野口五郎岳  真砂岳   南真砂岳  2924m、2862m、2713m      三百名山
 

はじめに

 ここ2,3年愛用してきた登山靴は、ソールが摩耗しグリップ力が目に見えて低下してきた。そろそろ買い替え時なのだが、ブランドやデザインに惑わされた挙句、登りでは踵の靴ずれ、下りでは足爪を痛めて泣かされたり等々、靴選びでは過去何度も失敗を繰り返している。

 ポイントはシンデレラフィットとまではいかなくても、まずジャストサイズであること。これは当然のこととして、次に重視したのは「軽さ」。最近とみに実感する体力の衰えは、道具でカバーするしかない。

 散々迷った挙句、購入したのはノースフェースのトレッキングシューズ。軽さが謳い文句なだけあって、重量はハイカットにも関わらず、たったの400g。これまで使っていた靴の半分以下だ。早速、裏銀座縦走コースで試し履きをしてみたところ、結果は極めてポジティブだった。後で詳しく紹介する。

 今回の山歩きは試し履きがてら、未踏の「百高山」、真砂岳と南真砂岳の制覇が主目的。前者と同名の山は立山にもあるが、百高山としてリストアップされているのは、標高が1m高い裏銀座縦走路の真砂岳の方だ。南真砂岳もすぐその近傍、主稜線から外れた竹村新道沿いにある。


2017年7月20日(木)

 午前5時、七倉に到着。早速身支度を整え、他の登山者7名と共にタクシー2台に分乗して高瀬ダムへと向かった。七倉からの登山は過去2回経験しているが、タクシー利用は今回が初めて。汗水たらし1時間以上もかけて歩いた道程が10分足らず。体力的にも時間的にも余裕が生まれ、これで一人当たり500円とは安いものだ。


高瀬ダムに到着


 5時40分、高瀬ダムを後にする。着替えや二日分のランチ、飲料水2.5L等でいつものデイパックには無い重量が肩にかかる。一方足元はスニーカー同然の軽快さ。さてこれが吉とでるか、凶とでるか。。。


ブナ立尾根の急坂を登る


 一緒に歩き始めたのは、一組の若いカップルを除けば皆私と同年配。歩きっぷりといい、山道具にも年季が入っており見るからに健脚そうだ。事実、そのうちの二人はかなりの大荷物を背負いながらも、殆ど小走りと言って良いスピードであっという間に姿が視界から消えてしまった。

 長い吊り橋を渡り、踏み跡をたどって暫く濁沢の河原を歩くと裏銀座登山口の道標が出迎えてくれる。ここから愈々日本三大急登の一つ、ブナ立尾根の激登りが始まる。しかし、この尾根は九十九折れの急登ながら、一定の斜度が保たれ歩き易いので案ずるほどではない。

 問題は気温の高さ。歩き始めるとすぐに額から汗が吹き出し、止めどもなく滴り落ちる。途中でどこかにハンドタオルを落としてしまったので、汗が拭えず眼鏡がびしょ濡れになってしまった。頭はオーバーヒート状態でも、足元は至って軽快なのが救い。イーブンペースを維持してどんどん高度を上げて行く。


南沢岳から不動岳にかけての崩壊地


 やがて南沢岳から不動岳にかけての大崩壊が眺められるようになると烏帽子小屋も近い。8時45分に烏帽子小屋に到着。標準CTが5時間20分のところを3時間で登って来たことになる。帰宅後、過去2回のデータと比較すると5年前の記録とほぼ同じ。どうやら道具への投資は功を奏したらしい。加齢による5年分の体力低下を軽量シューズが補ってくれたようだ。


烏帽子岳をバックに烏帽子小屋


 小屋のすぐ上にある見晴らしの良い高台(ヘリポート?)で大休止。裏銀座縦走路の山々や黒部川の対岸に聳える赤牛岳を眺めながら、カロリーと水分補給を行う。


三ッ岩岳



赤牛岳



ヒョウタン池から眺める表銀座(中央は燕岳)



烏帽子岳を振り返ると背後には立山や針ノ木岳



前方には槍ヶ岳が登場


 ここから先は雄大な景色を楽しみながらの尾根歩きだ。三ッ岩岳のピークは前回踏んでいるので今回はパスし、黒部側の巻道を行く。やがて目の前にやや急な雪渓が立ちはだかった。稜線沿いにも道があったのだが、戻るのも面倒なのでステップを作りながらトラバースする。

 登山靴であれば雪面を簡単に蹴り込めるのに爪先が軟なトレッキングシューズではそうもいかない。騙し騙し渡り切ったが、やはりこうした簡易登山靴を雪の上で使うには限界があるようだ。


稜線沿いに行かずに雪渓を大汗かいてトラバース



野口五郎岳が見えてきた


 天気は相変わらず上々。信州側に沸き立つ雲は、表銀座の山々にうまい具合にブロックされ、こちらには押し寄せてはこない。やがて青い屋根の野口五郎小屋が見えてきた。時刻はまだ正午前。一応この小屋に宿泊するつもりで予約を入れておいたのだが、さてどうしたものだろう。

 野口五郎小屋は3年前に宿泊して、居心地の良さが記憶に残っている。しかし、いくら何でも時間を持て余しそうだ。脚もまだ十分動くので、予約をキャンセルさせてもらい先に進むことにした。


野口五郎小屋



槍ヶ岳をバックに野口五郎岳山頂


 貸し切りの野口五郎岳をあっさりと越え真砂岳へと向かう。下り始めて暫くするとこの縦走路で初めて登山者と行き合った。三俣山荘から縦走してきたとのことだ。


中央のピークが真砂岳


 やがて真砂岳の直下まで来たが、登山道は黒部側を巻いてピークをバイパスしている。踏み跡が見当たらないので、適当なところで登山道を外れ、ガレ場を登ることにした。落石と植生に注意しながら急斜面を攀じ登ると、薄いながらも踏み跡が出てきた。12時55分、真砂岳の頂に到着。これで残る未踏百高山は5座となった。


このガレ場を登って山頂へ



真砂岳山頂


 これからまだ竹村新道の長い道程が待っているので長居は出来ない。証拠写真を撮ってすぐに下山を開始。踏み跡を追っていくと、どうやらそのまま竹村新道に向かっているようだ。


竹村新道の尾根 正面が南真砂岳


 竹村新道からは年配のご夫妻が登って来た。この道はアップダウンがあって長いですよとの有難きご忠告。行きがかり上ここまで来てしまったので今更引き返す訳にはいかない。雪の消えた斜面に咲くお花に癒されながら先へと進む。途中雪渓のトラバース。滑落すると遥か下方の五郎沢源頭まで止まりそうにないので緊張した。


一面のお花畑


 鞍部から南真砂岳まで約80mの登り。ここで出会った年配の単独氏から先ほどのご夫妻と全く同じご忠告を頂戴する。南真砂岳山頂には「晴嵐荘、長いです。気を付けて」とダメ押しのご丁寧な案内まであった。事実その通りではあったのだが。。。

 午後1時50分、山頂到着。これで、さらにカウントダウンが進み、残る百高山は4座となった。これで年内の全山制覇が現実味を帯びてきた。


南真砂岳山頂



野口五郎岳、真砂岳見納め



ひたすら長い道のりを下る


 このままどんどん下っていければ良いのだが、そうは問屋が卸さない。湯俣岳へ100mの登り返しがある。大汗をかいて登った樹林に囲まれ眺望の無い湯俣岳は単なる通過点。もうこの時点で頭の中には、湯俣温泉とその後のビールしかない。


どこまで下ってもこの景色だが、、、


 熊の目撃事例が多いという笹原の急坂をどんどん下って行くと、高瀬川の清流が眼下に見えるようになってきた。見晴らしは満点だが、足を踏み外せば河原まで真っ逆さまという痩せ尾根を下って行く。ともかくここは絶対に登りには使いたくないと思わせる激下りだ。こうした厳しいシチュエーションでもトレッキングシューズは十分期待に応えてくれた。


ようやく終着点が見えてきた



何とも不気味な硫黄尾根方面


 午後4時40分、11時間に及ぶハードワークを終え、本日の宿、晴嵐荘に到着した。早速温泉に直行、その後ビールと思い描いていたシナリオ通りに事が運んだことは言うまでもない。この日の宿泊者は私と名古屋から来られた方の二人だけだった。

行動時間  11時間


2017年7月21日(金)

 名古屋の方は、早朝に竹村新道に向かって出発されたので、晴嵐荘は私だけの完全な貸し切り状態。ゆっくり温泉につかり朝食をとった。

 6時15分に宿を後にする。吊り橋で対岸へと渡り、高瀬川沿いの登山道を緩やかに下って行く。トレッキングシューズは感覚的にはスニーカーに近いのでこうしたフラットな道でこそ真価を発揮する。林道歩きとなれば尚更だ。


晴嵐荘を後にする



ゴールが近くなってきた



高瀬トンネル 長過ぎて出口が見えない


 2時間ほどで高瀬ダムの堤防に到着。タクシー代をけちって、時間に余裕もあることなので、七倉まで歩き続けることにした。ロックフィル式のダムにつけられた九十九折れの坂道を下っていると、砂利を満載した大型ダンプが次々に私を追い越していく。何十台ものダンプがすれすれを通過していくのだ。


私を追い越していたダンプの車列


 最後のダンプを見送ってやれやれとしたのも束の間、山の神トンネルを歩いていると、荷を下ろした先ほどのダンプのコンボイが引き返してきた。暗闇の中、咆哮しながら通り過ぎる野獣の群れを申し訳程度の歩道に身を寄せてやり過ごした。これだから山歩きは最後まで何があるか分からない。


ゴール!


 9時10分、七倉に帰着。ちょうど3時間の山歩きだった。二日間を通して行動時間の合計は14時間。標準CTでは17時間50分なので、休憩時間を含めてもCTの8掛けを少し下回った。道具頼りとは言え、自分の体力はまだそれほど悲観する状況ではないことが確認できた。これは百高山2座ゲットと並んで大きな収穫だった。


注 二日目はGPS電源入れ忘れデータ無し。


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