北岳    山梨県 3193m       百名山
      

20156月29日(月)

 今年は例年になく早い雪融けで高山植物の開花時期も早まっているらしい。花の便りに背中を押されて、今回は2年ぶりに北岳を歩き、お花見を楽しむことにした。一番のお目当ては、世界でここだけに咲くキタダケソウ。そろそろ花期が終盤を迎えつつあるので余りぐずぐずしていられない。

 早朝
530分、始発の乗合タクシーに乗って芦安を後にする。野呂川を遥か高みから見下ろしながら広河原へと向かう車中で思うことは、南アルプスの奥深さとそれとは裏腹に交通の便の良さ。東京を発って3時間も経過していないのに、これだけの大自然の中に身を置いているのがとても不思議な気がする。その分、逆に林道が閉鎖される冬場は、北岳へのアプローチはさぞかし大変だろうな等と考えているうちに居眠りをしてしまい、気がつけば広河原だった。

 早速登山届を提出しようとビジターセンターへと向かうと、そこには見覚えのある後ろ姿。呼び止めると案の定、神奈川の
Kさんだった。彼とは立山でお会いして以来、山スキーやゲレンデスキーを何回かご一緒して頂いている。これから北岳へ向かわれるとのことで、予定されているコースも私と同じ。願っても無いことと、御一緒させて頂くことになった。


              青空の下の北岳               広河原を出発 吊り橋を渡るKさん


 630分、広河原を出発。この時間帯はまだガスもそれほど湧いておらず、大樺沢の奥に北岳の頂きが顔を覗かせている。文字通りの四方山話に花を咲かせながら、沢伝いにどんどん高度を上げて行く。


            大樺沢沿いを登る                雪渓が出て来た


 テント泊装備の重荷にも関わらず、
Kさんは涼しい顔をして、軽いデイパックの私に苦も無くペースを合わせてくれる。私より年長のはずなのに、衰えを知らないKさんの強靭な身体能力には舌を巻くばかり。かくして二俣には、途中一回の大休止をはさんでも標準CTを下回る1時間45分で着いてしまった。


大樺沢左俣の雪渓


 二俣から見上げる大樺沢左俣には雪渓が稜線近くまで続いているが、たまたま途中でご一緒した年輩ハイカー氏によれば、例年よりずっと残雪が少ないとのことだ。ここで衣替え。頭にはヘルメット、足元には
12本歯アイゼン、手にはピッケルの代りにセルファレストということで、いつも手抜きの私にしては珍しく万全の備えで雪渓を登り始める。Kさんもピッケルにアイゼンの出で立ちだ。


雪渓を登るKさん


 重荷を背負いキックステップで登る人、靴スキーで下山してくる若者達など、ノー・アイゼン組みも居たが、見るからに危なっかしい。多少荷物になっても安全と安心を与えてくれる道具は使うに限ると思うのだが。


バットレスの圧巻の眺め



    キックステップで苦労しながら登る大荷物の人        ここでアイゼンを外す


 標高
2600m辺りで雪渓は切れて夏道が露出、ここでアイゼンを外し、しばらく岩を縫うようにして急坂を登る。斜度は愈々増して、もう勘弁してくれと泣きが入るほど木製梯子が連続する。標高差1000m以上を登ってきた疲れに高度の影響も加わって、ここから八本歯のコルまでが苦登のハイライトだ。やっと辿りついたコルは完全に濃いガスに飲み込まれていた。


            まるでアスレチック                 梯子を登るKさん



残雪に新緑のコントラストが眩しい



             前を歩くおばさま達              北岳山頂はガスに飲み込まれそう


 暫く稜線を登り、山頂直登コースから別れ、お目当てのお花見コースであるトラバース道へと向かう。ガスの中から次から次にと現れるお花畑は期待以上だった。


キタダケソウ


 キタダケソウにもご対面。花期終盤とあって残念ながら、多くの花が既に散っている。その中にあって、ハクサンイチゲの群落の狭間で、まだ健気に咲いているキタダケソウの花があった。写真で予習はしてきたものの、実物は想像していたよりずっと小ぶりで可憐だった。正直
Kさんに教えて頂けなかったら見落としていたかも知れない。





 お花見街道も終わり、北岳山荘との分岐に到着。ここから北岳山頂へと向かう。ガスで周囲の景色が見えないので、足元に神経を集中してひたすら高みを目指す。午後
1210分に5時間40分かけて北岳山頂に到着。


             やっと着いた山頂                ガスの切れ目から一瞬富士山が覗いた


 山頂には背骨に重い障害を負った年配女性がいた。お話を伺えば、他の山域でもかなりハードなコースも登られているご様子。ハンディキャップをものともせず、果敢に登山にチャレンジしているお姿が印象的だった。

 肩の小屋でテントを張る
Kさんとは、名残惜しいがここでお別れ。再会をお約束し、私は一足先に下山を開始する。目標は3時間以内に広河原到着。そうすれば1530分発の乗合タクシーにぎりぎり間に合う。どうせガスで景色を楽しむこともできないので、まっしぐらに下るのみだ。


肩の小屋へ向けて下山開始


 怪我だけはしたくないので、足元に注意しながら小走りで下る。肩の小屋、大樺沢右俣と経由し、休まずに下り続け、
1520分に広河原のタクシー乗り場に到着した。やれやれ間に合ったとホッとしたのも束の間、私より20m先を歩いていたハイカーがタッチの差で先に乗り込み、満員札止めになってしまった。幸い、待ち時間を持て余すこともなく次便に乗れたので、頑張って下山した甲斐はあった。

 天気は今一つながら、この時期限りの美しい高山の花々でとても良い目の保養ができたし、それに何より
Kさんとの思わぬ再会が嬉しい一日だった。


行動時間  
8時間50


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