぎないないよう気を付けた。ソックスも厚手のものを一枚だけとする。真っ暗ななかを歩き出したが、ヘッドランプをつけても、どこが登山口かよくわからない。幸い汚れた残雪の上に足跡が残されていたので、この跡を辿る。


        「通行禁止」から歩きだす(下山時撮影)                   駐車場の様子(下山時)



               トンネル(下山時撮影)                  その先には立ち入り禁止の柵があった


 上の方に先行したパーティのランプがちらちらと見える。すぐにネットで見た覚えのあるトンネルになった。ところが、二人組が引き返してきて、この先は柵で塞がれていると言う。確かに立ち入り禁止となっていた。
しかし、どう見てもこのコースに間違いなさそうなので、柵を乗り越えて先へと進む。さらにもう一つのトンネル(スノーシェッド)を通過。この頃には空が大分明るくなってきたのでライトオフ。残雪に埋もれた沢を横切るが、これはジライ谷ではない。休憩所の先が本日最初の難所、ジライ谷の渡渉だ。水量はそれほど多くはないので、対岸の石にジャンプし靴を濡らさずに渡ることができた。

 ジライ谷左岸は急峻な崖に囲まれていて、尾根への取り付き点がよくわからない。先ほどの二人組と共にしばらく行きつ戻りつする。
GPSを参考にしながら、適当に見当を付けて急な雪渓を登っていくと、トラロープが出てきた。後で聞くと、この辺りで迷った人は随分いたらしい。尾根への取り付きからいきなり急登がはじまった。確かに聞きしに勝るものすごい急坂だ。額から汗が吹き出しメガネのレンズにしたたり落ちる。ロープや根っこにすがりながらどんどん高度を上げていく。登山道沿いに咲き乱れるイワウチワに癒されると言いたいところだが、苦しい登りで精いっぱい。花をゆっくり楽しむのは後回しだ。


          ジライ谷の渡渉(下山時撮影)                   急登だが写真では臨場感が伝わらず残念



        イワウチワの群生(下山時撮影)                        次第に展望が広がる


 昨日の疲れが尾を引いていることを心配したが、そんなことも無いようだ。エンジンの調子が上がって来たので、先行パーティを何人か追い越した。冬瓜山(かもうりやま)への稜線へ出ると、地べたを這いずり回るような急登も一段落だ。今まで目の行かなかった展望を楽しむ余裕が出てきた。灰色の曇り空を背景にした真っ白な白山が、モノトーンの絵になっている。藪の踏み跡と残雪が交互に現れるなか、どんどん高度を上げていく。次第に傾斜が緩み、踏み跡は冬瓜山を巻くように進んでいる。これはおそらく冬瓜平へ向かうトレースなのだろう。途中から右に折れる別のトレースに乗り換えて冬瓜山の稜線方向に直登する。
 
 尾根筋は再び痩せてきてロープや木の根に摑まりながら登るようになる。樹林から抜け出すといきなり景観が開けた。目の前には、ネットで必ず登場する雪のナイフエッジが控えている。確かにこれは半端じゃない。両側ははるか下まですっぱり切れ落ちているのでマジでびびる。姿勢を低くしてバランスを崩さないよう慎重に通り抜けた。比較的雪が締っていたのは幸い、ぐずぐずの腐れ雪だと足場が崩れてしまいそうだ。この難所を越えると、正面にシリタカ、その奥に尖がったピークの
笈ヶ岳が姿を現した。


            冬瓜山への稜線                                先を行く登山者



白山



             冬瓜山への登り                             次第に稜線が痩せてきた



ナイフエッジ(写真では高度感が出ず残念)


姿を現した笈ヶ岳


 冬瓜山からシリタカへと向かう。しばらく雪の斜面を下っていくと単独登山者がテントを撤収していた。冬瓜平への降り口がわからなかったので尾根筋で夜明かしした由。ここから先の様子を聞いてみた。アイゼンがあった方が良いとのアドバイスをもらい、その場で装着する。ここからはしばらくはフラットなのでのんびりした稜線歩きだ。シリタカは完全に雪で覆われたのっぺりした山。その先の
笈ヶ岳がどんどん間近に迫ってきた。何名か先行する登山者が点々と見える。残念ながら天候が今一つだ。次第に雲が降りてきているのが気になる。

 笈ヶ岳
への最後の雪の急斜面はなかなかしんどい。へばって足が前に出ない人もいた。山頂到着は850分。登山口からちょうど4時間半を要したことになる。山歩きを再開して以来、夢見ていた笈ヶ岳の頂。風が冷たいのでゆっくり感慨に浸っている余裕は無い。他の登山者は記念写真を撮ると早々に引き返していった。いつの間にか一人になってしまった頂上で昼食のサンドイッチをぱくつく。燃料補給が終わったらすぐに下山だ。何度か振り返り、おそらくもう二度と踏むことはないであろう頂を後にした。


笈ヶ岳


            笈ヶ岳への稜線                          先を行く登山者



          頂上まであともう一息                               白山をバックに笈ヶ岳山頂



大笠山(300名山)方面を望む


 帰路は、せっかくなので冬瓜平を歩いてみることにした。正直、先ほどの不安定なナイフエッジを避けたくもある。シリタカの手前から右手にそれるトレースがあったのでこの後を追った。一気に高度を下げる。気温が上がっているせいか雪が相当に緩んでいる、ぐずぐずで歩き辛いことこの上ない。しばらく緩やかに下った後、急な斜面のトラバースになった。ここはかなり怖かった。眼下に大きな雪のブロックが落ちているは、行く手の途中にはデブリもあるはで、思いっきり緊張する。急いで駆け抜けたいと気はせくが、ずぶずぶと足が雪にとられてスピード出ない。斜度が緩やかになったところまで来て危険地帯脱出、ようやく一息つくことができた。

 冬瓜平で、テント
4張を見かけたがいずれも無人のようだった。おそらく山頂付近で出会った人達のものだろう。冬瓜山の北側を巻き、しばらく登りかえしてようやく先ほど通過した尾根筋へと出た。結論として、このルートは稜線沿いよりも100m程度余計な登り返しがあるし、ブロック雪崩もありそうなので時間的にも危険度的にもお勧めできない。ナイフエッジ越えの恐怖に耐える方が正解だと思う。


           冬瓜平への下り                  冬瓜平で見かけたテント


ジライ谷へ向けて下山


 下り続けていくと夏道が出てきたのでアイゼンを外した。驚いたことに昼も近いというこの時間に、まだ登って来る人たちがいる。そのうちの一人は、昨日も挑戦したが悪天候で撤退した由。雪が降って殆どの人が引き返したらしい。下るにつれて風が強くなってきた。本州北側に低気圧が接近し、強い南風が吹くと予報で言っていたが、どうやらその通りの展開になった。木々を揺さぶる凄まじい轟音。吹きすさぶ突風で帽子を飛ばされないよう手で押さえながら歩く。ジライ谷左岸の急坂へ差し掛かった辺りで今度は雨が降り出した。さらに下山したところでトドメの雷鳴がとどろく。安全圏まで下って来ていたのでやれやれだ。それにしてもこの強風と雷では、むき出しの稜線にいる人たちは生きた心地がしないだろう。
 
 ようやくジライ沢に下山。岩が雨で濡れて滑るので膝を使って四つん這いになり沢を渡る。遊歩道をのんびり下り、駐車場には
1250分に帰着した。どうやら今日は靴との相性に悩まされずに済んだようだ。靴を履き替え、運転席に座ったところで雨がひときわ強く降り出した。間一髪でセーフだった。いつもはこのまま自宅へ直行なのだが、今日は金沢市内に宿をとってあるのでゆっくりだ。途中の大門温泉で汗を流し、金沢へと向かった。宿にチェックイン後は、雨上がりの金沢市内をぶらぶら歩き。近江町市場で新鮮は海の幸の食事を楽しんだ。

 翌日も雨、予定していた金沢市内の散策を諦めて帰宅の途に着いたのだった。

行動時間              8時間30
歩行時間              8時間

Map       Track
  トップ        山歩き
inserted by FC2 system