白馬鑓ヶ岳BC    2903m 長野・富山県        
      


2021年5月15日(土)

 緊急事態宣言を受けて山歩きは先月の中ノ岳を最後に自粛。しかし危惧していた通りの展開で案の定というべきか、宣言は延長となった。その一方で季節はどんどん進み、山の雪はやせ細り雪渓は縦縞だらけ。このままでは恒例の「板納め」は見送りになりそうだ。それにポンコツ化が加速する我が身を顧みると来シーズンに「板始め」が出来る保証はどこにもない。

 そんな焦りにも似た気持ちに押され今回だけは自粛のタガを緩め、掉尾を飾らせてもらうことにした。行き帰りは公共交通機関を一切使わず、宿泊、温泉や外食も封印、立ち寄り先もコンビニだけと、感染対策を徹底することは言うまでもない。

 今シーズン最後に相応しい目的地としては、何といっても山スキーの聖地、北アルプス。白馬大雪渓から杓子岳、白馬鑓ヶ岳へと縦走、鑓温泉経由、猿倉へ下山するという思い出の詰まった周回コースだ。ちなみに杓子岳は、初めて白馬大雪渓を歩いた際に眺め、その圧巻の迫力に魅せられ拙HPの表紙のモデルにもなった。また白鑓は5年前のGWに天候急変で遭難しかけた、忘れようにも忘れられない山だ。

 そんな山旅に同行頂くのは良き相棒でスキーの師でもあるKさん。何と前回中ノ岳で紛失した私のブーツを後日再訪して捜索、無事回収してくれた大恩人でもあるのだ。

 午前2時過ぎに猿倉に集合。早速身支度を整え、2時45分、スキーを背にして駐車場を後にする。夜明けが早くなったとはいえ、この時間帯は全くの闇夜。ヘッデンの灯りを頼りに砂防林道を緩やかに登っていく。道路脇の残雪は次第に増え始め、長走沢辺りから雪が完全に繋がったが、シートラを継続。白馬尻まで歩いたところでシール登高に切り替えた。



シール登高スタートする私


 歩き易かったのは最初の内だけ。夜明けとともに目にしたのは沢を埋め尽くす圧巻のデブリ地獄。とても滑走などできる状況ではなさそうだ。前日までのシュプールは沢床のデブリを回避するため右岸も高見を延々とトラバースしていた。急斜面だけに決して楽な滑走ではなかったろう。


久々の大雪渓 シール登高開始 遠目にはきれいに見えたが、、、



近寄るとデブリランドだった



シュプールはデブリを避けて右岸をトラバース



デブリを避けながらハイクアップするKさん



同上



大小の雪塊に阻まれ苦戦する私


 このデブリのおかげでハイクアップもスローダウン。少しでもフラットな雪面を探し求めて右往左往せねばならず中々捗らない。葱平を前にして愈々斜度がきつくなったところで再びシートラへ。アイゼンを装着して歩き出すが、気温の上昇で雪面はズブズブになっており踏み抜き多発。重雪の脛ラッセルで早くも汗まみれだ。


足元が気になり景色どころではない私



稜線間近 踏み抜き多し



急登が一段落 再びシールで登高



稜線直下のちょっといやらしいトラバース 道つくりに励むKさん


 かくして6時間15分を要してようやく杓子岳の鞍部へと登り上げた。ここからは先はお気楽な稜線漫歩、、、とは中々いかない。大雪渓でかなり消耗させられた上、足元は歩き辛い兼用靴。バランスを崩さずに歩くのが精一杯だ。それでも涼風が吹き抜ける稜線は心地よい。それに谷筋には無い大展望が拝めるのが救い。雷鳥のカップルにも癒され、また剣岳を始め毛勝三山の雄姿や、その昔滑降した清水谷を懐かしく眺めながら白鑓を目指したのだった。


鞍部の稜線に出ると毛勝三山がお出迎え



白鑓も



コルからは夏道をシートラ



杓子岳の山頂はパス トラバース道を行く



スキーを付けたり外したり Kさん



同 私



清水谷を滑降した単独スキーヤーがハイペースで登ってくる



振り返るとこの景色 白馬岳と旭岳



杓子沢のコルから杓子沢源頭部を覗き込む 面ツルだがシュプール無し



雷鳥をじっくり観察するKさん



山頂までもう一息



虹がウエルカム



もうヘロヘロの私


 11時30分、白馬鑓ヶ岳の頂に到着。山頂には鑓温泉から登ってきたスキーヤーの姿も見えた。ここまで8時間50分と予定を大幅にオーバーしているので、記念写真を撮ったら速攻で下山開始。山頂から鑓沢源頭部に滑り込んだ。



天狗の頭 大出原から登ってくる登山者が点々と見える



中央ルンゼを覗き込むKさん



山頂からドロップする私



同 私


 昇温で雪の状態は余り芳しくない。Kさんの細板は雪面に沈み込み、斜面をスキーカットするとそこから湿雪がデロデロとスラフになって流れ落ちていった。状態の良さそうなスロープを選んで写真を撮り合いながら高度を下げていく。滑った後には雪ダルマが追いかけてくるが、幸い脅威になるほどには大きく成長しない。


スラフの跡を滑るKさん



同上



同上





そろそろ雲海に飲み込まれそう



重い雪を蹴散らして滑走するKさん



足を取られながら必死に踏ん張る私



小日向のコルが見えてきた 登り返しが大変そう、、、



鑓温泉スキー場を滑走するKさん



同 私


 雲海に突入すると視界が悪くなったがそれも一時のこと、すぐに晴れて稜線や山頂が顔を覗かせてくれた。鑓温泉に滑り込んだところで大休止。Kさんは貸し切り状態の露天風呂に浸かり気持ちよさそうに汗を流していたが、私は自粛しパス。温泉の入り口付近は、大勢の老若男女スキーヤーで結構「密」な状況になっていたのが少々気掛かり。もっとも小日向のコル越えというハードルがあるので健常者でなければ、ここまで来ることは適わないだろう。


ガスが晴れるとこの景色


 そんな鑓温泉を後にしてひと滑りすると小日向コルへの標高差200mの登り返しが待っている。ここはスローペースで小一時間かけてクリヤー。コルに登り上げると愈々最後の滑降だ。左にトラバース気味にコースをとって長走沢を下る。散乱する木々や地雷を踏まないよう慎重に下り、スキーを外すことなく砂防林道に滑り降りることが出来た。ここから板を背負い、30分ほどのぶらぶら歩きで猿倉に帰着した。


小日向のコルへと喘ぎ登る私



長走沢へと滑り込む



長走沢上部の様子



砂防林道まで滑り降りてほぼ終了


 今回は山中13時間に、往復600Kmの運転時間も加えるとほぼ24時間の山旅となった。こんなハードなことをまだやれる気力体力が残っていたということは素直に嬉しい。しかし、その一方で歳も歳なのでいい加減卒業したらという内なる声も次第にトーンアップ。残念ながら大雪渓や白鑓はこれで最後ということになるかも知れない。ともあれコロナ禍の下、今回のように日帰りの呪縛に囚われることなく宿をとってゆっくり山歩きを楽しめる日が一日も早く戻ってくれることを願わずにはいられない。


行動時間  12時間55分


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