2015年4月26日(日)
山スキーを初めて以来、ずっと憧れていたコースがある。それは笹ヶ峰から火打山を経由して焼山の北面台地から笹倉温泉へと下るロングルート。ルーファイが決して容易では無いし、スタート地点へ、また下山地点からの移動手段に難があり、単独行主体の私には叶わぬ夢と半ば諦めていた。それがひょんなことで思いもかけず実現できた。先日シッケイ沢の帰途、たまたま知り合った群馬のKさんからお誘いを受けたのだ。勿論二つ返事で同行させて頂くことになった。
集合予定は笹倉温泉に午前3時。前夜のうちに到着し車中泊としたかったが、諸々の事情でそうできずかなりの強行軍に。仮眠する間もあらばこそ、午後9時に自宅を出発して関越から上信越自動車道をひた走り、何とか約束時間の30分前に笹倉温泉に着くことができた。
早速待ち構えていたKさんの車に私のスキーやザックを積み込み笹ヶ峰へと向かう。直線距離で測ればせいぜい10Kmちょっとなのに、頚城山塊をぐるりと3/4周することになるので走行距離はその約10倍、2時間がかりの大移動だ。
まだ夜の明けやらぬ笹ヶ峰に着くと、除雪された駐車スペースには車が十数台。どれも霜が降りて人の気配も無いので前日入山組の車らしい。朝食を腹に納め、板にシールを貼るなど出発準備を整えて4時50分に車を後にする。
前日の入山者の車が多数 夏道の登山口はまだ雪の下
軽いアップダウンのあるブナ林の中を歩くのは丁度良いウォーミングアップと眠気覚ましになった。ほどなく黒沢橋に到着。上流を眺めると沢の雪解けはかなり進行している模様だ。今日は先が長いことでもあるし、状況のわからない黒沢を遡行するリスクを避けて、無難な十二曲りを選択する。
ブナ林を行くKさん 黒沢の雪割れ状況
橋を渡って右岸へと渡り山腹のトラバースを開始する。雪は硬く締まっているのでクトーを装着。百戦錬磨のKさんは確実な足取りでしかも早い。急斜面をこともなげにどんどん登っていき、要所要所で私を待っていてくれる。
黒沢橋を渡り、、、 十二曲りへの急斜面を登る
尾根筋に出ると朝日が当たり雪が緩んではいるものの、いかんせん痩せている上に急斜面なので、無理をせずスキーを担ぎつぼ足で行く。斜度の緩んだところでシール登行再開。
尾根筋に出た そろそろシール登行の限界
林間コースはやがて明るく開け、富士見平に到着。ここで二人の登山者が下ってきた。体調不良で引き返すとのことで、確かに一人は見るからに歩くのが辛そうだ。
富士見平へば間もなく 縦縞が凄まじい
火打山山頂付近は藪が出ている
黒沢岳のトラバースに差しかかると日陰なので例によって斜面はカチカチ。それでもトレースがしっかりフラットについていたので歩き易い。途中から夏道をショートカットして真っすぐ高谷池ヒュッテへと向かう。歩きながら火打山を観察すると山頂付近の雪は明らかに少ない。ハイマツの緑が山頂付近とその直下から鍋倉谷へと縦に伸びている。火打山から直接スキーで影火打とのコルへ滑り込むのはどうも無理そうだ。
黒沢岳のトラバース 高谷池ヒュッテ
東側の斜面には、大勢のスキーヤーや登山者が砂糖山に群がる蟻のように点々と蠢いているのが見える。高谷池ヒュッテに到着すると、入れ違いでスキーやボード混成のガイドツアー団体が出発していった。彼等も笹倉温泉に向かうとのことだ。
山頂直下からの藪はかなり下まで伸びている もう一息
鍋倉沢は割れていない様子
小休止後、我々も最後の350mの登りにかかる。周囲の斜面には登頂を済ませたスキーヤーが三々五々滑降してくるので気がまぎれる。シール&クトーで歩き続け、10時15分に火打山山頂に到着した。笹ヶ峰から5時間半なのでほぼ予定通り。
力強く登るKさん 雪の無い山頂に到着
山頂からの北面台地全貌
影火打へは夏道を行くしかない
無風快晴のまたとない山日和。頚城山塊はもとより、北アルプスの峰々の眺めが素晴らしい。気がかりは尾根筋の雪と北面の様子だ。黒沢岳をトラバースしながら観察した通り、山頂付近の雪は異常に少なく藪が完全に露出している。やはり影火打山のコルへは夏道を下るしか無さそうだ。
75m下りやっと雪が繋がった 北面台地に向けてドロップ
眺望を思う存分満喫した後は、いよいよ下山開始。スキーを背にコルへと向かう。標高差75mほど下ったところでようやく雪が繋がった。スキーを履いてさらに少し下り、コルのドロップポイントに立った。ここからは私にとって未知の領域。Kさんのガイドが頼りだ。
Kさんの華麗な滑り 影火打の北面をトラバース気味に滑降
11時ジャストに滑降開始。Kさんの後に続いて私も影火打山の北面を巻くようにして滑り降りる。雪面はまだ十分に緩んではおらず、縦縞の振動で余り快適な滑りとはいかない。この辺り斜度はまだ緩く軽い足慣らしといったところ。その先の大バーンからは傾斜がきつくなっていよいよ本番だ。
縦縞がうるさいがスキーは良く走る 登行中のスキーヤーが見える
高度が下がるにつれ雪面が緩み始めたが、まだ縦縞を蹴散らせるほどではない。暫くすると若いスキーヤー二人がつぼ足で登ってくるのに出会った。北面台地にテント泊したそうだ。
高度2000m辺りで支尾根に上がり右手の沢に転戦する。40度はあろうかという急斜面で、ここが一番緊張したところ。Kさんはジャンプターンの連続で華麗に急斜面を降りて行く。意を決して私も続くが転ばずに降りて行くのが精一杯。50mほど降りたところで、いきなり目の前に現れた小クラックにとっさに対処できずに転倒。反射的にウィペットのピックを突きさして滑落は免れた。
右手の急傾斜の沢に転進 ジャンプターンで降りるKさん
どんどん落ちる
私の暴走気味の滑り
この急斜面を過ぎた後は台地状の緩斜面となり、ようやく景色を楽しむ余裕が出て来た。どなたかの記録で見た「天国への階段」とは言い得て妙。正に素晴らしい自然の造形だ。
台地を快適に滑走
火打山を振り返る
眺望に感激ばかりはしていられない。ご多分にもれず試練もある。溶岩台地に走る深い溝を越えるのにひと苦労させられた。特に賽の河原のそれは、対岸の雪が剥げ落ちていて予定地点は通過不可。右岸を少し下ったところで辛うじて繋がっている急斜面を攀じ登ってようやく対岸に渡ることができた。
賽ノ河原越えにひと苦労 つぼ足で急斜面を登る私
再び緩斜面をだらだらと下っていくが、次第に雪が腐りスキーが滑らない。アマナ平を過ぎた後は、完全にストップスノーで重力任せはもはや限界、上半身が頼りとなった。Kさんはヒールをフリーにしてクロカンスタイルでどんどん先へ行くが、私はひたすらストックを漕ぎまくって大汗をかく。
雪の消えかかった林道のショートカットも大変 無事笹倉温泉に到着
極めつけは九十九折れ林道だ。笹倉温泉は目の前というのに、積もった雪が片流れの急斜面を形成、谷側は落ちればただでは済まない崖になっている。かくして最後の最後まで神経と、脚&腕の筋力を使いきって笹倉温泉に帰り着いた。時刻は14時ちょうど。素晴らしい景色と引き換えにアトラクション満載の北面台地だった。
通常であればこれで目出度く幕引きとなる山旅はまだ終わらない。下山後、焼山温泉で汗を流し、今度は私の車でKさんの車を回収するため笹ヶ峰へと向かうのだった。
今回の教訓の一つは、GPSに過去のトラックを事前に引いておいても雪の状態次第では役に立たない。結局は臨機応変のルーファイ力が試されるということだ。同行のKさんには正に負んぶにだっこで大感謝。綿密な計画に始まって実行段階の絶妙のガイドまで、何から何までお世話になり、本当に有難うございました。
行動時間 9時間10分+4時間のドライブ
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