笠ヶ岳BC 2058m 群馬県               
 


2019年4月13日(土)

 快晴が約束された4月の週末。賞味期限切れの山が多くなる中で、残雪豊富な北アや谷川岳など山スキーの有名スポットはどこへ行っても大賑わい。そんな時は敢えて人気の無い地味な山を選ぶに限ると、前々から一度は歩きたいと思っていた尾瀬の笠ヶ岳に向かうことにした。

 ちなみに国内には同名の山はいくつもある。ヤマレコの山行記録数をチェックすると笠ヶ岳で登録されているのは全体で3663件、言うまでも無く、最もポピュラーなのは北アのそれで1950件。次いで白毛門のお隣にある笠ヶ岳が1286件、一方尾瀬の笠ヶ岳で登録されているのは234件。何とたったの6%に過ぎないのだ。

 鳩待峠開通を来週に控え、この時期尾瀬には余程の物好きしか来ないだろうと思っていたら、とんだ見当違い。早朝5時の段階で戸倉の湯けむり街道ゲート前には路駐の車列が出来ていた。車の中で支度をしている間にも板を担いだスキーヤーがペダルを漕ぎながら何人も出発していった。

 5時25分、私も愛用のクロスバイクに跨りゲートを後にする。バックパックに加えて板とブーツの重みがずっしりと肩にかかる。そんな重荷を背負っての心肺&大腿四頭筋酷使は年寄りには殊の外堪える。気息奄々、ぜいぜいと肩で息をしながら笠科川沿いを登っていく。


凍てついた湯けむり街道を喘ぎ登る


 途中自転車を降りて押し歩きしている先行者4人を追い抜いて津奈木橋に到着。ここまでの所要時間は55分。5年前より10分余計にかかっているが歳を考えれば、完走できただけ上出来だ。路面状況もまずまず良好。一部凍結箇所はあるものの、総じて路面は乾いていた。二三日前の降雪の影響を心配していたが杞憂だったようだ。

 橋の袂に愛車をデポし、今度は徒歩で坤六峠方面へと向かう。足元の凍結に気を付けながら、雪の回廊を進むこと僅か30m、除雪はそこで終了していた。その先は高さ3mはあろうかという雪壁で囲まれている。その壁をウイペットで崩し、何とか雪上に這い上がった。長い林道歩きを想定してスニーカーを履いてきたが、早くもザックの重しになってしまった。


自転車をデポし歩く スケートリンクと化しているのでヒヤヒヤもの



何とか雪上へ


 雪面は朝晩の冷え込みによって作られた安物モナカだった。皮はカチカチ、中身の餡子はまだ落ち着いていない重パウダーという具合。バリバリと皮を噛み砕きながら進んで行く。


きれいだが、凶悪モナカ


 やがて樹間から真っ白な笠ヶ岳が垣間見えるようになってきた。笠の字から三角形のイメージが湧くが、私見ながら実物は標準正規分布とも見える形状をしている。つまり流れるように均整がとれておりとても美しいのだ。こんなに美形なのになぜ人気が無いのだろう。


笠ヶ岳を正面に見る


 今回事前に検討した登高ルートは、小笠から南東に伸びる支尾根か、スリバナ沢の右岸の支尾根の二案。実地に様子を観察して決めることにしていた。小一時間の林道歩きにそろそろ飽きてきた頃、ようやく笠科橋に到着。ここから街道を離れ、沢の右岸台地に登り上げた。


笠科橋 ここから正面の台地を行く



最狭区間 ここは左岸を高巻いた


 暫く歩くとタル沢との分岐となる。前者の案では、ここから小笠南東尾根に取りつくとしていたが、登り口が少々急で文字通り「取っつきにくい」。それに笠ヶ岳へはやや遠回りになるので見送ることにした。という訳で後者の案で行くことに決定。

 スリバナ沢を越えたところで支尾根に取りついた。中程度の斜度の開けた斜面が延々と続く気分の良い尾根だ。ここをスキーで下山しても面白そうだ。但しその後の長い街道歩きが待っているのが玉に瑕。足首程度の軽ラッセルながら、長く続くと流石に足に来る。そろそろ疲れが出てきた頃、小笠と笠ヶ岳を結ぶ稜線に出た。


支尾根の末端に取りついた



坤六峠からの稜線



振り返るとこの景色



こんなオブジェもあって気がまぎれる



愈々稜線に


 笠ヶ岳の基部に立つと、壁と見紛うかのように斜度がきつく、しかも北東に面しているせいか部分的に氷化している様子が窺えた。シール登高は無理と早々と断念し、アイゼンに換装。ダブルウイペットを駆使して急斜面を四駆で這い登った。


壁のように聳える北東面


 10時50分、山頂到着。快晴の空の下、360度の大パノラマを満喫する。目と同時にカロリー補給で腹も満たしたら愈々滑走だ。狭い山頂なので流さないよう慎重にスキーを履いて滑走開始。氷化した北東面を避け、雪の緩んだ南東の急斜面を滑り降りて基部へと降り立った。


巻機山を背景に山頂スナップ



至仏山(右)、平ヶ岳(正面)、越後駒ケ岳(左)



南側はメンツル、北側は痘痕だらけだったのでちょっとがっかり



悪沢岳へと向かう



笠ヶ岳を振り返る 左は武尊山


 ここから悪沢岳までアップダウンが続く。このような地形を想定して足元はステップソール。多少の登り坂であれば、軽快にクリアできる。シールに頼らず、難無くのっぺりした悪沢岳の頂に着いた。ここから至仏山を眺めると斜面に大勢の登山者やスキーヤーがとりついているのが見えた。ワル沢への大斜面はきっと多くのシュプールで切り刻まれているだろう。


尾瀬沼と燧ケ岳 会津駒ケ岳も



至仏山に別れを告げ、、、



滑走開始



笠ヶ岳もさようなら


 悪沢岳からの下降ルートは1867mピーク経由の南東尾根。鳩待峠方面へと滑り出すと準パウダー乃至は快適ザラメだった。しかしそれも途中まで。標高が下るにつれ、パックされた重雪やモナカに苦しめられた。とは言え、これが山スキー。悪雪にもめげず、それなりに滑走をエンジョイしながら下山できたので良しとしよう。


まだ高い壁 降り口を探してウロウロ



津奈木橋の自転車置き場 電動アシストバイクもあった


 津奈木橋からは重力任せのダウンヒル。殆どペダルを回すことなく、20分程で戸倉に無事帰着した。今回、津奈木橋から悪沢岳まで、トレースやシュプールは皆無だった。登山者やスキーヤーで賑わっていた至仏山とは対照的に、出会った人間はゼロ、見かけた動物は野ネズミ一匹だけという御一人様限定の尾瀬。こうした静謐な山旅もたまには悪くない。


行動時間  9時間5分


Gear Voile V6BC153cm / Scarpa F1Tr


  
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