鋸岳  長野・山梨県 2685m    二百名山 
 

2011824

 このところ秋雨前線が本州に居座って日本各地で集中豪雨の被害が出ている。とても山歩きどころではない。ところが前線が北に移動したため、関東周辺の山梨県辺りであれば、この日、一日だけ晴れ間が期待できるらしい。すなわち日帰り登山ならOKということ。そこで比較的近場なのに、破線コースということで敷居が高かった鋸岳に出かけることにした。

 この山への日帰りルートは戸台川からと釜無川からとの二通りある。ネットで過去の記録を調べるとどちらも一長一短があるようだ。前者は、起点となる角兵衛沢に取り付くのに渡渉しなければならないし、後者は、とんでもなく長い林道歩きを強いられる。最近の雨続きの天候を考えると沢の増水が懸念される戸台川ルートは敬遠した方が賢明そうだ。今回は釜無川から歩くことに決めた。

 午前
2時頃に自宅を出発。小淵沢IC周辺にはコンビニが無かったことを思い出し、自宅近くのコンビニで朝昼の弁当と飲料を調達しておく。釜無川沿いの林道には迷うことも無くスムーズに行き着くことが出来たが、問題は駐車スペースだ。工事専用林道のゲート近くにある採石場で作業していた方に尋ねると、ダンプや工事車両が頻繁に通過するのでこの近辺での駐車は止めてくれとのこと。引き返す道すがら観察すると、比較的道幅の広い個所もあるのだが、どこに置いても現場作業の迷惑になりそうだ。それに砂利を蹴散らしながら疾走するトラックの飛石の餌食になるのも嫌だ。思い切って国道20号線に近いところまで下り、釣り堀の広い駐車スペースに車をとめた。ここからゲートまで往復2時間程度プラスとなるが仕方がない。

 5
15分に車を後にする。余計なアルバイトが増えたので急がねばと思うが、結構な登り勾配でペースは上がらない。ようやく砂防工事林道のゲートに着くと作業者の方がいて国交省の許可をもらわないと通れないよと言う。それにヘルメットの着用義務もあるとのこと。確かにゲートには、徒歩も含め工事関係者以外の通行は禁止と書いてある。工事の開始時間前に通り抜けますからと言ってゲート脇をすり抜けた。どうやら、登山者の通行は原則許可されないが、現場レベルでは黙認ということらしい。こうした状況では、事故や工事作業への迷惑行為が一度でも発生すれば、所詮お遊びの登山者は例外なくシャットアウトされてしまうだろう。それにしても、こんな肩身の狭い思いをしながら山を歩くのは初めてだ。車の置き場所といい、釜無川ルートを選んだことを悔やんだが、もはや手遅れだ。


        駐車場近くから朝焼けの八ヶ岳を望む                道路脇は砂利の山、採石場が幾つもある



        オフリミットを無視するのはちょっと。。。                1km毎の表示、これはいい目安になった


 
9kmの林道沿いには立派な砂防堰堤が幾つも築かれているが、中には土砂で崩壊しているのもある。所詮コンクリート構造物では自然の猛威をコントロールしきれないのではないかとか、これだけの工事に幾らの国費が投じられているのだろうか等々、あれこれ考えながら、余り退屈もせずにこの9kmを歩き通した。

 ネットでお馴染みのログハウスは、そのすぐ右手の谷合がかなり上方から大きく崩壊していて、ここで大規模な砂防工事が行われていた。重機の間を縫うようにしてログハウスへと足を運ぶ。ネットの記録によればここにテントを張る人も多いようだが、すぐ隣でクレーン等の大型重機がうなりをあげている状況では最悪の住環境かも知れない。


         舗装道路からラフロードへ                            こんな案内もある



        第六砂防堰堤、もうすぐログハウス                        高床式のログハウス



          そのすぐ右隣で進む砂防工事                     中央のケルンから登り始める


 休む間もなく河原へと降りて赤ペンキをトレースする。暫く足場の悪い河原を登って行く。赤ペンキは分かり易く迷う心配も無い。何度か流れを渡り返すうちに水の流れは細くなってきた。やがて半壊状態の富士川の水源を示す案内が出てきた。水源に関心は無いが、踏み跡はその方向にしか無いので素直について行く。結局水源への分岐がよくわからないまま、道は山腹を急登するようになった。針葉樹の林に岳樺が混じるようになってくると空が広がり、間もなく草原状の横岳峠に着いた。行く手には圧し掛かるような岩峰が見えるが、大崩ノ頭だろうか。


        分かりやすい赤ペンキのマーク                          富士川水源標識



           所々にロープもある急登                        テント場のスペースもある横岳峠      


 横岳峠から三角点ピークまで距離は僅かなのだが、結構傾斜のきつい登りが続く。そのうち右手方向の視界が開けてくると戸台川の向こうに仙丈ヶ岳のどっしりした山容が姿を現した。左手には槍ヶ岳にも似た尖ったピークが見える。これは北岳に違いない。現金なもので先ほどまでの不愉快な思いは、どこかへ吹き飛んでつくづく来てよかったと思う。


               大崩ノ頭                                気持ちの良い尾根道



スーパー林道の傷跡が痛々しい山肌

 樹林限界もそろそろだ。はい松の枝に摑まって体を引き上げるようにして登っていく。三角点のピークに到着。一応三角点を拝んで行こうとそれらしき踏み跡を追うが見当たらない。帰途に再度寄ることにして縦走路へ引き返すと本日初めて登山者に出合った。単独の青年だ。彼から一緒に三角点を探しましょうとのお誘いを受ける。第一高点にはガスがどんどん上がってきているので気が気ではなかったのだが、お誘いは断れず。しばらく一緒にうろうろし、ようやく三角点を探し当てた。この人は山に入って五日目、鋸岳を縦走して来て今日は第二高点から来たとのことだ。連日雨に降られて大変だったらしい。



鋸岳(アクセントのトンボが御愛嬌)



北岳、間ノ岳、仙丈ヶ岳そろい踏み


八ヶ岳方面も


 角兵衛沢ノ頭でこの沢を下山する彼と別れ、第一高点を目指す。
1210分、休みなしで歩き続け6時間55分かけて念願の鋸岳の頂を踏むことができた。残念なことに頂は完全にガスに包まれ視界はゼロになってしまった。


            ようやく見つけた三角点                      せっかくの頂上はガスで眺望なし


 昼食をとりながら晴れ間を待つがガスは濃くなるばかりだ。諦めて下山を開始する。角兵衛沢ノ頭に戻ると先ほどの青年がガレ場を下っていくのが見えた。随分とのんびりしたペースだが、相当勾配がきつそうなので慎重に下っているのだろう。周囲は完全にガスに包まれてしまったので、往路のように素晴らしい景観に足が止まることもない。来た道を外さないよう注意しながら、ひたすら下り続ける。


三角点ピークを振り返る


              角兵衛沢のガレ場                       三角点は左側、右へ行くと第一高点


 
2リッターの飲料は横岳峠ですっかり飲み干してしまった。飲み水が無いとなると喉の渇きが耐え難くなってくるから不思議だ。ここから沢の源頭まではミズの2文字が点滅して頭から消えなかった。富士川源流の案内を過ぎると間もなく清い流れが見えてきた。すぐに半リッター程を飲み干す。雪解け水のように冷たくて美味しい。沢を下り続け、工事現場を避けて河原沿いに歩く。

 丸一日歩き続け、流石に疲れが出てきた。下りなのに、なかなかペースが上がらない。どうやら工事関係者の作業終了時刻を過ぎてしまったらしい。後方から次から次に帰宅する作業者の車がやってきて、砂埃を浴びせながら私を追い越していく。機械的に足を動かし続け、ようやくゲートを通過するが、ここからがまた長かった。車への帰着は
1740分。トータル12時間半かかった。頂上で15分休んだ以外は殆どノンストップで、距離35km、標高差1850mを歩き通した。

 釜石川ルートは、一旦山に取り付いてからはとても楽しい山歩きになるし、特に危険な個所も無い。関係者以外オフリミットの工事専用道路が解放されれば、鋸岳への素晴らしいアプローチになること請け合いだ。しかし自然の猛威の前にエンドレスの砂防工事となる可能性の有り、果してその日が来るのか疑問に思える。それまでは肩身の狭い思いをしながらこのアプローチを利用せざるを得ないのだろうが、せめて工事の無い休日だけでも一般開放できないものだろうか。



行動時間 12時間30分
歩行時間 12時間15分

 


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