2017年3月30日(木)
越後駒ヶ岳には過去4回登っているが、今回ほど山頂を遠くに感じたことは無い。いつもは、無心にピークを目指すことが出来るのに、この日は何時何処でギブアップしようかと何度考えたことか。無慈悲なほど容赦ない暑さ、粘り着くような春の湿雪の重さ、等々、色々理由はある。しかし本当のところは、歳と共に基礎体力が低下している所為だろう。少し条件が悪くなると加速度的に体力の消耗が進み、これまでのように踏ん張りがきかなくなるのだ。認めたくはないが、山の歩き方をそろそろ見直さないといけない時期が来ているのかも知れない。
午前5時に道の駅「湯之谷」でKさんと待ち合わせ。ここから同氏の車に便乗してシルバーラインへと向かう。平日のせいか、6時のゲートオープン前に並んだ車は3台のみ。しかも銀山平方面は私達だけなので、今日は貸し切りの山歩きになりそうだ。
長いトンネルを抜け、銀山平に着いて吃驚する。今年ほどの積雪量はかつて見たことが無い。道は高さ4,5mはあろうかという雪の回廊と化し、例年駐車する石抱橋も深い雪の下。除雪車に遮られて近づくこともできない。やむなく少し銀山平森林公園方向に進み、橋の手前の除雪スペースに車をとめた。
雪の回廊はまるで立山のよう
石抱橋から先は除雪されていない
身支度を終え、6時30分にハイクアップスタート。この時間帯、雪面は良く締まっておりとても歩き易い。柳沢には1時間15分程で到着。いつものように2番目の支尾根に取り付く。日差しは強いものの、まだ雪は締まっているのでのっけから始まる急坂にクトーが良く効いてくれる。
雪は良く締まって歩き易い
急坂を直登するKさん
標高1000mを越えて稜線に出ると、越駒を始めとする越後の秀峰が圧巻の迫力で出迎えてくれた。ここまでは順調だが、そろそろ異変が始まる予感。カンカン照りの陽気、遮るものの無い南東斜面、それに照り返しも相まって早くも全身汗まみれだ。寒さに慣れた体にいきなりこの暑さは勘弁してほしい。額から噴き出た汗で日焼け止めが流れ落ち、目が染みて仕方ない。
えらく遠くに見える越駒
この頃はまだ元気いっぱいの私
同上
道行山直下の急登でクレバスに嵌り、ここでも脱出に大汗をかく。もう我慢も限界と、なりふり構わずインナー一枚になった。雪は次第に緩みスキーが沈み始めたが、元気なKさんが先頭でがんがんラッセルしてくれるので助かる。
ここはいつもクラックが入っているところ
クラックに落ちて、脱出しようともがく私
道行山山頂から越駒
滑降予定の白沢を観察 デブリも無くきれい
小倉山のピーク直下は、覆いかぶさる様な雪庇を見上げながらのトラバース。ここは何度経験しても心安らかではいられないところだ。百草ノ池を過ぎたところで白沢の下降ルートを見定める。全体が俯瞰できなかったせいか、私は白沢を滝ハナ沢と見誤りとんだ赤っ恥。そんなおっちょこちょいの私がガイドだったら遭難必至だ。
雪庇が張り出した小倉山
前駒の急登に備え、再びクトーを装着する。ところが、粘着性の雪がクトーの周辺に団子となり付着。雪を落としても落としてもすぐに付くので始末に負えない。灼熱地獄にプラス錘付き足枷の責め苦だ。前駒から仰ぎ見る駒の小屋の何と遠いことか。ここまで来たら意地でも登るしかないと、老いの一徹パワーを振り絞り、急坂を一歩一歩喘ぎ登った。
前駒を喘ぎ登る私 せっかくの絶景は目に入らない
駒の小屋への登り
一階部分が雪に埋没した駒の小屋
越駒山頂到着は予定を大幅に超えた12時45分。昨年はオツルミズ沢を滑降する余力を残していたが、今年はそんな元気は、どこを探しても欠片もない。
やっとのことで山頂到着
荒沢岳をバックにKさん
午後1時5分に滑降開始。雪質もまあまあで疲れた足でも何とかコントロールが出来てスキーが楽しめた。前駒のピークまで降りたところで単独のボーダーと出会った。彼は白沢を遡行してきたとのこと。この山域を縄張りとする地元の方で色々と参考になるアドバイスを伺うことが出来た。曰く沢が右に屈曲するV字谷辺りは100mほどホールだらけなので高巻きが必要。ハードバーン上に30cm位の新雪が積もっているので雪崩れやすい。云々。実際に行ってみると言葉通りの状況だった。それに彼の残してくれたスノーシュー跡にも大いに助けられた。
山頂を後に滑降開始
山頂から滑降
駒の小屋からジャンプターンで滑降するKさん
前駒から道行山経由で下山するというボーダー氏に別れを告げ下降を継続。愈々白沢に向けて滑降。スキーの取り回しに難儀する重い湿雪を事も無げに小回りで降りていくKさん。私は大回りで転ばないよう慎重に滑降する。
白沢へ滑り込むKさん
文字通りの白沢
滝ハナ沢を隔てる小尾根を右に見てボウル上の白沢へと滑り込む。沢幅は次第に狭くなり右にドッグレッグすると、ボーダー氏のアドバイス通り沢割れしていた。ここで再びシールを貼り左岸を高巻く。この斜面の雪は極めて不安定。先を行くKさんの足元は、行く先々で板状に崩れスラフとなってV字谷の底に滑り落ちていく。
迫力満点
沢は次第に狭くなり、、、
やがて穴だらけに ここから左岸を高巻く
V字谷の底は確かにマンホールだらけ
ハードバーン上の新雪が極めて不安定で、、、
すぐに崩れ落ちる
途中、本日出来立ての生々しいデブリや今にも雪崩れそうな急斜面のトラバースもある。早く駆け抜けてしまいたいが、気持ちのみが先行し足がついて来ないのがもどかしい。ようやく開けた沢に降り立ってやれやれと人心地がついた。振り返ると山には霞がかかり雲に覆われ始めている。予報通りの展開で、やがてポツポツと小雨が降り始めた。
高巻きを終えてフラットな川床へ
平坦な川辺には、残念ながら自動運転になるほどの斜度もトレースも無いので、ひたすらヒールフリーで歩き続ける。骨投沢辺りで先ほどのボーダー氏が休憩していた。的確なアドバイスに再びお礼して下山を継続。グリコーゲンを最後の一滴まで使い切り、車に帰着したのは4時40分。昨年同様、今回もシルバーラインのゲート閉鎖が心配になる下山時刻となってしまった。
行動時間 10時間10分
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