権現岳  長野県 2715m   
   

 
 

2009411

 中央道から仰ぎ見る八ヶ岳連峰のなかで、編笠山や西岳の背後に聳える権現岳は、前者が女性的であるのにいかにも対照的だ。「権現」とは、仏や菩薩が民を救うため化身するという意味らしい。しかし本来の意味はともかく、この言葉の持つイメージはその山容通り「マッチョ」と感じるのは私だけだろうか。


 自宅を午前3時半に出発、中央道から八ヶ岳高原ラインへと進む。当初予定していた観音平へは林道のゲートが閉鎖されていたので、それではと回った天女山もやはり閉鎖されていた。この山の4月中旬はまだ冬ということか。下調べが甘かったと反省。いずれにしても、これ以上車で標高を稼ぐことは断念せざるを得ないようだ。天女山入口のゲート前のスペースに車をとめた。歩き始めは午前65分。しばらく晴続きだったので乾ききった登山道は埃っぽい。車道をショートカットし一旦天の河原駐車場に出るが、ここから再び登山道に入る。


この辺りには雪はまだ無い



赤岳の雄姿が素晴らしい


 登山道には少しずつ踏み固められた残雪が現れてくる。高度が上げるにつれて常に雪の上を歩くようになって来たため、6本歯の軽アイゼンを装着した。この日の下界は今年初めての夏日だとかで異様に気温が高い。数歩に一回の割合で雪面を膝まで踏み抜く有様で歩きにくいことこの上ない。それでも、ようやく三ツ頭に到着、眼前に広がる権現岳の雄大な展望に少し気をよくする。

 ここからは、はい松の生え際など雪の深そうな所を避けて進むが、油断すると膝まですぐに沈んでしまう。今日のコースは私が一番乗りのため、先人のトレースもない。踏み抜きを繰り返しながら進むうち、樹林帯のなかでとうとう片足を腿の付け根まで踏み抜いてしまった。しばらく格闘するが、重い雪でどうあがいても抜け出せない。靴を雪中に残したまま、せめて足だけ引っ張り出せないかともがいたり、枝に掴まって全力で体を引っ張り上げるが、どうしても駄目だ。こんな遭難は前代未聞だと情けなくなる。色々試行錯誤したあげく膝を梃にしたところ何とか引っこ抜くことができた。この間、1時間にも感じたが、せいぜい15分程度だったろうか。

 
 権現岳が迫ってくる

権現岳直下の様子


 次の危機は頂上直下の雪渓トラバース。ネットでチェックするとここはコース一番の難関らしい。高い気温に雪が緩んでスタンスが極めて悪い。雪の急斜面を途中まで進むがズブズブの雪でアイゼンがきかない。ピッケルを持参して来なかったので手がかりもなし。いよいよ傾斜がきつくなったところで、ずるずると滑り落ちてしまった。幸い3mほど下にあったダケカンバにしがみついて止めることが出来たが、その際、腕に大きな切り傷をつくってしまった。試みに上部の岩に取り付いてみたものの、とても登れる状況ではない。夏道に付いている鎖も雪に埋もれて使えない。残念だが引き返すしかないか。しかし落ち着いて雪渓をよく観察すると潅木がちょうど良い具合に雪から顔を出している。これを伝ってトラバースを試みた。高度は少しロスしたが、これで何とか難関を乗り越えることができた。

 

 後はいやらしい箇所はない。岩交じりの斜面にアイゼンをガリガリいわせながら登り11時丁度に頂上に立った。大きな剣の刺さった狭い頂上である。ここで昼食とするが、帰路をどうしようかと頭が一杯で、気も漫ろである。少し休んで下山開始。先ほどの滑落の恐怖感から同じところは通りたくない。トラバース地点に着いてから落ち着いてもう一度観察すると雪渓下部のはい松帯まで下れば大丈夫なようだ。雪渓への降り口がいやらしかったが、その後は何事もなく無事尾根筋まで戻ることができた

 やれやれと一息ついたところで本日初めての登山者と遭遇した。聞けば小生のトレースの後をついて来たらしい。後続のパーティもいるが三ツ頭から引き返したとのこと。トラバースに気をつけるよう声をかけて別れた。その後は引き返す途中の二人組み、単独の2パーティを追い越して三ツ頭へ。いい調子でどんどん下っていくうちに踏み後を見失い、別の尾根をしばらく迷い込んでしまう。すぐにミスに気がつくが凡そ15分をロスして再び同じ連中を追い越すはめになった。スタート地点には1415分に到着、合計8時間10分の山歩きとなった。雪面を数え切れぬほど踏み抜いた割には疲労はそれほどではない。緊張されられる場面があったせいだろうか。総じて素晴らしい景色に加えて色々体験できて充実の山行だったと思う。

 今回の反省は4月の山を甘く見たこと。下調べも不十分であったし、残雪期と言えどもピッケルと10本爪以上のアイゼンが必携だ。腕の傷跡はその後もなかなか消えず、見るたびに慎重に行動せねばと己に警告を発してくれている。


赤岳と阿弥陀岳


甲斐駒ケ岳

 
南アルプス北部

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