2020年1月11日(土)
昨冬訪れ素晴らしい感動を与えてくれた苗場山。長く厳しいアプローチを経て頂上台地に登り上げた時に出迎えてくれた、様々な造形に変身したモンスター群は忘れがたい。そんな思い入れのある苗場山、今年もKさんからお誘いがあり、二つ返事で同行させてもらうこととなった。
ガードレールの無い凍てついた崖っぷちの道、国道405号をKさんの巧みなハンドルさばきでひた走る。国道と言うよりは酷道、スリップでもすれば、奈落の底にまっしぐらだ。勢いよく水が流れ落ちる消雪道路の急坂を登れば目的地は近い。集落を抜けて小赤沢川沿いの除雪最終地点に車を乗り入れた。快晴が約束された三連休初日にも関わらず他に車はない。
早速身支度を整える。実は準備万端整えたつもりなのに肝心要の兼用靴ScarpaF1を忘れてきてしまった。これではDNSと青くなったが、たまたまKさんの足は私と同サイズ。しかも同じブランドのブーツを融通してもらい、何とか事なきを得た。鉄砲忘れて戦場に出向いた兵士のようなもので、お恥ずかしい限り。幸い借り物でもしっかりと足に馴染んでくれた。
午前4時20分、ヘッドランプを点けハイクアップ開始。しばらく林道沿いに進み、登山道に入る。積雪は少なく登山道脇の小沢は穴だらけ。案じていた通り、カイデ沢の渡渉点は大きく沢割れしており、とても突破できる状況ではなかった。やむなく事前に検討しておいたPlan-Bを発動。右手の小尾根を登り三合目に通じる林道をショートカットすることとした。ブッシュを避けながら、またブッシュに助けられながら急坂を攀じ登り、スタートから間もないのに早くも大汗をかいてしまった。後から考えると、今回は昨年のようにスムーズに頂きに立てないのではと不安の種が芽生えたのはこの時だったかも知れない。
ヘッデンスタートするKさん
枝沢は穴だらけ
カイデ沢渡渉点は大きく沢割れ
遠回りでも楽な林道歩きで三合目に到着。登山道沿いに緩やかに登っていくと間もなく急登が始まる。登り上げた先は藪だらけの痩せ尾根だ。帰途ここをどう滑走したら良いのかと不安の種はさらに育って双葉に。
林道を歩く私
朝日に輝く猿面峰
三合目
痩せ尾根を行くKさん
その先はシラビソの生い茂る気持ちの良い台地。メローなスロープが広がる私のお気に入りの場所だが、ご多分に漏れずここも藪のハザードだらけ。不安の種は愈々本葉を茂らせてしまった。
メローな台地へ
右に大きく屈曲すると山頂台地下部の大トラバースが始まる。標高が上がったためか、藪に加え雪面が変化してきた。5㎝位の新雪の下はアイスのハードバーン。クトー頼りにトラバースを続ける。トラバースと言っても正確にはかなりの斜度の登り坂だ。
藪と格闘しながら進む
シールが悲鳴を上げる急登
雪に埋まりきっていない藪や倒木越えはシール登行する身にとっては大仕事。こうしたちょっとしたことがロスタイムの一因となる。樹氷の木々を纏った2036mピークが目前に迫るようになると斜度は一段と増してきた。
ハザード満載
クトーが新雪下のハードバーンに食い込まず、頻繁に横滑りするようになってきた。足元を見れば、何とクトーが片方脱落している。道理で中々捗らない訳だ。どこかで藪に絡め取られたのだろう。苗場山は稲作の守り神。稲刈り鎌代わりの御進物になってしまった。
ともあれ、この先さらに雪面が固くなることが予想されるため、シールを断念しアイゼンに換装することとした。この時点で不安の種はさらに大きく育って成木に。結果的にこの装備換装はミッドウェー海戦並みの大失敗だった。最初のうちは底付して脛程度のラッセルだったものが、膝から太腿となってきた。
シートラーゲンする私
台地へショートカットするつもりでKさんのトレースから離れて台地への直登を試みたところ、樹林帯に突入したせいか、フカフカの新雪となり腰ラッセル。半身雪に埋もれ、しかも胸を突く急斜面で今更シールに換装することも出来ず、深雪に喘いでいるうちにどんどん時が過ぎる。
斜度がようやく緩んできたところで再びシールに換装。しかし2010m地点で時計は午後1時30分を回ってしまった。これでピークは無理としてもせめて台地までという目標も諦めざるを得なくなった。不安は見事的中してしまった。
台地まであと一息だがここで敗退を決断
この景色が見られなかったのは残念至極(Kさん撮影)
樹林帯の陽だまりで遅いランチを摂りながらピークに向かったKさんの帰りを待つ。午後2時20分、無線で連絡のついたKさんと合流するため、滑降開始。ところがここでもトラブル発生。ブーツがどうしても滑降モードにならないのだ。足首が固定されないまま、急斜面を滑り出すとターンがままならず、案の定の大転倒。だましだまし滑ってKさんと合流しブーツを見てもらい、ようやく滑降モードとすることが出来た。
滑り降りる(落ちる?)私
滑降するKさん
日没と天候悪化の影に怯えながらの滑降。ツボ足ラッセルの後遺症で両脚は完全に逝ってしまいスキーを楽しむ余裕は全く無い。藪の間を華麗に舞うKさんの後を追いながら、兎も角怪我をしないよう慎重に下るのみ。夕闇迫る4時40分、ヨレヨレとなって車に帰着した。
小雪による難易度アップ、ブーツ忘れ、クトー紛失、雪質読み違い等々、ピークを踏めなかった理由は色々挙げられるが、本当の原因は別のところにある。先の唐松岳における敗退の顛末然り、歳と共に体力、スキル、気力、集中力などハードな山スキーに不可欠な能力が確実に低下しているのだ。歳を理由にしたくないがそれが現実。他人様に迷惑をかけないためにも、これからは身の丈に合った山やコース選びを心掛けていくことにしようと猛省の一日となった。冬の苗場山はもう卒業です。
行動時間 10時間20分
Gear Voile Supercharger woman 164cm / Scarpa F1Evo
|