2145m 新潟・長野県 | |
2016年9月30日(金) 良い山は何度足を運んでも報われるものだ。特に名山とされる山には、そう称されるだけの魅力があるからだろう。今回は一日限りの晴天を利用して日本百名山の一つ、苗場山を赤湯経由のアプローチから歩いてみた。BCでお馴染みの祓川コースとは違い、かなりの長丁場ながら、特異な山容と変化に富んだこの山の魅力を改めて確認できた。 午前5時30分、昌次コースの入り口にある小日橋のゲート前に車をとめる。苗場スキー場から入って、すぐにダート道で始まる赤湯林道は、深い水溜りが連続する予想以上の悪路。到着が予定よりかなり遅くなってしまった。 この先も長く林道が続くので自転車を積んできたが、私の軟なクロスバイクでは歯が立ちそうにない。楽させてくれる二輪を諦め、自前の二足で行くことにする。
遅れを取り戻そうと焦って出発したのが間違いのもと。案の定、途中で忘れ物に気づき引き返したので、実際の出発時刻は6時20分とさらに出遅れてしまった。この日の行程はかなりの長丁場。下手をすればヘッデン下山になりかねない。 ぬかるんだ林道を半時間ほど歩き、終点の棒沢に到着。鉄橋を渡ったところから山道が始まる。かなりの急坂を喘ぎ登ると細かなアップダウンが続き、今度は目もくらむような急降下。この前哨戦で半ば心が折れて「今日は秘湯の赤湯でまったりするだけにしたら?」と弱気の虫がつぶやく。
せっかく稼いだ標高差200mの大部分を返上したところで赤湯の山口館が見えてきた。男湯を覗いてみるとお湯は濁った黄緑色で如何にも効能がありそうだ。後ろ髪をひかれながらも温泉を素通りし先を急ぐ。
暫く清津川の河原を歩き再び鉄橋を渡るとまたもや急登、そして急降下の繰り返し。こんな道が続くのかと思うとうんざりしたが、三つ目の鉄橋を渡るとようやく歩き易い登山道となった。それに桂沢沿いに登って行くので水場はふんだんにある。フクベノ平一帯は、ブナの巨木が立ち並ぶ美しい森。自然が造形した素晴らしい公園だ。紅葉の最盛期であればさぞかし見事だろう。
この先再び急登が始まり尾根に登り上げると、神楽ヶ峰から派生して東に長く伸びる尾根が目の前に広がった。一気に広がった展望に元気をもらうが、上がったのはモチベーションだけ。乳酸が溜まり始めた足には届かず、ペースは落ちるばかり。
アップダウンの連続する尾根をなおも登っていくと、ようやく苗場山の軍艦のようにそそり立つ舳先が視野に入ってきた。この急峻な壁を前にして、その向こう側に広大な高層湿原の平坦地があるとはどうして思えようか。
ロープと鎖を頼りに最後の急坂を登り終えると湖沼の点在する広大な山頂湿原の一角に出た。湿原はすっかり草紅葉に染まっている。木道を辿って山頂到着は11時50分。正午をタイムリミットにして引き返すつもりだったのでぎりぎり間に合った。
手早くランチを腹に収め来た道を戻る。せっかくの景色を前にしながら、時間に余裕が無いのが残念だ。秋色深まる広大で美しい湿原とその背後に連なる山々に別れを告げ下山を始めた。下りは登り以上に神経を使うものだ。それでもちょっと油断すると、濡れた岩や木の根が足をすくってくるので何度か尻餅をつきそうになる。 赤湯まで下山してやれやれと一息。ゆっくり露天風呂にでも浸かりたいところだが、そうはいかない。疲れた足には酷な200m近い登り返しが待っているのだ。この道は要するに清津川の高巻き。そんなに高く巻くことはないだろうと見当違いの八つ当たりもしたくなる。 やっとのことで棒ノ沢の鉄橋を過ぎ、最後はだらだらと林道を歩き、夕闇迫る午後4時50分に小日橋に帰着した。久々に距離24Km、累積標高2000mを越える山歩き。大展望に加えてあくせくと歩き肉体を酷使した分だけ、達成感や満足感が沸き上がって来る。 しかし帰路、赤湯で目にした羨ましい光景、「湯上りに清流でボトルを冷やしワインを優雅に楽しんでいた湯治客の姿」も忘れ難い。次回は欲張らず赤湯止まりとし、この秘湯でまったりすることにしよう。 行動時間 10時間30分 |