石鎚山  愛媛県 1982m    百名山
 

  
 

2010327

 
桜の季節を迎え、2ヵ月半ぶりに百名山巡りを再開することにした。今回選んだ目的地は四国の石鎚山と剣山。この2つの名山を一泊二日で制覇しようと計画した。四国の山とは言え、3月はまだ冬山である。敢えてこの季節としたのには理由がある。もともと四国を旅してみたかったこともあるが、マイレージでゲットしたホテルの無料クーポン券が3月末で期限切れになると言う下世話な理由からである。しかし、こうした不純な動機には必ずしっぺ返しが伴うものらしい。前日に季節はずれの厳しい寒気が押し寄せて、里は桜の季節というのに山はすっかり冬の装いに逆戻り。おかげで初日に予定していた剣山は、アプローチの438号線の冠雪で登山口にすら行き着けず、今回の収穫は石鎚山だけとなってしまった。




         空港を出た頃は春、それが。。。                 剣山に近くなるとすっかり冬景色に




  26日、羽田から朝一番のフライトで高松空港へ。ここでレンタカーを借りて早速、ナビに剣山をセットする。四国には過去2回訪れたことがあるが、いずれもそそくさ用事を済ませての日帰り出張で観光的には何も見ていないに等しい。四国と言えば瀬戸内海や室戸岬といった海のイメージが頭にあったが、これは一面だけで、実態は山あり谷ありの山国であると言った方が良さそうだ。2日間ハンドルを握りながら、四国がいかに山深い地であることかを痛感することになる。さて、剣山への道であるが予想以上に手ごわかった。高松の市街地からいくらも走らないうちにすぐに山間に入る。道はくねくねと蛇行しながら次第にすれ違いも容易ではないほどに狭くなっていく。標高が上がるにつれて積雪が路肩から次第に路面全体を覆うようになってきた。目的地の見ノ越まではまだ10kmはあろうかという地点まで到達したがここでギブアップ。ノーマルタイやのレンタカーではこれ以上は無理と判断して引き返すことにした。

 四国の春山を甘く見過ぎていたようだ。これで石鎚山も不発になると何をしに来たかわからない。宿泊予定の松山に向かう松山道を途中下車して石鎚山を下見しておくことにした。伊予小松
ICから再び山道を辿るが、剣山へのアプローチに比べると道はよく整備されていて快適である。高度も低いのでアプローチの心配は無いようだ。少なくともここには雪はない。登山口の西之川まで行き、未明の出発に備えて辺りの様子を十分チェックした。再び山道を下って高速に乗り松山市内へ。松山のJALシティーホテルにチェックインした後、せっかくの機会なので目の前に聳える松山城を散策する。咲き始めた桜がお城の石垣に映えて一幅の絵になっている。どちらも日本を代表するものなので当然と言えば当然か。





               松山城                                    城と桜




  27日は、ホテルを午前2時半にチェックアウトし、一路石鎚山へと向かう。前日リハーサルをしているので不安は無い。天気も上々、素晴らしい星空である。3時半に西之川に到着、身支度を整えヘッドランプを着けてゆっくり歩き出した。石鎚山にはロープウエイがあるので、これを使えば高度差800m8分で済んでしまうらしい。楽は出来るが折角四国まで来てそれでは余りに味気ないし、それに帰りのフライトが4時半なので昼過ぎには下山しておきたい。と言うことで標高430mの西之川から石鎚山山頂まで、標高差1540mをピストンすることにした。帰途はロープウエイという手もあるが、やるなら往復とも歩きを徹底しようという自分の流儀へのささやかな拘りである。

 暗闇のなかをヘッドランプ頼りに石垣沿いを進む。暗闇のなかから幾つもの廃屋が浮かび上がる。その昔、林業が盛んであった頃の宴の後ということか。ランプに照らされる荒れ果てた家々はあまり気持ちのよいものではない。この辺りの道はしっかり整備されているが、もともと予定していた成就への分岐を見落としてしまい、御塔ノ谷沿いに進んでしまった。沢を渡り返すといつしか沢音が遠のいていく。漆黒の深い森のなか、聞こえるのは自分の靴音と息遣いだけである。何を好き好んでこんなことをやっているのかと毎度の思いに耽りつつ機械的に足を前に運ぶ。土小屋への分岐を過ぎた頃、夜が白々と空け始めて来た。道が次第に雪交じりになるが、一昨日に積もったばかりのものらしく根雪ではない。道は再び沢沿いに戻り、歩き始めて
1時間半ほどで刀掛に到着した。ここで初めて一息入れる。道は天柱石経由夜明け峠方面と八丁方面と分岐しているが、少しでも当初予定のルートに近い後者を選択した。しかし、このルートは、あまり登山者が入っていないようである。道は不鮮明、しかも新雪でわかり辛くなっているので何度か見失い行きつ戻りつした。八丁坂が近くなると等高線沿いのフラットな道になるが、登山道は熊笹に侵食されて消えかかっていた。新雪を葉に乗せた熊笹のラッセルと言った感じである。




              熊笹のラッセル                             樹林の間から石鎚山




 稜線に飛び出すとこれまでとは打って変わって立派な参道である。流石信仰の山だけあって鳥居や、あろうことか賽銭箱がいたるところにある。参道はよく整備しれているのはよいが、階段だらけで歩幅が調整できず疲れた大腿四頭筋にはすこぶる堪る。更にご丁寧に「現在地は標高1300m」との案内があってまだ600mもあるのかと気持ちを萎えさせてくれる。雪は深くはないが、所々凍結していて滑りやすい。しかしアイゼンを着けるほどではないので、つぼ足のまま慎重に進む。夜明け峠まで来れば最後のひと頑張りである。峠から眺める山頂付近は木々が見事な樹氷を見にまとって神々しいほどだ。




樹氷と石鎚山




 ところで、この山には、登拝者(登山者とは言わない)がすれ違った際、「おのぼりさん、おくだりさん」と挨拶する決まりがあるらしい。登っている人が「おのぼりさん」と言うのか、それとも「おくだりさん」と挨拶するのか、どっちなのだろう。そんなことを考えながら歩いていたところ、若い外人さんが下って来て「コンチワー」と日本語で元気よく声をかけて来た。やはり山ではこの挨拶の方がしっくりするようだ。






 暫くして最初の鎖場に到着。試し鎖と言うらしい。話の種に一つだけチャレンジすることにしたが、壁面は氷結していてとても足を置けない。結局、極太の鎖の繋ぎ目をホールドとスタンスにして登りきった。降りは高度感もあってスリル満点、結局岩には触れることなく巻き道に降り立った。もうこれで十分、二の鎖、三の鎖はパスすることにした。




               氷結した鎖                             一の鎖のピーク




 いくつか金属製の階段を上りきった後、最後の坂道をひと登りすると、重厚な神社のある石鎚山山頂に立った。西之川から丁度5時間かかった。昨日の剣山が空振りであっただけに感激もひとしおである。






カメラを取り出すがあいにくガスがかかって視界がよくない。天狗岳の左右非対称の怪異な姿がガスの合間から辛うじて見えているだけだ。山頂には完全冬山装備の髭面男が三脚に大型の一眼レフをセットして天狗岳のシャッターチャンスを狙っている。話を聞くとどうやら昨夜は避難小屋に泊り込んだらしい。帰りのフライトが気掛かりなので頂上滞在はほんの15分ほど、天狗岳のピストンも諦めて慌しく下山の途についた。頂上直下で本日3人目の登山者と会った。アイゼンを外していたこの御仁は土小屋から登ってきたとのこと。足場がかなり危ないところがあってアイゼンが必須だったらしい。夜明け峠を過ぎるとロープウエイで上がってきたと思しきハイカーが続々とすれ違うようになった。

 八丁坂から再び登りとなる。だらだらと
100mの高度を上り返して成就に到着。頂上の神社に無事登拝を終えたので文字通りの大願成就だ。季節はずれのせいか人気の無い成就を素通りしてロープウエイ方面へと下る。途中の分岐から西之川へのルートに踏み込むと、全くのバージンスノーである。どうやら本日すれ違ったハイカーは全員ロープウエイ組で、物好きは小生だけらしい。成就の標高は1400mなので1000m近くを一気に下らなくてはならない。黙々と足を進めていると、いつしか雪も消えて、見事な杉林のなかを下るようになる。よく整備されたジグザグの道は歩きやすいが、冬篭りの間、山から遠ざかって筋力の落ちた太腿は膝をしっかり支えてくれないようだ。しばらくすると右膝に痛みが出てきた。ペースを落として一歩一歩慎重に膝を庇いつつ進む。沢音が大きく耳に響くようになって間もなく刀掛方面との分岐に帰着した。どうやらここを見落としたらしい。さらに下り続けると廃屋の集落に着く。不思議なもので明るい日差しの下では、往路に感じた薄気味悪さは全く感じられない。











西之川に下山




 沢水で顔を洗い清めた後ひと歩き、1215分に車に帰り着いた。着替えを慌しく済ませてすぐに車を出した。西条市から再び松山自動車道を一路松山へ。心配した松山市内の渋滞も無くスムーズに空港最寄のレンタカー会社に行き着くことができた。車を返してすぐに空港へ。余裕を持って1時間半前にはチェックインできた。

 今回の山旅での最大の反省はスケジュールをあまりにタイトに組みすぎたこと。自然現象による剣山の断念は安全確保のためには仕方のないこととして、標高1982mで西日本最高峰の天狗岳をパスせざるを得なかったことは悔やまれる。頂上社のあるいわゆる山頂は弥山と呼ばれ、地図には標高はないが、1974mで天狗岳よりも8m低い。積雪と凍結があるので100mほどの距離でも往復に相当の時間を要したであろうから判断に間違いは無かったとは思うが、若干後味の悪さを残してしまった。今回、剣山を残したことであるし、四国には必ず再訪することになる。次回リベンジにチャレンジしよう。



動時間           8時間30分(登り5時間、下り3時間半)
歩行時間
           8時間(山頂15分、5X 3回休憩)



 


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