2021年4月24日(土)
60の手習いで始めた山スキー。改めて数えてみると、これまであちこちの山域で200回近くスキーを楽しんできた。しかし正確に言うと「楽しい」ばかりではなかった。滑落して痛い思いをしたり、天候急変で遭難まがいの状況となったり、道具トラブルに泣かされたりと随分と「散々な目」にも遭っている。それでも古希を迎えて未だに懲りずに山スキーを続けているのは、やはり雪山には抗し難い魅力があるからなのだろう。それに辛い体験をした山ほど、生々しい記憶が脳裏に刻まれており、時々反芻しては所謂「メンタルタイムトラベル」できることも楽しみの一つだ。今回も期せずして登ることになった中ノ岳も間違いなくそんな山の一つになってしまった。
午前3時20分、Kさんと共に三国川ダムを後にする。今回はKさんのお誘いで丹後山から大水上山へと向かい、利根川水源の赤沢を滑降するという企画。十字峡へと向かう林道は相当荒れて自転車も使えなさそうなため、スキーやブーツを背にして歩くこととなる。
1時間弱で十字峡に到着。そろそろ夜明けだが、V字谷の底はまだ暗闇の中だ。丹後山登山口に至る林道に入るとすぐに巨大な雪塊が現れた。完全に道は塞がれているので乗り越えていかねばならない。軽登山靴にチェーンスパイクを装着して先へ進むが、雪塊が道路ギリギリまでせり出している上、下には三国川がごうごうと雪解け水が渦巻いている。肝を冷やしながら数百メートル進むと、その先には道路際まで埋め尽くした急峻な雪壁が待ち構えていた。これを見たKさんからは中ノ岳への転進の提案。あの恐ろし気な光景を目の当たりにした私に異論があろうはずもなく、迷わず首を縦に振ったのだった。
延々と続く雪壁 50cmの通路を外すと激流にドボン
撤退決定 再び雪塊を越えて引き返す
丹後山を恨めしく振り返る
かくして再び十字峡に戻り、中ノ岳へのスタートを切ることとなった。この山は8年前に登っているが、記憶に残っているのは兎にも角にも急登が続くこと。前回はデイパックで済んだものが今回はスキー板にブーツという重荷のハンディつき。それに登山道にかかる木の枝が板に絡むのでボクシングのウィービングまがいの動作も加わるので余計に消耗させられるのだ。
中ノ岳登山口 激坂が手ぐすね引いてお待ちかね
一合目までが異様に遠い
二合目を前にした辺りで雪が繋がり始めたので、スキー装備に換装する。使用済みの軽登山靴やチェーンスパイクは木の枝に吊るしてデポ。そこからすぐにシール登高できる雪の状態ではまだ無いので暫くはシートラで進むが、やはり兼用靴はフットワークに難があり急斜面や岩場を歩くのは辛いものがある。
日向山を見据えて歩くKさん
しゃくなげ湖を振り返る私
難儀な激坂が続く
一時も楽をさせてくれないのだ
四合目辺りまで歩いてやっとシール登高開始。これで背にした重荷は随分と軽くなったが、足に錘が付いただけでトータルの重量は変わらない。日向山の大スロープはまるでスキー場。かなりの斜度があるのでジグザグに登っていく。雪は完熟ザラメと化しているので帰途は滑降が楽しめそうだ。
9時過ぎに日向山に登頂。ここでシールオフし中ノ岳への鞍部へと滑り降りた。今回はステップソールの板なので多少の上り坂はものともしない。鞍部から再びシール登高に切り替える。この頃になると気温が上昇して汗が止めども無く流れるが、それはシールも同じ。水を吸ってグリューの粘着性も失われている。だましだまし登っていたが、標高1900m辺りに差し掛かったところでテールフックが外れ、シールが半ば剥がれる状況となってしまった。
選りによってここは全行程中、一番ではないかと思われる急斜面。滑落でもすれば檜倉沢へ真っ逆さまだ。中途半端に剥がれたシールが邪魔をして、エッジを利かせることが出来ないので階段登高も不可。それでも何とか横移動で近くの灌木に辿り着き、身体を確保。板を外し、ステップを切りながら安全地帯に逃れ、這う這うの体で窮地を脱した。
Kさん持参の道具でシールの水分を切りシールワックスも塗ってもらい、何とか復活したシールで登高再開。その後はシールに不安があるのでオープンバーンを避けて笹原の中をジグザグに登る。そうこうしながら、やっとのことで稜線の池ノ段に登り上げた。そこで目にしたのは文句なしの大展望と圧巻の迫力の大雪庇。途中でスキーをデポして山頂へと向かい、午後1時に中ノ岳の頂に立った。
やっと板が足の下に来た
巻機山を背に登る私
日向山ゲレンデ
日向山もう一息
日向山を通過
やっと中ノ岳ご開帳
急斜面を登るKさん
シェルンドがあちこちにあるので要注意
愈々山頂が射程に
池ノ段に到着
絶景に見とれる私
写真撮影に余念のないKさん
スキーをデポし、つぼ歩きするKさんが、、、
踏み抜いて半身雪の中
兎岳から丹後山への稜線 雪庇の張り出しが圧巻
遠かった山頂にやっと着いた
仕切り直しで十字峡を出発してから凡そ7時間がかりだった。山頂で大休止した後、スキーのデポ地点まで下り、愈々お楽しみタイム。雪質は申し分ない高品質ザラメ、苦労して稼いだ標高1000mを滑り降りるのに1時間もかからなかった。その先、まだ雪は繋がっていたものの斑模様。私は無理せず板を背負い、シートラで下山したが、Kさんはスキーヤーのど根性を発揮し登山靴デポ地点までスキーで完走してしまった。
Kさん滑降スタート 雄大な景色に囲まれ、これぞ山スキーの醍醐味
同上
私も続く
Kさん
私
Kさん
私
日向山との鞍部へはあっという間
そろそろ中ノ岳ともお別れ
うろこ板で日向山へ登り返し
Kさん 日向山ゲレンデ滑降スタート
同私
ゲレンデ途中から尾根の東斜面を滑降
そろそろ夏道に復帰しないと、、、
藪漕ぎする羽目に
ここからはスキーとブーツを背にして再び難儀な行軍の始まり。不安定な足元を庇いつつ鎖場交じりの急坂を下っていく。何とか怪我もせず十字峡まで下ってやれやれと一息。そこから更に1時間、肩に食い込む重荷に耐えながらの行軍が続く。三国川ダムのゲートを通過したのはだいぶ日も傾いた午後6時前。
山は春 イワカガミ
タムシバ
シャクナゲ 季節の進みは一か月位早い感じ
新緑と桜が同居
合わせて200%の達成感と満足感に包まれてザックを下すと、あろうことか板に固定したはずのブーツの片方が見当たらない。急坂下りの最中、ぶつけたり尻餅をついた拍子に、山中で落としてしまったらしい。中ノ岳は最後まで楽をさせてくれない山とは聞いていたが、本当に最後の最後までとんだサプライズを与えてくれたのだった。
行動時間 14時間40分
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