白馬乗鞍岳BC  長野県 2207m    
  

2012年2月19日

 バックカントリー第二弾は、先日の根子岳と同様、BC定番コースとも言える白馬乗鞍岳、通称ハクノリにチャレンジすることにした。正直私にはちょっと荷が重いかなと逡巡するところがあった。力仕事の登りはともかく、下りでのルートファインディングやスキーの滑降技術の点で全く自信が持てなかったからだ。しかし、これまでもそうであるように一度やろうと決めると頭に血が登って、歯止めが利かなくなってしまうのだ。そんな猪突猛進の私でも、どこか頭の片隅に冷静さが残されていたようで、@好天が当日、出来れば翌日まで持続すること、A出来るだけ多くのBC愛好者が入山するタイミングであること、B無理があればすぐに引き返すこと、等の条件を自らに課したのだった。

 毎日、週間天気図をチェックして冬型気圧配置が緩むタイミングを見計らい、上の@、Aの条件を満たす2月19日(日曜日)に登山することに決めた。時間的制約の厳しい現役サラリーマン諸氏には申し訳ないが、還暦を過ぎて体力や知力など持てるリソースがどんどん失われているなかで、自由裁量できる「時間」だけが私のとって唯一の見方なのだ。

 前日18日はトレーニングがてら小雪が舞うなか、八方のゲレンデで遊んだ。翌19日早朝、目を覚ましてすぐに宿の窓から外を眺めると、すっきりとした青空に白銀の峰々がピンクに輝いているではないか。慌ただしく朝食を済ませ、車に飛び乗って栂池高原へと向かう。

 ゴンドラ駅周辺は、日曜日だけあって多くのスキーヤーやボーダーで賑わっていた。早速チケットを買い求め、ゴンドラ、つが第二ペアリフトと乗り継ぐ。ここが機械に頼って楽できる最高到達点だ。素晴らしい景色を一しきり楽しんだ後は、スキーを履いて出発点へと向かう。稼働していない第一ペアリフトのコースを横切り、栂池山荘への林道へと滑り込んだ。


つが第二リフト降り場からのハクノリ(正面)


 ここには多くのツアー客がいて出発の準備に余念が無い。スノーシューを履く人、スキー板にシールを貼る人、中には外国人ガイドから説明を受けているBC団体ツアーの人達もいた。遅れまじと私も板にシールを貼ってハイクアップ開始。林道には轍状のしっかりしたトレースがついていた。しばらく歩いたところでスノーシューを履いた中高年の団体ツアーに追いついた。単線軌道なので追い越すには轍から外れるしかない。先行者のラッセルの苦労をほんの少し味わいつつ先に行かせてもらった。


             深い轍のなかを歩く                            天気は上々、気分も



栂池平を望む


 成城大学小屋を左手に見た辺りから、トレースは林道を離れて天狗原に向かってまっしぐらに登って行く。人様の作った軌道の上を労せず歩かせてもらって申し訳ないが、まだ見習い中の身、今日のところは許してもらおう。高みに向かって一直線に伸びるトレースは、勾配がきつくなってもおかまいなしだ。いよいよ急傾斜な個所になると、情けないことにシールが利かず、どうしてもずり落ちてしまう。結局轍から外れてジグザグに登る羽目になった。もたもたしている私に追いついてきたベテラン二人組は、涼しい顔で轍上をすいすいと歩いている。帰宅後ネットで調べて見ると前後の抑えが無い「逆反り」のローカースキーでは、シール歩行は不利ではないかとヘボを擁護してくれる記述があった。しかし、本当のところはやはり経験の差なのだろう。要は修行が足りないのだ。


             先行する二人組                              天狗原めざして登る


 スキーを背負ってワカンで歩いている人もいた。一歩一歩がかなり沈み込むので轍が穴だらけだ。この御仁の後は、スキーの先端が穴に引っかかって歩き難いことこの上ない。申し訳ないが先に進ませてもらった。休憩中の数パーティを尻目に私のいつもの登山スタイルで休まずに歩く。次第に上り坂も緩くなる。広々した天狗原に到着だ。

 ここから、いよいよ白馬乗鞍の真っ白なスロープへと向かって登って行く。前を見れば、先行するは3人。単独氏がラッセルし、それを先ほどの二人組が追っている。3人ともペースは信じられないほど速く、どんどん引き離されてしまう。高度が上るにつれ、雪面はかなり締ってきた。風も強くシュカブラには所々ハイ松や岩肌が露出している。勾配が緩やかになると広々した頂きだ。大きなケルンと山頂標識は少し先にある。歩き始めから2時間55分、ようやく念願の冬のハクノリの山頂に立った。


ハクノリをめざす



前には二人組、その先には単独氏がぐいぐい登っている



              強風で岩が露出した山頂                       ケルンの背後は小蓮華岳


 ケルンを風除けにして大休止。水分補給をしながら、素晴らしい眺めを堪能する。正面には真っ白な三角錐と化した小蓮華岳、その右方向には雪倉岳がガスの合間から見え隠れしている。穏やかな天候に恵まれたとは言え、流石に2000mを越える山だ。時折雪のつぶてを交えた強い風が吹きつけてくるので余り長居はしていられない。シールを剥がして、ケルンを後にした。

 そしていよいよいよ滑降の時。目の前には白銀の大斜面、果してうまく滑れるだろうか。初めてのパウダースノーに期待半分、不安半分だ。運を天に任せ、思い切り斜面に飛び込む。整地されたゲレンデでは決して味わえない全く異質な感覚だ。初めの数ターンを無我夢中でこなしたところで、バランスを崩して思いっきり転倒。これで板が一本外れてしまった。深雪にもがきながら何とか身を起こして辺りを見渡すが、板は見当たらない。埋もれてしまったのかなと転倒地点に戻ろうとすると、視界の片隅に何やら動くものが。何と板がするするっと滑り落ちて行くではないか。パウダー上ではストッパーは利かないらしい。見失えば大枚投じた投資がパーになってしまう。残ったもう一本の上に腰かけ、橇にして必死に落ちる板を追いかけた。何とか止まってくれた板に追いつき、やれやれと胸を撫で下ろす。


シュプールを振り返る、へたくそ、、、


 その後も危なっかしくも、勝手に浮いてくれる板の性能に助けられて何とか天狗原に降り立つことが出来た。うまく滑れている間は爽快なのだが、一度バランスが崩れると、圧雪されたゲレンデとは違ってエッジングで体勢をコントロールできず、簡単にこけてしまう。3度目の大転倒では急ブレーキと言うか、板の先端が突き刺さったような感じで、思いっきり前のめりになって体が放り出された。この時左足に激痛が。つい最近ジムでのランニングで痛めた左足の脹脛を再び痛めてしまった。

 痛む足を庇いながら、木々の間をゆっくり滑り降りて往路の林道に降り立った。13時20分に出発点に無事帰還。ちょうど4時間の山スキー、振り返ると登り、滑降どちらにも大きな課題の残るBCツアーであった。技術や知識習得のためには、プロガイドの指導を仰げる団体ツアーに申し込むのが順当とはわかっているのだが、グループ登山には今ひとつ馴染めない。ゲレンデスキー同様、試行錯誤しながら自己流をこつこつと続けてみようかと思う。


下山後のゲレンデより眺めるハクノリと小蓮華岳



行動時間 4時間
登り 2時間55分、下り1時間

 

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