宮之浦岳  鹿児島県 1936m    百名山
 

  
 

20091126日〜29

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いつか屋久島を旅行したいと漠然と夢見ていたが、百名山を目指したことで意外に早く実現することになった。季節的には花の咲き乱れる春がベストかも知れない。しかし思い立ったが吉日、本格的に木枯らしが吹く前に屋久島を訪れてみることにした。行ってみてわかったことだが、結果的にハイシーズンの混雑を避けて比較的静かな晩秋の屋久島を堪能することが出来た。例によってマイレージを活用して、朝一番の鹿児島行きのフライトで羽田を発つ。冬場なのでジェット気流に逆行して意外に時間がかかる。約2時間をかけて鹿児島空港に到着した。鹿児島は生を受けて60余年、初めて踏む地である。鹿児島空港は、屋久島はもとより種子島や奄美諸島へのハブになっているらしい。小型機が数多く駐機している。JACのプロペラ機に乗り継ぎ、更に半時間ほどのフライトで屋久島空港に降り立った。

 事前に依頼しておいたレンタカー屋の出迎えを受けて、空港近くの事務所へと向かう。ここで滞在期間中の足(格安の軽自動車)をレンタルするが、時計を見ればまだ午後
2時前である。このままホテルに直行するにはいかにも早すぎる。翌日の食料調達を兼ねて本日の目的地、安房とは反対方向になるが屋久島最大の街、宮之浦を観光することにした。しかし、途中で「白谷雲水峡」の標示を見かけてあっさり計画変更。「もののけ姫」の舞台として有名な楠川歩道を散策することにした。アクセスとなる594号線はつづら折れとはいえ幅員も広く舗装された道で快適である。まだ盛りの紅葉を楽しみながら、どんどん高度を上げていく。ヤクサルの群れも数多く見かける。間もなく白川橋に到着、その先の駐車場に車を停めて管理事務所へと向かった。入園料200円也を支払って歩き出すと、ここで初めてヤクシカの出迎えを受けた。沢沿いを進むにつれて森が深くなる。苔むした屋久杉がうっそうとした幽玄の世界は現実離れしている。「もののけ姫」の舞台モデルになったと聞いても不思議ではない。太鼓岩近くまで入ったが夕刻が迫っていたので今日はここで引き返すことにした。2時間ほどのハイキング、翌日の宮之浦岳に備えての軽い足慣らしと言ったところか。再びハンドルを握って同じ道を下る。夕闇迫るなか、島を周回する77号線に出てここを時計回りで南下する。今日の宿、登山のアクセスが便利な安房(あんぼう)の屋久島山荘に着いた頃にはすっかり日が暮れていた。夕食は近くの居酒屋で飛び魚、首折れサバなど島の特産品づくし。もちろん焼酎「三岳」を忘れなかったことは言うまでもない。










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翌日は早朝5時に宿を発って淀川登山口に向かう。暗闇のなかでの見知らぬ山道の運転は緊張するものだが、狭いながらも舗装されており、前にタクシーがいるので多少気は楽である。宿を出て50分ほどで登山口に到着した。既に駐車している車が数台、その間をヘッドランプが忙しく動き回っている。こちらもせかされる様に身支度を整えて歩き出す。時刻は65分。細かなアップダウンはあるが、殆どフラットな道をヘッドランプ頼りに歩く。先行する2組を追い越し、ほどなく淀川小屋に着いた。このすぐ先にある橋の下の静謐で透明な淀川の流れは、そこに水があるのかわからないほどである。夜明けの薄暗がりの中でもそのまま水彩画になるほど素晴らしい。



淀川の静謐な流れ(下山時撮影)



 
ここからひとしきり登りとなるが、次第に展望が開けてくるので辛くも、飽きることもない。左手に岩に何本か包丁を入れたようなトーフ岩が見えてくる。このコース、尾之間歩道は「歩道」と言うだけあって実によく整備されている。土の上よりむしろ木製の廊下や階段を上り下りしているイメージに近い。やがて道は下り加減となって湿地帯に着く。ここは小花之江河と呼ばれ、日本最南端の泥炭層湿原だそうである。このすぐ先にもう一つの湿地帯、花之江河がある。季節はずれということもあって一輪の花も咲いていないのが残念であるが、仕方がない。












 
湿原の先にはごつごつした岩だらけの黒味岳が見える。ここからしばらく登ると一枚岩がいくつも現れてくる。中にはロープの掛かった足がかり、手がかりの乏しいのっぺりした岩もある。こうした風景を見ていると屋久島全体が一つの花崗岩の上にあるという俗説?がいかにも、もっともらしく思えてくる。奇妙な岩を頂に載せた筑紫岳、安房岳、翁岳の3つの山頂は微妙にコースから外れている。これらのピークを巻く形で最後の一登りを終えると今回の究極の目的地、宮ノ浦岳の山頂に立った。所々ガスがかかってはいるが文句なしの快晴である。一月に35日雨が降ると形容される屋久島なので本当にラッキーであった。時刻は925分、登山口から3時間20分を要した計算となる。頂上には若い女性3人の先客がいた。新高塚小屋から上がってきたとのこと。聞けば宮之浦岳は2回目とのことで、口ぶりからするとどうやら地元の娘達らしい。周囲を見渡せばこの周囲120kmの島には多すぎるくらいピークが聳えている。険しそうな永田岳の向こうには口永良部島が見える。来た方向を振り返ると黒味岳が、東の方向には沢山のピークの彼方に種子島がフラットな姿を見せている。展望を楽しみながら、状況によっては足を伸ばそうと決めていた永田岳をどうするかちょっと悩む。宮之浦岳から一旦鞍部へ向けて相当下っており、登り返すのもしんどそうである。女の子達から黒味岳が素晴らしいという話もあったので、より楽な寄り道にあっさり軌道修正し、黒味岳を目的地に定めて来た道を戻ることにする。








 
下り始めると往路とは打って変わって何人ものハイカーとすれ違う。(翌日、この何人かと縄文杉の大株歩道で再びすれ違った)再びアップダウンを繰り返しながら黒味岳分岐に着く。ここからあまり整備されていない、所々ロープもかかった急な登りに耐えて行くと、20分ほどで一枚岩の頂上に立った。四方はすっぱり切れ落ちていて素晴らしく高度感がある。ここからの宮之浦岳の眺めは絶品、寄り道の価値は十二分にあった。しばらく景色を楽しむが、そのうち次第にガスが上がってきて展望がきかなくなって来た。名残惜しいが、眼下に見える花之江河に向けて下山にかかる。目的地をピストンする山歩きでの帰路は往々にして退屈なものだが、いつもそうとは限らないようだ。今日のコースでは、往路の水墨画タッチが、太陽の光を受けてカラフルな景色に変化している。なかでも淀川の透き通った縄文水の醸し出す微妙なパステルカラーの世界にはため息が出た。この景色は掛け値なしに素晴らしい。余韻を反芻しながら歩き続け、淀川登山口には1345分に帰着した。本日のコースは、淀川登山口との標高差が僅か550m程度ながら、アップダウンが多いので実質の高度差はその倍と思って良いかも知れない。




黒味岳山頂からの眺め







 
ハンドルを握って宿への帰り道、道路上にヤクサルの集団がいる光景を何度も目にした。堂々というか傍若無人というか、車をぎりぎり近くに寄せても逃げない。中には往来のど真ん中で平然とグルーミングと交尾を繰り返しているカップルもいた。島の動物たちは実に大らかである。


行動時間              7時間40
歩行時間
             7時間
標準
コースタイム   8時間45




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この日は縄文杉見学に行った。昨日の疲れからか、目を覚ましたのが午前6時近く。すぐに飛び出したが、荒川登山口到着は7時になってしまった。案の定、狭い駐車スペースは既に満杯状態である。ゲート脇から離れた道路脇に何とかスペースを見つけて車を停める。昨日は山岳コースだけあってそれ程込み合っている印象は無かったが、縄文杉コースは勝手が違うようだ。行く先々、ガイドに先導された若い女性の団体さん、カップルに数多く出会う。退屈至極なトロッコの軌道歩きを強いられるが、時折ヤクシカが姿を見せてくれるので気が紛れる。近寄ると「きっ」と警告の鳴き声を発し、身を翻して森に逃げ込まれてしまう。爺岳が展望できる辺りを過ぎると軌道を離れてウイルソン株への登りになる。この大株周辺には多くのハイカーがいて身を置くスペースもない。大株のなかを覗いただけで、そのまま縄文杉へと向かう。夫婦杉、大王杉を見学していると、この辺りから天気が怪しくなって来た。ほどなく本日の目的地、縄文杉に到着。テラスから見る縄文杉は実に巨大、王者のたたずまいがある。しばらく悠久の時の流れに思いを馳せていると、ぽつぽつと降り出した雨が、あっという間に本降りになってしまった。鹿児島地方は晴れという天気予報も屋久島には当てはまらないようだ。見学もそこそこに引き返すことにした。断続的に強く降りしきる雨のなかを、休みなしで荒川登山口まで歩き通した。荒川口への帰着は1335分。枕木の間が池と化した軌道は実に歩きにくかった。






大きすぎてカメラに収まらない縄文杉



行動時間              6時間50
歩行時間             6時間30
標準コースタイム  8時間




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 最終日は車で島をぐるりと一周することにした。安房から南下してモチョム岳に向かう。この山の標高は低いが上部は一枚岩となっていてアルペン的とはまた違う異様な景観である。登山口近くの竜神の滝、千寿の滝を観光してさらに車を進める。この季節になっても道路脇にはハイビスカスやブーゲンビリアが咲き乱れ、いかにも南国という風情である。西部林道に入って本日三つ目の滝、大川の滝を見学する。落差、水量といい、さすがに日本名瀑100選に選ばれるだけのことはある。林道は狭く対向車も殆ど無い。この一帯は動物たちの天下であり、至る所でヤクシカとヤクサルに遭遇した。なかにはシカとサルの群れ同士が仲良く交じり合っている平和な光景も。縄張り抗争など無いらしい。宮之浦の市街地に入っていよいよ旅行も大詰め、観光センター2階のレストランで土地料理を今一度味わい、今回の屋久島遠征を無事〆ることが出来た。





モチョム岳


後記

百名山をやっていて本当に好かったとしみじみ思う屋久島旅行だった。見るもの聞くもの全てがとても印象的だった。それにしても、いつも思うことだが、山旅での感動を表現するボキャブラリーがあまりに貧困で我ながら情けない。読み返すと「素晴らしい」と「見事な」といった平板な表現を繰り返しているだけではないかと思う。自らの文才などもとより期待もしていないし、実際に心で感じたことを誇張して飾りつけるような言葉遊びをするつもりもないが、それにしても何とかならないものか。

 


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