2020年6月20日(土)
山とスキーの相棒、群馬のKさんは一足先に県またぎが解禁されたことを受けて、鳥海山や針ノ木雪渓、白馬大雪渓など残雪を求めて各地を転戦しており羨ましい限り。一方首都圏に住む私の方といえば、近場で少し羽を伸ばすのみでじっと我慢の子。しかし漸く今月19日に「慎重に」という但し書きが付きながらも移動自粛が解かれたので少し足を伸ばしてみる気になった。
今回向かうのは富士山。例年板納めはこの日本最高峰と決めていたのだが、今年は五合目へと向かうアプローチ道が軒並み閉鎖されたため、一合目から板とブーツを背負って歩かねばならない。根性無しの私はスキー滑降を断念、雪渓の様子見がてら歩きに徹することとした。出発点は御殿場市の水ヶ塚公園。神奈川県をまたいで久々の静岡県入りだ。
兎も角長丁場の上、標高差は2400m。所要時間が読めないので少しでも早出しようと午前4時15分に薄明の水ヶ塚を後にする。ヘッデン下山は避けたいので、山頂に到達出来なくとも正午をタイムリミットにして引き返すことにした。
水ヶ塚公園より
須山口登山歩道は初体験。湿潤な気象条件によるものか、地衣類が地面や倒木を覆って日本庭園のような素晴らしい景観を創り出している。さらに歳を重ね険しい山歩きががままならなくなったら、こうした自然庭園を散策するのも悪くない等と思いながら呑気に歩を進めていると突然のトラブル発生。以前ジョッギングで痛めた左足の脹脛に刺すような痛みが走ったのだ。歩き出して間もないのにDNSかとルンルン気分はどこかに消し飛んでしまった。それでも少し休んでゆっくり歩いてみると鈍い痛みはあるものの、我慢できないほどではない。行けるところまで行って引き返そうと腹を決めた。
この景色を鑑賞できただけでも来た甲斐があった
愛宕山を振り返る
標高が上がって植生が変化してきた
本命登場
左足を庇いながらの辛い行軍。それでも標準CTを少し短縮し2時間50分で第一火口分岐点に着くことができた。目の前には宝永山。植生の全く見られない黒々とした山容は今にもマグマが噴出しそうで、いつ見ても異様だ。ここから左に舵を切って六合目へと向かう。
不気味な宝永山
六合目へトラバース開始
あっと言う間にガスが出てきた
通常であればこの辺りの標高からスタートするのに、この時点で標高差1000mを登り終え、かなり足に来ている。ここで体調を顧みてGo/No goの判断を行う。懸念される左脹脛の痛みは良くも悪くもなっていない。脚の具合は決して思わしくないが、今後加齢による体力低下もあるし、一合目から登るチャンスとモチベーションは与えられないかも、、、などと思いを巡らせ、結局いつもの根拠薄弱「何とかなるだろう」式極楽蜻蛉ぶりを発揮して続行することに決めた。
六合目からは足の調子もやや改善。単独二人を追い抜くなどして何とかマイペースを維持できた。しかし八合目を越える辺りから、今度は高度の影響が出てきた。次第に荒くなる呼吸の割には酸素が取り込めず、亀の歩みに。
七合目から雪が出てきた
縦溝も無いフラットなスロープ 落石も少ない
八合目を過ぎたところ
九合目五尺を過ぎたところで山頂直下からの雪渓をキックステップで慎重にトラバース。毎度のことながら浅間大社の鳥居を視野に捉えてからが辛い。息を整えながら一歩一歩前進。11時30分、外輪山の山頂に立つことが出来た。相前後して単独氏が登頂。彼は御殿場口から登ってきたそうだ。
九合目五尺から上部の様子
今回はパスした剣ヶ峰
駿河湾を俯瞰
最初はそのつもりだった剣ヶ峰往復は取り止め。予定のタイムリミットを越えてしまう、、、とは言い訳で実は既にヘロヘロ状態、下山に必要な体力温存を最優先にしたかったのが本音。山頂は15分程の滞在で切り上げ下山にかかる。
山頂直下の雪渓は10本歯のアイゼンを履き安全第一でトラバース。その後は忍の一字の太腿試練。それでも雪渓の様子はしっかり観察しておいた。
元々雪解けの早い南斜面、なおかつ暖冬の今シーズンにあっても6月も終わろうという時期に山頂直下からスキー滑降が楽しめそうだ。しかし、最初の雪渓は宝永山の上部で消えるため、途中で尾根を乗越してスキーヤーズライトの雪渓に乗り換える必要がある。一部スキーを担ぐ面倒を覚悟すれば、七合目辺りまでは何とか滑降できそうだ。いずれにしても五合目の富士宮登山口へのアクセスがクローズしている現状では、スキーとブーツを一合目から担ぎ上げる気合の入ったスキーヤーだけに与えられるプライベートゲレンデと言えそうだ。
山頂直下より ブル道開通工事で一部雪切れあり
須山口登山歩道入り口
富士山は下山時に晴れていた試しがない。今回も例外にあらず、八合目から雲海に突入。須山口登山道もすっかり深いガスに飲み込まれ、さらには時折雨がパラつく冴えない天気となってきた。疲れた足に鞭打ってひたすら長い道程を下り続ける。16時丁度に水ヶ塚に帰着。
一合目からの富士山は実に遠かったというのが正直なところ。薄い酸素に加え、想定外の足の痛みに耐えながらの、標高差2400m、歩行時間12時間弱は、辛かった分だけ達成感と満足感は大きい。加えて、これまで中腹からの山頂到達にしか関心が無かった富士山の山麓歩きが捨てたものではないと分かったことも一つの収穫だった。
歩行時間 11時間45分
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