2011年11月8日
還暦を前に山を再開して以来、いつも一人で歩いている。私の周囲に同好の士がいなかったこともあるし、勝手気ままにスケジュールや行き先を決めることのできる自由があるからだ。ところが、最近、友人の一人が山に目覚めて急速にテンションを上げてきた。フルマラソンによく出場している御仁なので、持久力は私なんぞ及びもつかない。恐れ多いのだが、たまには話し相手のある山歩きをしたくてお誘いしたところ快諾してくれた。
今回の目的地は日光の女峰山。紅葉の盛りは過ぎてしまったが、枯葉散る晩秋も捨てがたい。女峰山への登山ルートは北面を除き何本もある。そのうち東照宮や霜降高原からのルートは、日帰りではいずれも長丁場のピストンになってしまう。そこで少々アップダウンはきついものの、志津乗越から大真名子山、小真名子山を経由して女峰山を回る周回ルートを歩くことにした。
友人O氏と戦場ヶ原の赤沼茶屋で待ち合わせ、車を連ねて志津乗越へと向かう。季節外れの平日とあって先着の車は一台も無い。
身支度を整えて6時35分に車を後にした。準備運動の時間もあればこそ、登山道に入るなりいきなりの急登だ。時折山岳宗教のモニュメントが左に右にと現れてくるコメツガの樹林帯のなかをぐいぐいと高度を上げていく。道沿いには所々にシャクナゲが群生している。6月の開花時期はさぞかし見事だろう。
志津峠の登山口 色々なモニュメントがある
やがて樹林が疎らになって背後の男体山の高みが同じレベルになってくると、大真名子山の山頂だ。志津乗越との標高差は600mほど、1時間20分ほどの行程だった。頂きからの眺望は文句なしに素晴らしい。ここで初めて帝釈山に続く女峰山の山容を拝むことができた。180度振り返ると戦場ヶ原方面も一望できるが、残念ながらその奥にあるはずの白根山は山頂付近が雲に覆われている。
男体山 戦場ヶ原と白根山方面
大真名子山山頂
帝釈山(左)と女峰山
大真名子山からは正面に女峰山を見据えながら鞍部の鷹巣へ300mほど下る。先ほど稼いだ高度を半分返上だ。小真名子山に向けて登り出すと俄にガスが湧いてきた。時折あられがパラパラと降ってくる。しかしこれは一時的なもので小真名子山の山頂に立つと再び青空が覗いてきた。
小真名子山 鷹巣
ガスが出てきた 小真名子山山頂
さらにアップダウンは続く。ここから富士見峠まで一気に300mを下降するのだ。電波反射板を過ぎると火山礫や火山岩のガレ場を下るようになる。かなりの急傾斜でところどころトラロープが設置されている。広々した富士見峠を過ぎると、帝釈山に向けてまたもや400mを超える登り道だ。こうしたアップダウンの繰り返しは、一定のリズムで登るよりも余程体力を消耗するものだ。
電波反射板 足場の悪い箇所を下るO氏
ガレ場の下りが続く 広々した富士見峠
喘ぎ登った帝釈山からは細い稜線に続く女峰山がガスの合間から垣間見える。帝釈山と女峰山の間にはもう一つピークがあって専女山という。男体山は、女峰山という后とは別の関係もあったのかとO氏と想像をたくましくしたが、辞書によれば何のことはない、専女とは老女のことだそうな。
帝釈山山頂 専女山(手前のピーク)と女峰山
女峰山が指呼の距離に
頂上直下の岩稜を攀じ登って12時15分に女峰山の頂きにて立った。あいにくとガスが間欠的に押し寄せて辺りの景色を覆い隠してしまうが、それはそれで高山らしくて興がある。ここで本日初めてハイカーと遭遇した。スイスからの若者で東照宮から登ってきたらしい。樹林に覆われた日本の山は故国の雪と岩だけの山とは空気が違うのだと。つまりフィトンチッドの差だ。さもありなん。
頂上直下の岩稜を登る 女峰山山頂
竜巻山への稜線
20分ほど山頂に滞在し下山開始。唐沢避難小屋を目指してガレ場を下っていく。避難小屋に着くとすっかり晴れ渡って、先ほど歩いた峰々が青空をバックにすっきりと見えている。もう少し山頂に滞在した方が良かったかなとも思ったが後の祭りだ。
唐沢避難小屋(水場は遠い) 振り返るとすっかり青空
避難小屋からは水場の方向へと下る。かなりの急勾配だ。シャクナゲが群生するなかをどんどん下っていく。やがて傾斜も緩くなり、道は堰堤が連続する沢沿いとなる。裏見の滝の分岐のある荒沢出合からは、再び100mほどの登りだ。これでようやく林道に出た。ところがここでとんでもないチョンボをやってしまった。せっかくの道標にろくに目もくれず、考えなしに右方向へと進んでしまったのだ。工事現場の人達からどこへ登るのかと訝しげに聞かれることにもめげず、いつまでたっても女峰山が右手に聳えていることも気にせず、O氏と四方山話をしながらどんどんと歩を進めてしまった。驚くべきことに富士見峠が間近に迫り、高度計が1900mを超えるまで道間違いに気がつかなかったのだ。
沢沿いに下る 振り返ればさらに青空が広がっている
林道より女峰山を望む
ナビゲーションは私の仕事、林道に出て気が緩んだとは言え、これほどの方向音痴は我ながら情けない。いまさら小真名子山、大真名子山を再び越えて行くのは勘弁なので回れ右する。下り出すと新調の靴が合わなかったようで足指の痛みにO氏が遅れ出した。往復2時間のロスで日は傾き明るいうちに志津乗越に帰着することは絶望的になってしまった。何とか埋め合わせをしようと、私は一足先に志津乗越へ戻ることにした。すっかり夕闇に包まれた林道を車で引き返し、O氏の出迎えに向かったのだった。今回に懲りることなく、これからもお誘いに乗ってくれることを祈りつつ。
戦場ヶ原方面に向かうべきなのに富士見峠へ行ってしまった
行動時間 11時間
歩行時間 10時間
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