火打山BC  新潟県 2462m   百名山    
   

2017年4月23日(日)

 山スキー百山にロングトレイルが魅力と紹介されている火打山澄川。過去の滑降記録を調べると、積雪量如何でコースの難易度が大きく変わるようだ。GWの連休後のレポをチェックすると、雪切れで水量豊富な澄川の渡渉にえらく苦労している例がいくつもあった。一方でスノーブリッジが期待できる4月前半以前は、起点となる笹ヶ峰の除雪が完了しておらず、アプローチに難がある。つまり、お手軽に日帰りするには、開く窓が実に狭いということだ。同じ北面でも人気のほどは、北面台地とは比ぶべくもないのも頷ける。

 そんなマニアックなルートに今年こそはと執念を燃やす群馬のKさん。天はその思いをくんでくれたらしい。笹ヶ峰開通から間もない休日にピンポイントでまたとない好天をプレゼントしてくれた。私も喜んで同行させて頂くことにした。

 午前4時に道の駅あらいに集合。ここから車2台を連ねて日曹矢代第三発電所へと向かう林道を登って行く。標高400mを越えた辺りでゲートが立ちはだかり通行止め。その先も除雪が進んでいるので、ここまでスキーを脱がずに来ることはできない。歩きを相当覚悟せねばならないようだ。


ガラガラの笹ヶ峰


 Kさんの車をデポし、私の車で一路笹ヶ峰へ。私の知る限り、明らかに例年より積雪が多い。杉之原スキー場を過ぎると、九十九折の道の両脇が雪壁になっている。見通しが悪いので慎重に運転し、すっかり明るくなった5時過ぎに笹ヶ峰に到着、キャンプ場の駐車場に車をとめた。天気の良い日曜日にも関わらず、先着の車はせいぜい十数台といったところ。思ったより閑散としている。


今年は積雪量が多い


 5時55分、駐車場を後にした。朝の冷え込みで小気味良く締まった雪の上をシール登行する。小一時間で黒沢と十二曲がりルートとの分岐点に到着。今のところ沢割れの心配はなさそうなので、黒沢を遡行することにした。沢床に口を開けたマンホールなどは全く見当たらず快適そのもの。順調に高度を上げて振り返れば、頚城の二人の妻が優しく微笑んでくれている。


黒沢入口の柱状節理



黒沢の様子




黒沢を振り返る 高妻、乙妻にご挨拶



黒沢を離れ富士見平へと向かう  登って来た黒沢を振り返る私


 ここでKさんに異変。素晴らしい天気とは裏腹に、腹具合が荒れ模様とのことだ。まだ先が長いが大丈夫だろうか。


富士見平の少し上に登り上げた



山頂にかかったガスは見る見るうちに晴れた


 黒沢岳をトラバースし9時10分、半ば雪に埋もれた高谷池ヒュッテに到着。ここで大休止、トイレに直行したKさんを待つ間に軽く栄養補給をしておく。


雪に半身埋もれた高谷池ヒュッテに到着


 ヒュッテ泊まりの人達も加わり、ここからはまるで繁華街だ。蟻が砂糖山に群がるように大勢が火打山山頂を目指している。登山者は僅かで大半がスキーヤーだ。


続々と山頂へ向かうスキーヤー



ずっと片流れのトラバースは辛い



山頂へもうひと頑張り



澄川は雲海の下



妙高を背に登るスキーヤー



雲海を背に登るKさん


 天狗の庭からは尾根伝いではなく延々とトラバースしていく。ここで今度は私に異変。ずっと山側にある右足の股関節に痛みが出てきたのだ。右足を前に出す度に走る痛みに耐えながら登り続ける。それでも、ほぼ予定通り、スタートから5時間10分で大勢のスキーヤーで賑わう山頂に立った。雪も緩むちょうど良い頃合いだ。


大賑わいの山頂



焼山と北面台地



北アルプスも一望


 大展望を堪能した後はシールを剥がして滑降開始。時刻は11時30分。まずは、陽が当たって程よく雪の緩んだ東面を滑り降りた。文句なしの快適ザラメで意のままにターンが決まってくれるので嬉しい。


澄川に向かって滑降開始


 標高2300m辺りから愈々澄川源頭部へと突入。先の見えない初めてのコース、かつ雲海に突入するスリリングな滑降なので、否が応でもアドレナリンが体中を駆け巡る。と言ってもスピードは禁物。北面はやはりまだハードバーンなので、斑模様の新雪を拾いながら慎重にターンを繋げていく。


Kさん





山頂を振り返る 巨大な雪庇が怖い



雲海に突入



 高度が下がると雪も緩んで随分と滑りやすくなってきた。沢が右左に大きくドッグレッグするようになると谷のV字の切れ込みが深くなる。全層で土砂を巻き込んで雪崩れた生々しいデブリも次から次に登場。Kさんの腹具合もすっかり治まったようだ。そんなデブリランドと化した谷を、切り込み隊長の本領を発揮、どんどんルートを切り開いていく。


谷の両岸が迫ってくるとデブリも



ザラメで快適



次第にデブリランドに



スキーのまま突破



まだ雪はつながっている



上にブロックが残っていないか注意しながら滑降


 沢割れが酷いようであれば標高1200m辺りから右岸を登り大きく高巻きすることも想定していたが、どうやらそんな必要はなさそうだ。Kさんと相談した結果、引き続き沢を下り続けることになった。スノーブリッジがつながっていることを期待しつつ。。。

 しかし世の中そう甘くはなかった。黒菱川との合流地点を前にしてついに沢が割れた。右岸を巻こうと試みるが、取水口に阻まれ断念。急斜面を折り返し二人とも這う這うの体で引き返した。


右岸を行くが、、、



その先には取水口があり降りることができなかった


 仕方なく左岸を進んで行くと、ぱっくりとクレバス状に沢割れしている。渡渉しようにも雪壁が高いので、越えるすべがない。左岸は断念し、幸いまだ残っていたスノーブリッジを使い右岸へ渡り返した。スキーを担ぎ小尾根を乗越そうと、急斜面を登る。ラッキーなことにそこは取水口の巡視路だったので難なく尾根を越えることができた。


左岸は深く割れており前進不可なので、、、



スノーブリッジを渡り右岸へ



右岸に渡り巡視路を伝って小尾根を乗越す


 小尾根を乗越すと、反対側は急な雪の壁となっていた。Kさんはスキーを履いて強硬突破。私はキックステップで降りだしたが、緩み過ぎた雪にステップが崩れて滑落。幸い20mほど滑り落ちただけで怪我もせずに済んだ。疲れて注意力が散漫になっているようだ。気を引き締めねば。


右が私の滑落した痕


 黒菱川は沢割れしておらず、雪伝いに難なく送水管尾根(通称)に取り付くことができた。念のため渡渉に備えて用意しておいた15m分のロープは文字通り無用の長物となった。

 地図上では、澄川の右岸沿い巡視路がつけられている。しかしかなりの急斜面、残雪の状況からしてそう簡単に歩かせてもらえそうにない。Kさんと相談し、いっそ送水管尾根のトップまで登り上げてしまおうということになった。


熊の足跡がそこら中に


 疲れた足と痛む股関節に耐えながら250mの登り返しは辛かった。心理的にも、せっかく登った尾根筋に雪が無かったらどうするかという不安に苛まれる。しかし、一足先に登り上げたKさんからの「雪があった!」の声に一安心。


送水管尾根にようやく登り上げた


 その後は大きな段差越えもあったりしたが、南東に張り出した雪庇のおかげで巨大な貯水槽2基のある標高880mまでほぼ順調に滑り降りることができた。


尾根の上は残雪豊富 右側は雪庇なので近寄らないよう慎重に滑降



妙高山方面を振り返る


 貯水槽からの巡視路は右手の沢に向かっているが、雪付きは薄いし見るからに藪が濃い。よく観察すると第三発電所に水を落とす送水管脇は急斜面ながら無木立で滑り易すそうだ。例によってKさんから滑降開始。続いて私。まるでスキー場の最上級コースと錯覚するようなコースだ。雪も上質ザラメで至極快適。2段の急斜面を滑り降り、さらに雪を繋いで発電所に降り立つことができた。


送水管ゲレンデに飛び込むKさん



このゲレンデは楽しめた


 スリリングな吊り橋を渡って再び登り返し。50mほどだが、疲れた足には堪える。その先暫くはヒールフリーにして林道を滑走。除雪終了地点からは右手の藪を滑るが私は早々観念してシートラの林道歩きに変更。Kさんはかなり先まで雪を繋いでいったようだ。


吊り橋まで行くのも大変



吊り橋を渡る私



山に別れを告げて、、、



最後は長い林道歩きで締め括り


 長い林道歩きを経て、何とかまだ陽のある午後5時20分にゲートに帰着。今回は体力のみならず、ルーファイ力、滑降技術等々、山歩きの総合力が試され、久しぶりに燃えカスも残らない程完全燃焼した11時間30分だった。


後記

 Kさんに笹ヶ峰まで送ってもらい、後はのんびりハンドルを握って長野市内に予約した宿に向かうだけとなった。ところが何度セットし直してもナビが正常に機能しない。GPSに頼り過ぎるのも考え物だななどと思いつつ、長野市内を右往左往してようやく宿に到着。やれやれこれで寛げると、男湯へ直行。あろうことか湯船から出たところで、ツルツルの床に滑ってスッテンコロリン。頭に不細工な瘤をつくってしまった。山を下りた後も、ルーファイやヘルメットが必要だったとは。。。


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