針ノ木岳BC  富山・長野県 2821m         二百名山
      

2012513(日)

 前回乗鞍岳では滑落して敢え無く敗退してしまった。しかし、不完全燃焼のまま春山シーズンを終わらせるわけにはいかない。本州付近が高気圧に覆われ、確実な好天が期待できるタイミングを狙って針ノ木岳を目指すことにした。今回の主目的は久々の二百名山ゲット、スキーは移動手段と割り切る。

 いつものように深夜自宅を出発、午前
6時前に扇沢駅に到着した。上段の駐車場は有料になっていたので、回れ右して下段の無料駐車場に行く。有料はガラガラにも関わらず、無料の方は殆ど駐車スペースが無いほど車で溢れていた。

 6
時過ぎにスキーを担いでハイクアップ開始。針ノ木岳登山口からすぐに雪が出てきたが、踏み跡などで凸凹の上、舗装道路で寸断されておりシール登行は無理。ザックにAの字形にくくりつけて行く。


            無料駐車場からスタート                   登山口から雪があるが黒くてわかりずらい        



左から鳴沢岳から針ノ木岳にかけての峰々


 青空の下で鳴沢岳から針ノ木岳にかけての白銀の峰々が眩しい。次第に雪で覆われ始めた篭沢沿いを登って行くと大きな堰堤が現れた。高巻きして林の中に入るが枝がスキーに絡んで煩いことこの上ない。スキーのトレースを追いながら歩き続けると、ちょうど
1時間で大沢小屋が対岸に見える所まで来た。左手の大沢には十数人が見える。どうやら雪上訓練中らしい。


       スキーのトレースが出てきた              堰堤の先に大沢小屋がある


               左岸を行く人達                          大沢小屋方面を振り返る


 篭川の水流が雪の下に隠れた頃、沢筋は半ば融けかかったデブリだらけになった。凸凹の上、縦筋があったりして、とてもスキーにはなりそうもない。さらに進んで正面に針ノ木岳が展望できるようになると雪面は大分落ち着いてきた。シール歩行に切り替えようか迷ったが、ふと乗鞍岳での滑落シーンが頭をよぎったのでつぼ足を継続。我ながらかなりの軟弱ぶり。


          前を行くパーティに追いつく                         沢筋はデブリで荒れている


 前を行くつぼ足、シールの混成パーティをやっとの思いで追い抜くと、今度は別の単独氏に軽く抜き去られてしまった。それも鼻歌交じりで。山スキー界にはとんでも無い御仁がいるものだ。

 斜度が一段と増してきた頃、上からラーックの声。見上げると一抱えもある石が転がり落ちて来る。とっさに右岸の方に走って避けると、目の前をドスンドスンと通り過ぎた石は、先ほど追い抜いたパーティを直撃。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人達。幸い大きな雪塊にぶつかって止まったので事なきを得た。やれやれと胸を撫で下ろす。


                落石はこの辺り                            後ろを振り返る


 
2000m辺りでアイゼンを装着。そこから更に200mほど標高を上げて、マヤクボ沢と針ノ木峠への分岐点に到着した。当初の予定はマヤクボ沢から針ノ木岳とスバリ岳との鞍部に上り、スキーをデポしてつぼ足で針ノ木岳を往復しようというもの。しかし、先行する3人は、針ノ木岳正面のカールを最短コースで直進している。これを見て私もルート変更することにした。後述のように、この判断は大正解だった。


マヤクボ沢との出合いはもうすぐ



           針ノ木岳へ直登して行く                          かなりの斜度がありそう


 この辺りから傾斜がさらにきつくなってきた。先ほど私を追い抜いた御仁は、シールからつぼ足に切り替えて急斜面を直登している。私も後を追ってみたが、足場のステップが高すぎて合わない。アイゼンが良く利くのでノートラックの雪面をジグザグに登行して行く。


     前を行く単独はハイ松帯を登っている           私は斜面をトラバース気味に登る


               こんな急斜面を                           シールで頑張っている人もいる


 スキーの重荷がズッシリと肩に堪え、度々立ち止まっては一息入れる。ガス欠と暑さにもやられ、ヘロヘロになってようやく稜線に出た。ここで立山連峰方面の展望が一気に開けたが、景色は後回しにして一途に山頂を目指す。斜度
60度以上はあろうかという雪壁が最後の難関。ピッケルを使うほどではないが、四肢を駆使して登り終えると山頂は目の前だ。

 ちょうど二人組が、山頂直下からエントリーするところだった。ドロップポイントは斜度
45度は軽くありそうで、下手くその私にはちょっと無理かもと思わず怯んでしまう。

 
1130分に針ノ木岳山頂に到着。132座目の二百名山だ。ピーカン、無風の最高の天気の下、ランチを取りながら大パノラマを心行くまで楽しんだ。黒部湖の背後には立山連峰と剣岳。黒々した槍の穂先、富士山や南アルプスまで遠望できる。いつも霞がかってしまう春山でこれほどクリアな視界が得られたのは初めてかも知れない。


           急な雪壁を越して行く                               山頂までもうすぐ



やっと山頂に立った



立山連峰と剣岳


後立山連峰をバックにスバリ岳



蓮華岳



ここを滑り降りるのだ


 さて景色を楽しんだ後は帰りの心配だ。滑降コースをどうするか。先ほど垣間見た山頂直下からのドロップには自信が無いので、当初予定していたマヤクボの鞍部までスキーを背負って下ることにする。ところがいざ下り始めると稜線の岩場は浮石だらけ。触れば動く石ばかりで危なくて仕方ない。ちょうど下から登って来るスキーヤーがいるが、彼に落石を見舞いそうでこのコースは断念。左手の雪渓から降りようと試みるが、かなりの急斜面、かつ雪の状態も良く無さそうなのでこれまた断念。

 結局すごすごと山頂へと戻った。先ほど下に見えていたスキーヤーも賢明な判断をしたようで、登行を諦め鞍部へ向けて引き返して行った。もしマヤクボ沢を詰めていたら私も彼同様、山頂を踏めなかったに違い無い。

 こうなれば覚悟を決めて山頂からドロップすることにしよう。不思議なことに、スキーを履いてからドロップポイントに立つと何とかいけそうな気がしてきた。思い切って飛び込んでみた。急斜面だが雪質が良いので意外に快適。ターンする度にスラフがザーッと流れ、追いかけて来る。格好はともかく転ばないようにスピードを抑え、カールの底近くまで滑り降た。途中で露出した岩の間をすり抜けてマヤクボ沢側に回った。


            黒い岩と岩の間からドロップ                       マヤクボ側に回りこむ



お楽しみはあっという間


 高度が下がって雪質は重くなってきたが、適度な斜度があるので快適。これぞ山スキーの醍醐味というのかな、重い板を山頂まで担ぎあげた甲斐があったと言うもの。山頂から大沢小屋まで標高差
1100m30分もかからずに滑り降りてしまった。


             快適に滑降を続け                     雪面がだいぶ荒れてきてそろそろ終了


 右岸のトレースを進めば、スキーを履いたまま更に標高を落とせるが、大沢小屋を覗いておきたかったので、ここでスキーは打ち止めにして再び背負って歩く。小屋では管理人さんとしばし立ち話し。その後は、のんびりと川沿いを下り続けて駐車場へと戻った。

 今回はスキーを背に
1400mの高度差を登行して、二百名山ゲットの目的を達成、それに針ノ木岳頂上からの滑降というおまけが付いて完全燃焼、大満足の一日だった。苦労やリスクも大きいが、山スキーの醍醐味を存分に味わって、益々のめり込んでしまいそうな予感。。。


行動時間 7時間45

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