2018年2月10日(土)
岩菅山は大勢のスキー客で賑わう一大リゾート地、志賀高原の一角にある。興味深いことに頂上稜線を挟んでその東側は、西側とは対照的に林道や送電線などの人工物を一切目にすることのない原始の森が広がっている。その遥か先、中津川を下ってやっと人里に行きついても、そこは秋山郷。秘境として知られる山深い里だ。
5年前にその秋山郷から佐武流山に登頂した際に、こうした手付かずの自然豊かな岩菅山を眺め、いたく感動した覚えがある。今回は同じ岩菅山でもその反対側、多くの車が行き交い、まるで都会にいるかのような志賀高原からアプローチした。
リフトの機械力をフル活用できるので、不遜にもスキー場の延長ぐらいにしか考えていなかった岩菅山だが、これはとんだ心得違いだった。いくらリゾート地に近くても冬山に変わりはなく、そんな甘い認識を猛省させる手厳しいお仕置きが最後に待っていたのだ。
今回もご一緒して頂くのは群馬のKさん。下山地点に彼の車をデポ、私の車で一ノ瀬ファミリースキー場へと移動する。ここから朝一番のリフト二基を乗り継いで寺子屋峰直下へと向かった。標高2060mの寺子屋スキー場の最高点では、快晴の空の下、屏風のような北アルプスを初め、頚城の山々が出迎えてくれた。
北アルプスや頚城の山々がお出迎え
寺子屋スキー場から望む岩菅山
今回の足元はステップソール(俗に言うウロコ板)。標高差はそれほどでもない代わりに起伏の多いコースのため、機動力を重視したためだ。
8時45分、シールを貼らずにスタート。ますは2125mピークを右から巻いていく。昨年も同じコースを経験し勝手を知ったKさんが先導してくれるので心強い。
2125mピークを巻くKさん
構造上の制約からシールほど登坂力が無いウロコ板は、一定限度を越える斜度では滑りだす。そんな時は万能ストックのウイペットセルファレストが大活躍。この山域は木々が密生しているので、ピックを幹や枝に引っ掛け身体を持ち上げたり、確保するのに随分と役立った。
モンスターの間を抜け前進
巻きが終わり鞍部に出ると、今度は左側から寺子屋峰を巻いていく。ようやく岩菅山山頂へと続く稜線の全体像が見渡せるようになったところで滑走モードにチェンジ。小雪庇を崩して東側の斜面に飛び込んだ。滑走はあっという間に終了。再び細かな起伏を幾つも越えていく。
近いように見えて遠い岩菅山
雪庇を崩して斜面に飛び込んだKさん
雪庇の下を滑降
寺子屋峰を振り返る
稜線上は凸凹が激しいので雪庇の下部にルートを求めるが、人を丸飲みするほどのヒドンホールがあったりして中々気が抜けない。気温が上昇したせいか、雪がかなり緩んでいる。滑走モードのまま、足場を十分に固めずに雪庇に登り上げようと横着した途端、足元が崩壊。とっさにウイペットで制動をかけたものの、緩んだ雪は糠に釘状態で10mほど滑落してしまった。やはり山スキーに油断と手抜きは禁物だ。
雪庇の下を滑降
同上
同上
少しづつ岩菅山が近づいてくる
雪庇の下にはクレバスも
遠い道程も最終局面
そろそろウロコの限界が見えた時点でシールオン。ノッキリへの登りにかかったところで、これまでずっとラッセルを続けてくれたKさんに替わって私が先頭になった。ノッキリから最後の急登300mをジグザグに登り切り、12時45分に山頂に立った。Kさんにとっては4回目、私は初登頂で65座目の二百名山だ。
ラッセル交替 私が先頭に
残る標高差300m
もうひと頑張り
岩菅山山頂 天気は下り坂
午後から天気が崩れるとの予報通り、陽は陰り、朝方はクリアに見えていた北アルプスもグレーのベールに閉ざされてしまった。更なる天候悪化は時間の問題、余りのんびり構えてはいられない。早速滑降にかかる。滑降ルートはKさんが昨年開拓した比較的藪密度の低い1893mピークの西側斜面だ。
山頂からドロップインするKさん
山頂直下の滑走斜面は、登路に使った南西斜面。陽光をたっぷり浴びて立派に形成されたモナカがそこかしこに待ち構えていた。雪質フリーのKさんは、いとも簡単にショートターンを繰り返しているが、私は引っかかる雪面に苦労しながら大回りで慎重に滑り降りた。
雪質に頓着しないKさん
雪質に頓着する私
樹林帯に入ると一転して一部にはパウダーが冷存されていたのでやっとまともなスキーになった。ハシゴ沢源頭部のトラバースに肝を冷やしながら尾根を乗越し、ツリーランを続ける。
パウダーなら何とか
オープンバーンはモナカ気味
ハシゴ沢源頭部
不安定な雪と急斜面のきわどいトラバース
重パウダーのツリーラン
同上
同上
標高が下がった分、雪温が上がったためだろうか、スキー板に雪が付着し始めた。最初のうちは飛んだり跳ねたりして雪を落としながら、だましだまし滑っていたが、そのうち高下駄のようになってしまい、全く滑らない。それどころか、根っこが生えたかのように足を持ち上げることすら難儀するようになった。
板に雪が付着 斜度があっても前に進まない
スキーを脱いで滑走面をチェックすると、氷と雪の塊で覆われている。ウロコ部分は特に酷い。付着した雪塊をきれいに落とし、再び板を履くと数メーターもいかないうちに同じ状態になってしまう。Kさんも同じ現象で苦労しているが、私ほど深刻ではないようだ。
水上飛行機のフロートのようになった巨大な雪塊を引きずっていては、牛の歩み。いたずらに時間だけがどんどん過ぎてしまう。アライタ沢を渡った辺りで潔くギブアップ。なりふり構わずシートラーゲンに転向することにした。ツボ足では脛まで潜るラッセルとなるが、脚を持ち上げることもかなわないアンクルウエイトより余程マシだ。
板を担ぎ、スノーブリッジを恐る恐る渡る私
凡そ300m、汗だくで歩き続け、ようやく林道に出たときはホッとした。幸い林道につけられたトレース上では、雪塊がつくこともなく快適にクロカン歩行することができた。
岩菅山を振り返る
除雪最終地点に帰着 やれやれの私
午後4時に除雪最終地点にデポしたKさんの車に到着。ストップスノー、板つかみ等々、過去に経験した事例とは比較にならない深刻な雪の付着現象。もしこれがツボラッセルもままならない山奥だったりしたらと思うとぞっとする。
対策として十分かどうか分からないが、やはりメンテの手抜きは駄目。ワックスがけを小まめにやっておかねばと改めて反省したのだった。万一に備え、次回はワックスの携行も忘れないようにしよう。
最後に、岩菅山は藪密度が濃すぎて山スキーには不適との話をよく聞く。しかしルート次第では十分楽しめる山だと知った。Kさん、今回もガイド感謝です。
行動時間 7時間15分
使用Gear Voile V6BC 163cm/Scarpa F1 Evo
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