甲斐駒ヶ岳    2965m 長野・山梨県  百名山      
      

2012531(木)

 先週の白馬岳をもって山スキーは一段落。久しぶりに土の上を思う存分歩きたいと、甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の日帰り往復にチャレンジすることにした。この尾根は言わずと知れた日本三大急登の一つ。歩行距離が長く単純標高差が2200mもあって相当にタフなコースだ。

 山と高原の地図の標準
CTによれば、登り9時間30分、下り5時間40分で合計15時間10分となっている。このコースデータはかなり甘いと思われるので、ネットで実際の山行記録を調べると、所要時間は通常登山者の早い人で10時間を切り、平均的には11時間前後といったところだろうか。但し5月の記録を見ると雪の状態によっては思わぬ苦戦を強いられるとの気掛かりな情報もあった。結果的には、事実その通りでグサグサに腐った残雪にえらく消耗させられ、久々に体力の限界に挑戦するような厳しい山歩きになってしまった。

 長丁場に備え、夜明け前に竹字駒ヶ岳神社の駐車場に到着。手早く食事と身支度を済ませて車を後にする。時刻は
410分。薄暗い神社の境内で少しウロウロしてしまうが、凡その見当をつけて先へ進むと尾白川を渡る吊橋に出た。ここからいよいよ本日の長丁場の始まりだ。


          竹字駒ヶ岳神社(下山時撮影)                          吊橋を渡る(同左)


 しばらくの間は適度な勾配につけられた歩き易い登山道を行く。落ち葉のクッションもあって中々快適だ。流石に山岳信仰の表参道だけあって、道すがら数多くの石碑を目にする。何れも苔むしていたり、風化が進んで歴史を感じさせる。横手・白須分岐から少し先の小広場で小休止。ここで本日
2度目の朝食をとり、先々の重労働に備えて腹ごしらえをしておく。


             新緑の登山道を行く                              鋸岳方面だろうか



                 笹の平分岐点                            苔むした石像


 高度が
2000mに近くなると植生が新緑の広葉樹からシラビソ等の針葉樹に変わってきた。山梨県地方は曇りの予報に違わず冴えない天気だ。景観は無きに等しい。ガスの切れ間から地蔵岳のオベリスクが垣間見えただけでもラッキーか。尾根が痩せてくると狭い岩稜上に鎖が連続する刃渡りだ。


            地蔵岳のオベリスク                                 刃渡り


 登山道周辺には次第にしっとりと濡れた地衣類が目立ち始め、南アルプスを歩いている実感が湧いてくる。黒戸山を巻きながら暫く平坦な道が続き、続いて
100mほど下降。小屋跡のある鞍部が5合目だ。ここから、たおやかな登山道から一転して梯子、鎖の連続する険しい山道になる。


               刀利天狗                              いかにも南アらしい道



         五合目から先はいきなり険しくなる                        五合目小屋跡



         梯子の連続
 
 体力的にはこの辺りまではまだ余裕で、アスレチックを楽しみながらどんどん登る。登山道に残雪が目立ち始めた頃、七丈小屋に到着。外からうかがう限り人の気配は感じられない。水道の流しがあったが、水源地が雪に覆われ使用不可とのこと。
 
 キャンプ指定地の上辺りから突然といって良いほど雪山に急変。念のためストックをピッケルに持ち替えた。雪が相当に腐っているようなのでアイゼンは余り効果が無さそうだ。案の定、保持力に欠ける雪質で、キックステップも二回、三回とつま先をけり込まないと、簡単に足場が崩れてしまう。途端にペースがガクッと落ちてしまった。


                 七丈小屋                              快適そうなテント場



           七合目からは雪山に早変わり                      グサグサの雪で消耗


 この先夏道が出ている所もあるが、岩、雪、氷のミックスが続く。樹林限界を過ぎても全く眺望が無い。眺望という御褒美の無い登山は辛い。それでも八合目御来迎場では、ガスの切れ間から迫力ある甲斐駒ヶ岳が断続的に姿を現してくれた。


八合目から


 鎖も埋もれた雪の斜面を慎重にトラバースする。雪が出て来ると途端に牛の歩みになってしまう。歩き始めから
6時間50分、午前11時にようやく甲斐駒の頂に立つことが出来た。ここまで誰とも遭遇することも無く、何時もは大賑わいの頂きも今日は一人占めだ。


         雪斜面のトラバース                 鎖(手前)を掘り出してみた

 見上げれば青空も覗いているものの、残念ながら唯一の景色はガスの合間から見える摩利支天のみ。景観も無い頂に長居は無用とランチを詰め込んだ後はさっさと下山を開始する。


            甲斐駒ケ岳山頂                            青空が見えているのだが、、、



摩利支天が辛うじて見えるだけ


 気温が高くなってきたためか、雪のグリップはさらに低下し、一歩一歩嵌るので難行苦行そのもの。時には太腿、酷い時は腰までずっぽり落ち込んで抜け出すのが一苦労だ。これまで山スキーでは、散々楽しませてもらった同じ雪が、こうなると今やにっくき存在。滑ったり、転んだりしながら七丈小屋までやっとのことで降りた。小屋前のベンチで小休止、ここでピッケルをストックに替えて下り続ける。


            太腿まで嵌る                               腰までズッポリ嵌った穴

 
5合目の登り返しはそれほど苦ではない。むしろ、その後のダラダラした下りがボディブローのように足にきいてきた。思うようにペースが上がらず、なかなかカウントダウンしない高度計を眺めるのも苦痛になる。

 忍の一字でウンザリするほど下り続けると、やがて目にしみるような新緑が広がってきた。しかしその美しさに心奪われたのも最初だけ。再び惰性に任せて足を動かし続ける。ようやく尾白川の水音が聞こえてきたものの、それからがまた長かった。


           何かの深海魚に見えませんか?                    ようやく尾白川まで下ってきた



吊橋より尾白川を撮影


 駐車場帰着は
410分、ちょうど12時間きっかりの難行苦行だった。山中で出合ったのは、登山者ではなくボッカ中の山小屋の方、一人だけ。元々高度差と歩行距離の長いハードなコースであることに加えて、7合目から上の残雪で悪戦苦闘させられた山歩きだった。下山後太腿の筋肉痛に悩まされたのも久々だ。毎年、しかもよりによってこの季節の黒戸尾根登山を恒例にされている方もおられるが、私は願い下げ。今回が最初で最後でしょう。


行動時間 12時間
歩行時間 11時間30

           

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