2019年1月12日(土)
冬場、何度も訪れる神楽ヶ峰のスキーハイクには、フラットな頂上台地とは裏腹に、その周囲は険しく切り立った壁という苗場山の景観が欠かせない。上信越の山々を歩けば、展望が開ける度に、ついランドマークとして苗場山の特異な山容を探し求めてしまう。
それほど身近にある山にも関わらず、冬期に足を踏み入れるとなると途端にハードルが数段上がる。特に厳冬期となると登山記録は数えるほどしかない。一つには無雪期には一般的な祓川コースがロープ必携のアルパインルートと化してしまうこと、また一つには西側の登山口、秋山郷へのアプローチの悪さがその理由なのだろう。特に冬の間、豪雪地帯の山間を縫う国道405号線は雪崩リスクもある酷道となるからだ。
そんな苗場山に行きたくとも二の足を踏んでいた私に救いの神が現れた。群馬のKさんから、秋山郷まで車を出すので同行しないかとのお誘いを受けたのだ。正に渡りに船、願っても無いことと二つ返事で同行させてもらうことになった。
林道をハイクアップするKさん 背には真新しいOrtovox
夜明け前に小赤沢の登山口に到着。無雪期の駐車場は開通しておらず、集落から少し入った除雪最終地点から歩き出すことになった。時刻は6時50分。暫くは林道をハイクアップする。新雪ラッセルはせいぜい足首程度だ。
大ゼンノ滝?
半ば凍り付いた大ゼンノ滝を過ぎると、間もなく道は大きく右に屈曲する。ここで林道に一旦別れを告げ、三合目まで林道のショートカットルートを辿ることになる。ここで一番のポイントはカイデ沢の渡渉。スノーブリッジが形成されていないと一大事だが、幸いKさんの的確なルーファイで渡渉点を容易に見つけることができた。
林道をショートカット 小沢へ
トラップ有り要注意
余談ながら、雪面には動物の痕跡が数多く残されていて興味深い。スノーシューのラッセル跡と見紛うようなカモシカの通り道がそこかしこにあったし、野兎が雪上を素早く飛び跳ねているのも目にした。無雪期よりもむしろ冬期の方が野生動物を身近に感じてしまうのは私だけだろうか。
ラッセルに励むカモシカ君(Kさん撮影)
随分と歩いたと感じてもまだ三合目。その三合目の駐車場はすっかり雪原と化していた。ここから尾根に取りつき、四合目まで痩せ尾根が続く。やがて猿面峰が左手から姿を現した。私は余程想像力に欠けているのだろうか。この山、結局最後まで猿のご面相と認識することは出来なかった。
三合目から眺める山頂の一角(檜ノ塔?)
尾根に取りつく
どうしても猿には見えない猿面峰
鳥甲山の迫力が凄い
Kさんと交代でラッセルしながら、暫くは緩斜面をゆるゆると登っていく。間もなく樹氷に美しくデコレーションされた苗場山の頂上台地の一角が望めるようになった。
頂上台地の一角 2036mピークだろうか
モンスター越しに山頂も見えた
振り返れば日本海
帰りが楽しみなメローな斜面を登る
進路を右にとると日差しを正面から受けるようになり、そろそろ本日核心の急登となる。その前に装着しておいたクトーのおかげで足元は安定しているものの、急斜面過ぎてキックターンはままならい。右谷足のまま延々とトラバースしていく。どうしても方向転換が必要な時は、木の枝や幹が頼りだ。
トラバースを開始すると、、、
斜度は一段ときつくなり、、、
さらに傾斜が増し、、、
木を使ってキックターンしたり、、、
結構な高度感もあり、、、
トンネルをくぐったりもするが、、、
この景色が励ましてくれるので許せる
こうした足に負担の掛かる局面で、先頭に立ってルート工作中のKさんの太腿が攣ってしまった。ラッセルを交代した私も、不覚にも暫くして右足が攣って、二人して「イテテテ」と悲鳴を上げる滑稽な図。笑うどころではないが笑ってしまう。
標高1900mを越えるとさしもの急斜面も、ようやく斜度が緩んできた。夏道をショートカットする形でそのまま直登、樹氷の間を縫って頂上台地へと登り上げた。頂上台地は本当にサプライズ。これまでの樹林帯とは完全に一線を画す異次元の世界に感嘆の声が止まらない。しかも我々のほかには人の気配が無い完全貸し切りの苗場山なのだ。
頂上台地に王手をかけると、、、
モンスター達がお出迎え
檜ノ塔をバックに
小赤沢方面を振り返る
このモンスター群を抜けると、、、
こんな世界が待っていた
同上
周囲の山々やモンスター群を眺めながら、山頂台地を緩やかにハイクアップ、午後1時15分にすっかり雪に覆われた山頂に到着した。これまで毎冬指をくわえて眺めていただけの頂に、やっと立つことができて感無量だ。
山頂へと向かうKさん
同私
モンスターの迷路に突入
この迷路を抜けると、、、
雪に埋もれた山小屋
やりました 山頂にて
谷川岳方面
頚城と北アルプスの峰々
佐武流山方面
天気が下り坂なので、せっかくの山頂だが余りゆっくりは出来ない。記念撮影を終えたら早速滑降モードに入る。1時45分、滑降開始。雪質は底つきはあるものの、クリーミーで摩擦係数はほぼゼロ。気持ちよくターンを重ねて2036mピークとの鞍部へと滑り込んだ。ここからは急斜面なので緊張はするものの、雪質が良いのでスキー操作は容易。やや重のパウダーを蹴散らし、あっという間に標高を1700mまで下げた。
滑降開始
山頂直下を滑る私
頂上台地から急斜面に飛び込むKさん
同私
どんどん落ちる
更に落ちる
この先はメローなスロープが続く。登路とつかず離れず、思い思いの斜面を選んで下っていく。三合目で後続者のトレース発見。ここから滑り降りたシュプールが残されていた。どうやら、我々だけの完全な貸し切りという訳でも無かったようだ。
気持ちの良いツリーラン
カイデ沢の渡渉点で若干の登り返しが最後のポイント。Kさんは木の根を掴んで難なくクリア。私はトレースの雪壁を崩して腰まで埋もれ、最後の最後で脱出に大汗をかかされてしまった。
午後3時15分に無事出発点に帰着。今シーズンは、激藪や悪雪など山スキーの困難な側面ばかり味わってきたが、今回その全てを補って余りある快適なツアーを楽しむことができた。Kさんのご厚意に改めて感謝する次第です。
行動時間 8時間25分
Gear Voile Supercharger woman 164cm / Scarpa F1Tr
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