日向山  1660m 山梨県      
 

2019年8月25日(日)

 関東近郊の初級レベルの沢でどうしても歩いておきたかったのが、尾白川渓谷の鞍掛沢。美しい花崗岩と深い緑の釜を持つ癒しの沢。しかも懐の深い南アルプスの沢の中にあって唯一日帰り圏内にあるのだ。

 ところで沢を歩いていつも疑問に思うことがある。それは、沢によって釜や渕の色合いが微妙に異なっていること。特に今回訪れた鞍掛沢は、「時には黄金のように輝く緑」が印象的で、赤木沢などで見たやや青みが勝った色合いの釜との違いが際立っていた。建設省土木研究所によれば、川の色を決定づけるのは以下の要素らしい。


◇山や木の映り込み
◇川に含まれるイオン等物質の色
◇岩石、砂、泥の色
◇川底の色

 おそらく、この地域特有の花崗岩や南アルプス天然水固有の含有成分が青みを抑え、美しい「緑」を演出しているのだろう。森林限界に近い赤木沢とは異なり、水面に迫る鬱蒼とした木々の緑も一役買っているに違いない。


昨年7月赤木沢にて 



今回鞍掛沢にて 赤木沢と同じカメラで撮影


 話を元に戻す。今回ツアーの起点となるのは日向山登山口の矢立石。まだ夜の明けやらぬ午前4時30分、決して広いとは言えない駐車スペースに車をとめた。間もなく相棒のKさんも到着。そそくさと朝食を済ませ、沢装備を身に着ける。今回の足回りはラバーソールのモンベル・サワ―クライマー。いつものフェルトソールとの使用感の違いを比較してみるのも今回の目的の一つだ。

 5時15分、スタート。荒廃気味の林道を進む。Kさんと四方山話をしながら歩くので退屈な林道歩きも苦にならない。林道は大規模な崩落もあったりして殆どその名に値しない状況になっている。1時間15分でそんな元林道の終点、尾白川への下降点に着いた。固定ロープに縋りながら急な崖を70mほど急降下すると、穏やかな流れの河原に出た。ここが標高1320mの入渓ポイントだ。


帰路はここに下山する予定



林道崩落現場 踏み跡はしっかりついている



錦滝 この手前にある雁ヶ原への登山道は通行禁止



トンネルを三つ抜けると、、、



激下りの下降点に到着



尾白川に入渓


 暫くは神秘的な緑色の釜やナメ床に癒されながら上流へと進んで行くと、ネットの遡行記録でお馴染み、女夫滝が現れた。左のスラブから何とか登れそうだが、長年水流に磨かれた花崗岩はツルツルでフリクションに自信が無い。のっけからドボンはしたくないので、ここは無理せず右岸の巻き道を辿った。





女夫滝 右岸を巻いた



女夫滝上部のプール



ナメを行くKさん



 その先で尾白川は二俣に分岐する。左に向かえば尾白川本谷、目的の鞍掛沢は右だ。水量が減少した分、迫力の点では見劣りはするものの、緑の釜を持つ渓谷美に変わりはない。


左側が尾白川本谷 右側が鞍掛沢



軽快な足取りのKさん




ワイヤーが放置されていた







高巻きするKさん


 鞍掛沢に入渓してしばらく遡行を続けていると、前方に先行者の姿が垣間見えた。若い男女の混成パーティで、聞けば我々同様、鞍掛沢から乗越沢を遡行するとのこと。さらにその先に進むと、別のパーティがロープを出して滝を高巻いていた。敢えて悪そうな壁に取りついているのはトレーニング目的なのだろか。

 その滝は巻かずに、まずKさんが挑戦。上部で行き詰まりギブアップ。私もトライしてみたが、適当なホールドが見当たらず、同じ結果に。ここは潔く諦めて左岸から大きく高巻いてクリアした。


先行パーティにキャッチアップ



ギャラリーが見ているので緊張



ここは左岸を高巻いた




別パーティにキャッチアップ



簡単なようで難しかった滝に挑むKさん



同私



しばらく穏やかな渓相



深い釜は泳がず高巻く


 やがて乗越沢との出合に到着。合流する沢が滝になっており、威圧感があるが、案ずるほどでもなかった。右上から落ちる水線沿いに登り、途中から左に方向転換し難なく突破できた。


出合いの滝を登って乗越沢に入渓



結構高度感あり


 乗越沢に入ると途端に水量が少なくなった。源頭が近くなり、一段と斜度も増してきている。小滝は直登、大きなナメ滝等は躊躇なく高巻いて行く。


乗越沢に入ると水量は激減



倒木を利用して高巻くKさん



この滝も高巻く



この滝は越えた


 この辺りから難敵が登場。恐怖の薊地獄だ。Kさんと二人して「イテテテ」を連発しながら、イバラの道を掻き分け上流を目指していく。幸い源頭部も終盤となり、水が涸れるといつの間にか薊も姿を消してくれた。薊に代わって現れた笹藪を漕ぎながら薄い踏み跡を追っていくと、次第に斜度が緩くなり鞍掛山と駒岩との鞍部に出た。


薊のチクチク地獄に嵌る



やっと地獄を抜けた



最後は笹原を急登し、、、



鞍部に登り上げた


 時刻は11時。通り抜ける風が心地よい。眼下には北杜市が一望のもとにある。ここで大休止。沢装備を解き帰路に備えてカロリー補給もしておく。ここからは一般登山道。急坂を30分ほど登ると標高2020mの駒岩ピークに着いた。今回到達した標高最高ポイントだ。この先400mを一気に下降するが、良く整備された登山道なので苦にならない。


駒岩山頂



垣間見える甲斐駒 摩利支天が見えないのでまるで見知らぬ山



白さ際立つ日向山


 日向山は花崗岩の白さが際立つ特異な山容を持つ山。甲斐駒ヶ岳の絶好の展望台でもある。矢立岩から1時間半で登頂できるため人気のハイキングコースらしい。蟻地獄のような白砂の斜面を登り上げて山頂に立つと、そこは大勢の老若男女のハイカーで賑わっていた。景色をカメラと網膜に保存したら後は下山するだけ。


蟻地獄を登れば、、、



日向山山頂



八ヶ岳と、、、



甲斐駒に別れを告げて下山する


 日向山への登山道はハイウェイのような整備の行き届いた登山道だ。午後2時丁度に矢立岩に帰着。今回は林道や登山道歩きが長く、沢を遡行したのは実質4時間足らず。それでも尾白川渓谷の美しさを満喫するには十分だった。

 最後に今回の目的の一つ、ラバーV,S,フェルトの評価だが、サワークライマーのアクアクリッパーは殆どの行程において頗る快適だった。フェルトはヌメりや苔には強いが、実際の沢歩きでよくあるシーンは、乾いたスラブやナメ床、さらに高巻きの草付きといった、どちらかと言うとフェルトの苦手領域が多い。滝の乾いたスラブや高巻きの草付きでスリップしたら大怪我や命に関わるが、ヌメったナメでスリップしてもせいぜい青痣かドボンで済む。登攀主体の沢登りをするつもりがない人でも、ラバーソールを選択する価値は十分ありそうだ。

行動時間  8時間40分


Map
 Track Weather  Map 
  トップ                              山歩き 
inserted by FC2 system