八海山    1778m 新潟県  二百名山      
      

20126月13(水)

 梅雨入りしてからというもの、すっきりした天気に恵まれない。季節がら仕方ないこととは言え、山歩きがままならずフラストレーションが溜まる一方だ。たまに青空が覗く時は別の用事があったりして、山のフィトンチッドを浴びることなく二週間が過ぎてしまった。しかしようやく待ちに待った晴天の予報、但し晴れマークは新潟県だけの限定サービスだ。このチャンスに越後の名峰、八海山を歩くことにした。

 早朝
5時に屏風道の山口登山口に到着。先着の車は見当たらない。前回の甲斐駒に引き続き、今日も一人占めの山になりそうだ。登山届を提出がてら二日前に登った方の記録をカンニングすると、屏風道七合目の雪渓でルートを見失い引き返したとある。山と高原地図にも危険マークが付いていて、やはりこの雪渓が一番の難所らしい。


         いかにも霊山といった感じの登山口                     二合目からスタート


 5
20分に出発。二合目の道標から河原へと降りた。右岸へは篭に乗って渡れるようにワイヤーが張ってある。水流は左程でもないので、石伝いでも渡渉できそうだ。ところが、どこも対岸の石との距離が微妙なのだ。立ち幅跳びで跳び移れそうなのだが、瞬発力の衰えつつある我が身、目測通りには体が反応してくれそうにない。無理をせず、上流の渡りやすそうな個所を探して何とか靴を濡らさずに渡渉することができた。


           一人乗りの渡し篭                             大した水量ではないのだが、、、


 その後は、しばらく杉林のなかを緩やかに登る。春の妖精カタクリがまだ花をつけているが、そろそろ終盤といった感じ。高度が上るにつれてイワカガミが多く目につくようになってきた。高度
700m辺りで雪渓をトラバース。落ち葉や土で汚れた雪渓がずっと上流まで続いている。足元ばかりに注意が行って対岸に渡るポイントを見過ごしたらしい。GPSでルートチェックすると、登山道は雪渓を離れ左岸の小尾根を通っている。引き返しながら落ち付いて観察するとちゃんと対岸にピンクのテープがあった。


              杉林のなかを行く                                雪渓を渡る


 尾根筋に上ると途端に見晴らしが良くなった。清滝が割れた雪渓に落ちているのが遠望できる。
4合目を過ぎるといよいよ鎖のオンパレードだ。もうこれでもかと言う程、文字通り鎖が連鎖する。鎖が無いところでも相当な急こう配、ストックをザックに括り付け四つん這いで登る。


               雪渓の奥が清滝                          ここから急登が始まる


 急峻な登りで大汗をかいているうちに、更に展望が開けてきた。雪渓と緑のコントラストが素晴らしく、左手には岩峰が見事な景観をつくっている。山肌には幾筋もの滝が落ちていて、日本庭園そのものだ。


             四つん這いで登る                        屏風道は下山禁止というのも肯ける



            なかなかの風情では?                        こうした滝は残雪期だけだろうか



後方の山並みは巻機山だろうか


 夢中で鎖と格闘していると道は山腹をへつって沢筋へと降りて行く。ここで件の七合目の雪渓が出てきた。この雪渓を斜め上方にトラバースしなければならない。軽く
40度は越えていそうな斜度があり、はるか下方にはクレバスが大きく口を開けている。万一滑落でもすればとても助かりそうにない。

 じっくり観察すると、上部には土が出ており高巻すればアイゼン、ピッケルを使わずにトラバースできそうだ。しかし、急斜面に加えて、手掛かり、足掛かりが乏しそうで高巻も容易ではない。思案の結果、冬山装備で正面突破することにした。


       写真で見ると大したことないのだが、とても急                渡り切った所から下を眺める


 雪は堅く締ってピッケルの石突きも刺さらないほど。ピックを打ち込んでホールドを確保しつつアイゼンの前歯を蹴り込み一歩一歩慎重に登って行く。ところが、雪渓の真ん中辺りまで来たところで、あろうことか右足のアイゼンが外れてしまった。冷や汗をかきながら一旦雪渓の端まで水平移動。ここで紐を締め直して登行を再開、何とか無事に渡り切ることが出来た。軽量化のためアルミアイゼンを持ってきたのだが、コバの浅い夏用のブーツにはフィットしなかったようだ。命を託す道具なのに、事前チェックがお粗末だったと深く反省。

 難所を過ぎると再び鎖場が続く。
8合目を過ぎると、少し平坦になってきて、ようやく四足動物状態から解放された。向かう先の稜線には避難小屋が見える。登山口から3時間半かけて9合目に到着、ここで初めて小休止した。正面には越後駒ヶ岳が大きな山容を見せている。鉄兜のような中ノ岳も指呼の距離にある。


           妙義山を思い出させる風景                          稜線直下には残雪



             避難小屋が見えてきた                        9合目の千本檜小屋



すっかり夏姿の越後駒ヶ岳


 見る見るガスが上ってきたので休憩もそこそこに先を急ぐ。八ツ峰には地蔵岳から始まって大日岳まで八つのピークが連なっている。何れのピークも登りも下りも鎖や梯子を使っての登降が必須で、足元の両側がスッパリ切れ落ちているので高度感も半端ではない。中には垂直に近い鎖場もある。スタンスをきちんと確保して脚力を活用しないと腕力が持たない。


大日岳、バックは中ノ岳



            飲酒者には笑ってしまう                            両側はすっぱりと



               かなりの高度感で                             鎖場が連続する             


 五つ目の釈迦岳を過ぎると迂回路との分岐点になる。ここに縦走路通行禁止の貼り紙があって愕然とした。先達の登山記録から登山道崩壊による通行止めのニュースは知っていたが、それは昨年の話だ。まるまる一年も経ってまだ修復されていないのだろうか。


            釈迦岳から大日岳                           大日岳の先は通行禁止とのこと


 そうこうしている間にも、ガスはどんどん濃くなる一方だ。摩利支岳を過ぎる頃には、越後駒ヶ岳や中ノ岳はすっかりガスに包まれてしまった。
10時ちょうどに大日岳に到着。さてこの先どうするか。当初の予定では八海山最高峰の入道岳をピストンするつもりだったのだが。。。ともかく行ける所まで行ってみよう。


     大日岳を過ぎて入道岳との鞍部へと向かうと                      通行禁止のロープが


 再び鎖を握って鞍部に降り立つとロープで登山道が閉鎖されていた。確かに登山道は大きく崩落し断ち切れている。後ろ髪を引かれる思いはあるものの、入道岳は断念、再び大日岳、摩利支岳と越えて迂回路との分岐に戻った。

 迂回路は完全に残雪の下で踏み跡も見当たらない。さて再び思案の時。屏風道を下山するのは論外なので、ロープウェイの山頂駅まで縦走するか、それとも迂回路の残雪を歩いて新開道に出るかのどちらかだ。鎖のアップダウンにいい加減食傷していたので、迷わず後者を選択した。

 ガスで視界が閉ざされているのでGPSで現在地をチェックしながら進む。雪渓は次第に斜度を増してきた。残雪はずっと下まで続いており、滑落すればタダでは済みそうにない。ピッケルで支点を確保しつつ慎重に歩を運ぶ。やがて通行止めのテープが張られた入道岳への道と新開道との分岐に着いた。


          トラバースした雪渓を振り返る                    大日岳方面はロープで通行止め



       稜線はすっかりガスの中に隠れてしまったが                   緑に癒されて下山


 
その後はブナの新緑を楽しみながらのんびりと降る。山口登山口には12時45分に帰着。着替えを済ませて一息ついている頃に、トレランの若者二人が下山してきた。聞けば私と同じ屏風道、新開道のコース。7合目の雪渓は高巻きして切り抜けたそうだ。


出合った花達

                イワカガミ                                 オオカメノキ?



                 石楠花                                 シラネアオイ     

行動時間  7時間25
歩行時間  7時間


後記

 帰宅してから改めてネットの登山記録をチェックすると、入道岳への崩落個所を草を掴みながら無理やり通過している人もいた。ちょっと覗いただけで駄目と判断して引き返したのは早計だったかも知れない。しかし所詮自己満足のお遊び、徒にリスクを冒す必要はない。八海山最高峰の入道岳を極めることは出来なかったが、八ヶ峰を縦走したことをもって二百名山の一つをクリアしたこととする。

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