巻機山  1967m 群馬・新潟県       百名山
 

2018年9月18日(火)

 古希を迎え、山を歩くたびに体力の衰えを実感している今日この頃。うかうかしていると、行きたい山やコースが未達のまま終わってしまいそうだ。やりたいことは、前倒しして気力体力のあるうちにクリアしておこうと決めたこの一年。昨年9月の日本百高山完登、今年4月の日本オートルート滑走、6月の谷川岳馬蹄形縦走などがそのハイライト。いずれも老骨にとっては、相当にストレスフルな山行だったが、何とかやり遂げることができた。

 実はもう一つある。それは若いころ夢中になった沢歩きのリプレイ。7月には念願の北アの名渓赤木沢を歩くことができた。それと8月にもう一つやりたいことがあった。それは越後屈指の美渓と謳われる巻機山米子沢の遡行。残念ながら天候とスケジュールが合わず、延び延びになってしまったが、9月も後半になってよくやく実現の運びとなった。

 同行頂くのは今回も群馬のKさん。早朝、群馬で落ち合い、ちゃっかり彼の車に便乗、一路清水集落へと向かった。関越トンネルを抜けると関東の青空から一転してまさかの雨。またもやリスケかとガッカリしたが、桜坂に着く頃には雨はすっかり上がってくれた。しかし昨晩から降り続いた雨で沢の水量が心配な状況となった。駐車場脇の堰堤からは幾筋もの沢水が勢いよく流れ落ちている。これは過去余り目にしたことのない光景だ。


水量の多さは一目瞭然


 一抹の不安を抱えたまま、午前7時ちょうどに桜坂を後にした。しばらくは何の変哲も無い河原歩き。米子沢の下流域は伏流という情報を鵜呑みにし、軽登山靴でスタートしたのはとんだ心得違いだった。伏流どころか沢水はそこかしこふんだんに流れている。


米子沢の道標の隣にはこの看板



この辺りは確かに伏流だが、、、



すぐに流れが表に



水に入らねば先へ進まない


 渡渉を出来るだけ避けようと沢の中州を歩いていると、ふと異様な気配を感じた。見上げると何と目の前には巨大なスズメバチの巣。その距離凡そ1m。気が付かなければヘルメットが巣を直撃、怒り狂ったハチに半殺しの目に遭うところだった。刺激しないよう静かに後退りし、這う這うの体でその場から逃げ去った。ここは、標高930m。この地点に関わらず、この沢にはスズメバチの目撃情報が多いので要注意だ。


岩陰にスズメバチの巣


 そんなこんなで結局軽登山靴を諦め、背負っていたフェルトの沢靴に履き替えた。ここで若い男女のペア、S嬢、O氏が追い付いてきた。彼等とはこの先ずっと行動を共にすることになる。聞けばS嬢は北鎌尾根を日帰りする超のつく健脚の持ち主。O氏はガチャ類をさり気なく身にまとい一見してわかる岩の熟達者だ。

 即製の4人パーティで上流へ進むにつれ、両岸は狭まり斜度も増して河原歩きから沢登りらしくなった。やがて右岸から天に向かって一直線に伸びるナメが美しいナメ沢が合流。この先の連瀑帯は定石通り右岸に付けられた踏み跡から巻いた。


即席パーティ 私、S嬢、O氏



小滝を越えていくKさん



ナメ沢が合流



連瀑帯を高巻く


 再び沢床に降り立つと、滝が次から次に現れ、直登したり巻いたりと息つく間もないほど。やがて左岸から栂ノ沢が合流。この先、両岸は益々狭まり愈々ゴルジェの様相を呈してきた。


先行するS嬢


 やがてこの日一番難儀した12mのスダレ状の滝の下部に立った。左岸の登攀はとても無理、右岸も取りつきのホールドスタンスが細かいので敬遠。右岸から高巻くこととなったが、急斜面のブッシュに音を上げ、結局振り出しに戻った。O氏が熟練の技で右岸の緩傾斜の岩場をクリア。S嬢をお助け紐で引き上げ、バンドをへつって落ち口へと向かって行った。


S嬢にお助け紐を出すO氏


 ここで私は無謀にも滝の直登にチャレンジ。シャワーを浴びながら水流の中のホールド、スタンスを探りながらジリジリと体を引き上げるが、激しい水の勢いに力尽きて落下。幸い滝壺まで落ちることも無くケガもせずに済んだ。もう一息でクリアできたので悔しかったが、冷静なKさんに止められ再チャレンジは断念。結局再び右岸の高巻きを選択することとなった。


滝の直登にチャレンジする私


 Oさんの的確なサポートを頂きながら、Kさんに続いて急斜面を根が浅く頼りない草を掴みながら何とか降り、無事落ち口に立つことができた。帰宅後調べると、同じ滝で我々と同じように高巻きを選択した女性が、掴んだ草が抜けて滝壺に転落、九死に一生を得た事故例があった。やはりここはやはりOさんの取ったルートが正解だったようだ。

 その後は元気なS嬢が先行。どんどんルートを切り開いていく。次々に現れる滝は、ホールド、スタンスがしっかりしているので、高度感に緊張はしても恐怖感は無い。無我夢中で大小様々な滝をクリアし、最後は残置シュリンゲを頼りに連瀑帯を終えた。先に広がるのは、米子沢を代表すると言ってよい、どこまでも続く大ナメ帯だ。水量が多く乾いた部分が少ないのでスリップを警戒し慎重に遡行した。


ゴルジェ帯に突入



同上



同上



果敢に先行するS嬢



続く私



そしてこの余裕



柱状節理か



先行するS嬢を見守るO氏



ここはO氏が先行してへつり



同じ滝を上から シャワーを浴びながら登るKさん



左岸を高巻くS嬢



同KさんとO氏



高度感が凄い



まだまだ滝が続く



同上



ようやく大ナメ帯に



滑りやすいので慎重に


 大ナメ帯を過ぎると再びゴルジュ状になって滝が連続する。愈々米子沢も終盤、細くなった流れを辿って避難小屋直下に出た。ここで沢グッズを尾根歩きグッズに換装。避難小屋で小休止した後、空身で巻機山を往復した。


愈々終盤



避難小屋へ向かうKさん



空身で山頂へ



すっかり秋の装いになった巻機山



 避難小屋で一休みした後は下山あるのみ。ニセ巻機山でお世話になったS嬢、O氏に別れを告げる。彼等は、あれだけのハードワークもどこ吹く風、山道を飛ぶように駆け下って行った。まったくもって底知れぬ体力の持ち主だ。我々ロートル組はマイペースで下り続け、午後4時30分に桜坂に帰着した。


井戸尾根五合目から米子沢を俯瞰


 生憎の天候の下、冷や汗をかく場面もあったが、素晴らしい渓谷美を堪能することができた。しかし古希の爺さんにとっては相当にハードなアスレチック。沢は入門編だけで卒業でいいかなというのが正直なところ。同行して頂いたKさん、それと偶然即席パーティを組んで頂くことになったS嬢、O氏には随分と助けられた。この場を借りて厚く御礼させてもらいます。


行動時間  9時間40分


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