平ヶ岳  新潟県・群馬県 2141m   百名山
 
 

2010617

 本州の梅雨入り宣言がなされたので、しばらく山はお休みと思っていた。ところが、いきなり梅雨の中休み、スポットで17日の新潟県地方は晴れとの予報が出たので、先週の空木岳に引き続いてロングコースの平ヶ岳にチャレンジすることにした。通いなれた深夜の関越道をひた走り、朝6時前に平が岳登山口に到着。それにしても豪雪地帯の真っ只中を通る352号線(樹海ライン)は何という国道だろうか。1年の2/3は雪に閉ざされていて、なおかつ6月中旬になっても奥只見湖沿いにはそこかしこに巨大な雪渓が残っている。雪渓は内部から融け出しているせいか、トンネルのようになっていて、ぽっかりと開いた口から雪解け水が流れ出して道路を横切っている。道路が川になっていることに加えて見通しの悪い急カーブの連続と細い幅員で運転だけでも相当に消耗する。それに今回は20kmを越える山歩き、予想通りハードな日帰り山行になった。

 今日のポイントはなんと言っても暑さ対策である。予報によれば最高気温が30度を越す暑さになるらしい。奮発して買ったばかりの吸湿、速乾の半袖シャツにズボンも最薄なものにした。用意した水は2リットル。日焼け止めのクリームもしっかり塗った。GPSをスイッチオンにして550分に出発。歩き出してしばらくは林道を行く。平が岳まで10kmの道標を過ぎると、すぐに尾根に取り付いて急登が始まる。


ネットでお馴染み、やせ尾根の登山道


 いつも歩き始めだけは元気なのだが、今日はどうしたことか、スタートから全く調子が出ない。暑さのせいか、それとも昨日の飲みすぎが祟ったのか、鉛を引きずるように足が重いし、汗が滝のように滴る。短い夏を精一杯生きようとする蝉の鳴き声が凄まじく、不調の身には騒音としか聞こえない。道は次第に痩せ尾根の上を行くようになるが、胸を突く急坂である。高度が上がるにつれて虫達の鳴き声が遠ざかり、代わって耳に心地よい鶯の鳴き声になった。大気は水蒸気をたっぷり含んで春霞状態、見晴らしはあまり良くないが、燧が岳の双耳峰だけは常に目の前にあって癒してくれる。


燧岳が常に視野にある



平ヶ岳ははるか彼方、見えない方が幸せかも


 痩せ尾根の急登ではたっぷりと汗をかかされたので下台倉山で水を補給、500mlのペットボトルがあっという間に空になる。ここからは軽いアップダウンを繰り返しながら距離を稼ぐ区間になる。平ヶ岳が時折遠望されるが、山容ははるか彼方、ともかく「遠い」としか言いようがない。台倉山を過ぎた辺りから残雪が現れてきた。踏み抜きに注意しながら歩くが、予告無しにいきなりズボッとはまるので防ぎきれない。一度は踏み抜いた拍子に大きくバランスを崩して転倒する始末。コメツガの原生林のなかは雪が深く、何度かルートを見失う。行きつ戻りつしながらマーキングや木道を見つけて軌道修正を繰り返す。この辺り日当たりが良くて雪が融けたところは凄まじい泥濘である。踏み抜き恐怖の残雪と泥濘が交互に現れる。ズボッ、グチャ、ズボッ、グチャである。



雪はたくさん残っていて時々ルートを見失う


 冷たい水が欲しくなるが、どの水場も雪の下。生ぬるい持参の水を補給し、体調の芳しくない体に鞭打って池の岳への最後の急坂を登る。池の岳の頂上は広々とした湿原になっていてミニ尾瀬といった感じ。ここからは一転して先ほどの急登が嘘のような木道歩きとなる。一旦ゆるく下って平ヶ岳の樹林帯に入ると再び雪道となりルートがわかり辛くなる。ここで下山してくる登山者二人とすれ違った。聞けば一人は今朝3時、もう一人は4時に出発したとのこと。やはりルートファインディングには苦戦したらしい。だだっ広い山頂には1020分に到着。展望スポットが変わると景色もガラッと変わってしまう。ここから眺める山々のうち幾つかは山頂を極めたのに確信を持って同定できないのが悔しい。北方面にはまだ豊富な雪を頂いた荒沢岳や越後駒ヶ岳が遠望できているはずが、どれがどれやら。情けないが確信を持てたのは燧ケ岳、至仏山、会津駒ヶ岳、日光白根山くらいか。


池ノ岳の頂上



平ヶ岳への木道



三角点はどこにあってもおかしくないフラットな頂上



頂上の板場、テント族はここで幕営?



頂上の雪田から越後駒ケ岳と中岳(たぶん)を望む



 昼食を済ませ、独り占めには十分すぎるスペースのある山頂を後にした。先行者のトレースを追って下っていくとどうもおかしい。このままでは平ヶ岳沢の方へ下ってしまう。間違いに気がついたと見えてトレースも右方向に進路修正している。トレースは当てにならないので歩き易そうなところを適当に選んで行くが、結局しばらく藪漕ぎを強いられることになってしまった。木道に戻ってしばらく下ると玉子石へのシュートカットの道標があったのでそちらへ進む。しかし下っていくうちに木道は雪田の中に埋もれてしまい、トレースらしきものも見当たらない。これが山頂を目指しているのであれば必死にルートファインディングを行うが、玉子石にはそれほど未練は無いのであっさりと断念、来た道を引き返した。再び池の岳へ登り返し、ここから長い復路の旅が始まる。急登を逆に辿れば当然急下降である。崩れた花崗岩の滑りやすい急斜面を慎重に下る。太陽が真上から照りつけ、エネルギー消費の少ない下りでも汗が額から流れ落ちる。樹林帯に入ると今度は再びズボッ、グチャである。途中一回休んで4本目の500mlボトルの水を飲み干した以外は、ひたすら下り続けた。台倉山と下台倉山で先ほどすれ違った方々に追いついたので先に進ませてもらった。痩せ尾根の急坂は登りより下りの方が圧倒的に迫力がある。要所要所に設置されたロープに縋りながら慎重に下る。次第に沢音が迫って来ると林道まではあと一息、途中の林道を横切る沢水で泥だらけの体を拭いて1430分に登山口に帰着した。




疲れを癒してくれた花々




 ネットでチェックしていると、平が岳にあまり良いイメージを持たない方も多いようだ。トイレの問題、中ノ岐からの特権的短縮路の話等々。しかし私としては肯定的な評価を差し上げたい。6月の平日というタイミングで天候にも恵まれたこともあろうが、変化のあるコースと素晴らしい景観を楽しむことが出来て素直によかったと思う。但しこの長いハードなコースをもう一度やるかと聞かれれば、やはりノーサンキューであろうが。


行動時間        8時間40
実歩行時間       8時間
歩行距離        22.5Km
参考コースタイム 12時間55分

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