大無間山  静岡県 2329m    二百名山 
  
 201158

 連休最終日の日曜日は高気圧に覆われて晴れるとのこと。このところ関西や北陸など遠出が続いたので今回はやや近場を歩くことにした。選んだ山は以前より気になっていた静岡県の「大無間山」。キーワードは、日本二百名山、赤石山脈の深南部、原生林、玄人好み、渋い、等々、いかにも興味がそそられるプロフィールの山なのだ。日帰りするには標準行程が昭文社の地図によれば14時間超とかなりハードだが、早出をすれば何とかなるだろう。前夜は夕食を早めにとって仮眠、日付が変わった頃に自宅を出発する。

 東名から国道
362号線、さらに388号線へと進む。曲がりくねった車一台がやっとの狭い道が延々と続くが、真夜中なので対向車をあまり心配しなくてよいのが勿怪の幸い。ちょっと飛ばし過ぎたのか予定よりも早く午前4時過ぎに井川湖畔に到着した。ネットでチェックしていた「てしゃまんくの里」の駐車場に車をとめた。ちなみに「てしゃまんく」とは井川の里話に登場する日本一の力持ちのことだそうな。ここには他県ナンバーの車が数台。お隣の車は埼玉からで車中泊だったらしい。私が車の外でごそごそ身支度を始めるとオーナーが起きだしてきた。昨日は黒法師岳に登って、今日は連荘で大無間山だとか。昨日は雨だったはずで、よく頑張ったなと感心する。

 今日は長丁場なので、お先に失礼して、まだ暗い
420分に車を後にした。国道を少し登って神社らしきところを歩きだしたが、ヘッドランプに浮かび上がってくるのは、どうみても山仕事の作業道だ。しばらく暗闇のなかをうろうろしていると、ネットで見覚えのある鳥居の前にひょっこり出た。やれやれ出発点に着く前に15分も無駄にしてしまった。鳥居をくぐり山道をしばらく登っていくと道路にぶつかった。これをショートカットし、さらに登ったところが登山口だ。登山者カードの提出所がある。


            諏訪神社の鳥居(下山時撮影)                  登山口脇の登山者カード提出箱


 杉の巨木が立ち並ぶ林のなかを登り始めた。時折、大きな爆発音が聞こえるが何だろう。初めハンターの鉄砲の音かと思ったが、どうやら真犯人は鳥追いの爆音機らしい。朝の
5時前から、これほどの騒音は安眠妨害になりそうだが、この界隈の住民は平気なのだろうか。

 初めのうちはジグザグに歩きやすいと思っていた道の傾斜が次第に増してきた。段差の大きなところは木や根に掴まりながら登る。
1402mのピークを越えて一旦下りとなるが、鞍部からは再び急な登りが続くのだ。辺り一帯にはイワカガミが群生している。残念ながら、まだ時期が早過ぎたようで楽しみにしていた可憐な花はつけていない。

 小無間小屋には
650分に着いた。登山口の標高は660mで、ここは1796m。標高差は1136mなので丹沢の大倉尾根を登り終えたといったところだ。大抵の山ならこれで一丁上がりだが、大無間山の先は長い。行程はまだ始まったばかりなのだ。ここからは大無間山がはるか彼方、ウンザリするほど遠くに聳えている。

 避難小屋のドアを開けて中を覗いて見ると、広くは無いがこざっぱりした部屋で
10人程度は宿泊できるだろう。屋根の下に雨水桶があったが、この水を炊事用に使うには相当の勇気が要りそうだ。


         井川湖周辺は雲海の下                          延々と続く杉林を黙々と登る



               避難小屋                           大無間山はうんざりするほど遥か彼方


 ここから再び稼いだ高度を返上してしばらく下り、本日の核心部である鋸歯へと向かう。地図上ではあまり読み取れない、結構なアップダウンを強いられる。一つ目のピークをやっとの思いで登り詰めると目の前に高く聳える次のピークが現れるのだ。しかも鞍部は痩せていて大きな崩壊があるので緊張させられる。三つの大きなピークを越えた後は、さらに小無間山への容赦ない急登が控えている。乳酸がそろそろ溜まってきた足を機械的に動かし続け、小無間山には
840分に到着。大無間山へはまだ半分の行程だが、もう既にかなり足に来た。ここで菓子パンを食べて糖質を補充する。


         ピークが次から次に現れる                            小無間山はもうすぐ



           崩壊の進む痩せ尾根                           小無間山に到着


 疲れた足に鞭打ってまた歩きだした。しばらく緩い上り下りを続けるので唯一楽な行程だ。周囲には次第に残雪が増えてきた。標高が
2000mを越えた辺りから夏道は消えて完全に雪に覆われてしまった。これが実に始末の悪い雪なのだ。比較的堅そうなトレース跡にそっと足を乗せるのだが、非情にもズボッと腿まで踏み抜ける。嵌った足を引き抜こうともう片足に力を入れると、またズボッ。これを限りなく繰り返し、どえらく体力を消耗してしまった。傾斜も緩く無雪期であれば短時間で到達できるはずの頂上が無限に遠く感じられた。

 通常は登りで体力の
5割、下りで4割、残り1割は非常時に備えての予備といった体力の計画配分なのだが、今回は登りで7割方を消費してしまった感じだ。長い道程を越えてようやく大無間山の頂に到達。結局目標としていた5時間を大きく超過して6時間も要してしまった。樹林に遮られ山頂には展望が無い。山頂近くで二箇所ほど南アルプス南部の展望が大きく開けるのが救いだ。雪を頂いた聖岳方面はやや雲がかかっている。強い風が吹き付けてくるので、ゆっくり山座同定をしていられないのが残念。山頂で2回目のランチを食べて再度エネルギー補充し下山の途につく。


           標高差の無い快適な尾根                     北には南アルプスの主役達が



まだまだ遠い大無間山



光岳方面



        踏み抜きに消耗させられる                             大無間山頂


 悪夢のような残雪だが、今度は自分の足跡を忠実に追い、少なくともサプライズの踏み抜きはしないで済んだ。残雪地帯を抜けて緩やかな尾根を辿っていると、若い外人さん二人が登ってきた。何と足元はズック靴、これではこの先かなり苦戦しそうだ。雪の状態を説明すると、若者達は「ガンバリマース」と言って元気よく登って行ったが大丈夫だったのかな。小無間山までが随分と長く感じたのは、先ほどの残雪との格闘で体力消耗が激しかった後遺症だろうか。鋸歯のピーク超えもしんどかった。おまけに新調した登山靴がやはり足にフィットしないようなのだ。下りになると右足のつま先が我慢できないほど痛い。これを庇って歩いているうちに左膝までおかしくなってきた。膝に気をとられてうっかり躓き、顔面を立ち木に強打する始末。

 悪態をつきながら三つのピークを越えて再び小無間小屋へとたどり着いた。その先のテント場には着いたばかりの登山者が
2名休んでいた。彼らには明日は出来るだけ気温の低いうちに山頂へ向かうことを強く推奨。再び先を急ぐ。但し急いているのは気持ちだけ。足は意のままにならないのだ。ここから泣きの標高差1100mの下山になる。左足つま先にも痛みが伝染し、足の指は全員が悲鳴を上げている。左膝はさらに痛みを増しているし、太腿四頭筋もふんばりも利かない。
 
 大無間山の無間とは阿鼻叫喚地獄、つまり諸地獄中で最も苦しい地獄で間段なく剣樹、刀山などの苦しみを受けることと広辞苑にある。まさに実地に無間を体験しているじゃないか。ともかく足を前に動かし続け、ぼろぼろになって
16時に駐車場に帰着した。結局最後まで隣の車の御仁とは合えなかった。途中で引き返したのだろうか。


のんびりした井川湖畔の集落


 大無間山は、体調や装備が万全でも累積標高が
2400mを超える厳しい山、それに加えて踏み抜き地獄の残雪と、どうしても足にフィットしないブーツ、それにおそらく老化による脚力低下も加わって無間地獄を味わったのだ。おまけに帰途は東名の渋滞地獄にも苛まれて夜遅くの帰宅となった。運転と山歩きで24時間近いハードワーク、ここまでして日帰りする意味はあったのかな〜。今回はホント疲れた。多分二度目は無いな。

行動時間             11時間20分
実歩行時間
          11時間

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